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友の居所

モーム車が日々行き交うヘッセルの大通りは、ひびが入った石畳が盛り上がっていて少し歩きづらい。

それは帝都の舗装された道を歩くことに慣れてしまったのか、それとも軍靴でこの道を歩くのが初めてだからなのかと、ミディアルは感傷じみた想いを抱きながら故郷の町を歩いていた。

(まさかこんな形でヘッセルに帰ってくることになるなんてな…)

エルフィン部隊は天地の断崖を迂回する街道を駆け抜け、ヘッセルで休息を取ると同時にミリカ=タリア姫の情報を集めようとしていた。

彼女達が生きているなら断崖に沿って樹海を抜け、この町にたどり着いている可能性がある。セディルはヘッセルの住人なのだから、その確率はより高まるとミディアルは考えていた。

しかし角を曲がれば養父母と幼なじみの家があるという所まで来て、足が急に重くなる。

「どうしたんすか、ミディアルさん?」

弓を背負ったキーラン・ベンフォードが、それに気付いて声をかけてきた。

彼は武門の名家の出自で、十四歳で部隊に配属された隊でも最年少の兵士である。頭一つ分下から見上げてくる、短く切ったツンツン頭と丸い目があどけない。

ヘッセルに着くとステラは二人一組で兵を散らし、ミディアルはこの弓兵の少年と行動することになったのだった。新人同士で年も離れていれば、いがみ合うこともないだろうという彼女の配慮が見える。

家を出て丸二年―――必死に頑張って城の警備兵として雇われることが出来たが、まだあの時宣言した両親の遺志を継ぐところまではとても行き着いていない。

皇帝の近くを守っていたという両親に比べ、自分は皇帝に目通りすらしていないのだ。それどころか皇女を窮地に陥れる始末である。

セディルの言葉が脳裏に浮かんだ。



――自分で納得いくまで二度とここには帰れないと思え。



(…僕が半端だと思っている内は、まだ家に帰る訳にはいかないな)

「キーラン、こっちは人通りが少ないみたいだから別の道を行こう」

ミディアルがそう促して他の道を行こうとした時、一人の青年が近付いてきた。

「すみませーん、そこの兵士さん達。ちょっと小耳に挟んだんだけど、女の子を捜してるんだって?」

ミディアルよりいくらか年上らしい砕けた口調のその青年は、ヘッセルではあまり見かけない丸いサングラスをかけている。

こちらの訝しげな視線に気付いて、よりヘラヘラと顔を崩した。

「あ、ごめんね急に。そこの店のおばちゃんから『帝都の兵士が何人も来て誰かを捜してる』って聞いてさ。もしかしたらこないだうちの妹が言ってた人かなって思って」

「どんな人でしたか?」

見た目は軽薄そうだが、向こうから言ってくるということはかなり有力な情報なのかもしれないと思い、ミディアルはそう尋ねた。

「妹が数日前に十七、八歳くらいの女の子から道を聞かれたんだよ。その子が身なりは良いのにやけに服が汚れて疲れてる風だったから、気になって聞いたら断崖沿いの樹海から来たって言うんだって。名前までは聞かなかったけど、髪の長い可愛い子だったってよ」

キーランが丸い目を輝かせてミディアルを見上げた。

「これ間違いないっしょ!絶対に姫…じゃなくて、ミリカ=タリア様っすよ。すげぇ、これは絶対に手柄だな」

彼が今すぐステラに報告に行きたくてウズウズしているのが分かったが、ミディアルにはまだ気になることがあった。

「その女の子は僕くらいの年齢の男と一緒じゃありませんでしたか?」

そう尋ねると、青年はわずかに眉を持ち上げる。その反応にミディアルが疑問を持つ前に、彼は気さくな笑顔で答えた。

「あぁ、いたみたいだよ。青銀色の瞳をしたかっこいいお兄さんだったって」

ミディアルは胸の奥が熱くなるのを感じた。無事を信じてはいたが、いざそれを人の口から聞くとやはり不安を覚えていたのだと分かる。

安堵に力が抜けそうになる足を叱咤して質問を続けた。

「それで、二人はどこに行くと言っていたんですか?」

「調べることがあるからって、ローンデル坑道までの道を聞いてきたらしいよ。ほんの二、三日前だから馬ならすぐ追い付けるんじゃないかな」

「何でそんなとこに…まぁ、いいや。よっしゃ!今すぐその坑道に出発っすねミディアルさん。黒メガネの兄さん、ありがとね」

「あ、キーランちょっと…」

今度こそ駆け出したキーランを追おうとして、ミディアルは青年に礼を言う為に振り返る。しかしそこにもう青年の姿は無かった。

ミリカ=タリアもセディルも生きていた。そしてようやく二人に会える。

それなのに喜びで満たされていたはずのミディアルの胸には、わずかなトゲのような引っ掛かりがあった。

(一緒にいたのがセディルなら、どうして道なんか聞いたんだろう?)

ローンデル坑道に行ったことはなくても、ヘッセル街道を行けばいいことくらいここの住人ならば誰でも分かるはずだ。わざわざミリカ=タリアが先程の青年の妹に尋ねるという状況が想像できない。

「ミディアルさーん!早くしないと俺が手柄をひとり占めしちゃいますよ!」

「あ、あぁ。今行くよ」

手柄などはどうでもよかったが、今すぐ二人に追い付きたい気持ちは誰よりも強い。様々な疑問は再会してからで充分なはずだ。

走りながら実家のある方向を横目で見る。

(父さん母さん…そしてレオ。僕はまた行くよ。いつか胸を張って帰ってくるから)

振り切るように顔を正面に向け、ミディアルは逸る気持ちと共にキーランの後を追った。



行き交う人の中に立つ先程の青年が、小さく「バイバイ」と呟いたことなど、希望で一杯のミディアルには知るよしもなかった。



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