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ドクターのD [ss]

作者: toi jo



 D先生のDは医者ドクターのDだ。すなわちDは医者だ。かなり失礼だが、Dと名付けたのはゴキブリをGと名付けるのと同じ感覚だった。名乗らないDが悪い。


「なーんできみは、こーんなにも怪我するのかね?」

「さあ?」


 私は質問を無視してDの方に左足を投げ出した。


「きみ、足は分解するために存在しているのではないのだよ。足は包丁を落とすところではないのだよ」

「百も承知だが、D。どうやったらふくらはぎの真ん中に垂直に包丁が刺さるかしっているか?」

「ふふふ、知るよしもないね」


 Dは楽しそうに私の足に注射をする。医学的知識が皆無な私の脳味噌は注射を麻酔だと判断した。



「先生はモグリだから、稼げるだけ稼いで逃げるのが仕事なのだよ」


 Dは免許取得後の実習中に厄介な事件を起こして医師免許を永久に取れなくなったのだ。莫迦といえば莫迦なのだが、その事件と云うのがDを見守る担当だった某医師の手柄になっている。世の中矛盾している。


 注射が終わると刃だけになった3本のペンナイフを丁寧に引き抜く。血を見る眼が吸血鬼みたいで好きになれない。


 痛みはない。


「うーん。ダアツって所かな? 的はきみの皮膚?」

「はずれ、でもあたり」

「では、あたりだな」

「なんとでも」


 本当は射撃だ。


「傷のわりにふかいね。打ち込まれた?」

「なんとでも」




 Dの手際の良さには何を例えれば良いだろう。ブラックジャックは室内活動向けだから例えられない。Dは電話一本で日傘と鞄を持って出張医療奉仕活動をする。因みに一回5000円未満。5000円というのはDの食費だ。Dは食べても太らないから一回の食事の量が常人の数倍だ。


 Dの指が3つの傷を愛でる。傷口から進入して筋肉や脂肪を弄る。


「異常無し」


 ショッキングピンクのエコバックの中にメスや注射針が入っているのを見ると衛生管理と云う言葉を厭でも思い出す。そのエコバックの中から出てきた庶民の味方は愛されて数十年のロングセラー商品だ。傷口にペタペタと庶民の味方を塗る。


「この前の刺青といい、今回の刺し傷といい。きみの皮膚は奇跡としかいいようがない」

「まあ、刺青が消えるのは予想外だったけど」

「きみはどんな傷も皆無にしてきたのだろう? つい昨日まで頬にあったねこの引っ掻き傷は今頃瘡蓋になるのが普通ではないか?」

「浅い傷なら寝たら治る」


「きみについてはDNAから研究したいね」

「微塵切りにする気か?」

「ふふふ、きみなら生き返りそうだね」

「考えたくもない」


 エコバックの中に注射と庶民の味方をしまう。


「包帯する?」

「もちろん、分厚くいつもみたいに」


 Dはおもむろに太い私専用の包帯を取り出して何十にも巻く。


「足が二倍、腕も二倍。頚は三倍」


 呟くようにそう云うと、きみが痩せすぎなだけだと云われた。自分も痩せている癖にそれを棚にあげている。


 左足をDに預けて後ろへ倒れこむと金色の空が見えた。赤と青の縁取りが綺麗な空には雲一つない。



「何処を傷つければ一生モノの傷がつくかな?」

「なに? 残したいといいたいのか?」

「うん、一つぐらい。できればせんせーにつけて欲しい」

「なぜ?」

「残る傷は綺麗な方がいいから」


 金色が闇に侵食されていく。いつもより丁寧に包帯を巻かれている。


「今まで傷つけられた事のない部分ってあるか?」

「ないから困ってんだ」

「だろうな」


 そう云うとDは無言で3本のナイフを見つめはじめた。乾いた血がこびりついていて処分に困る。自殺未遂且つ殺人未遂、みたいな。そのナイフに半分に折った5000円札を乗せる。3つの点さえあれば平面は安定してそこにいる。



 お金をしまってナイフを背後に投げ捨てるとDはこういった。


「きみに傷をつける時は綺麗な傷を残すことを誓うよ」

「それがいい」


 私は笑った。


「暫くせんせーの家に泊まる」


 Dは笑った。


「それは決定事項でしかないのだろう」

「せんせーになら傷つけられてもいい気がする」


 Dは私を起き上がらせて抱きしめる。


「ぱぱはいやだよ」


 どこかとおくから声がして、声がした。


fin.

読了 thx!

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