第10話 ①
怒鳴りつけられたほうがどれだけマシだったか。
失望と批難交じりのエリックの言葉は、まるでリュシールには何の価値もないと言いたげなものだった。
やはり、政略結婚を円満に行うなんて無理なのだろうか。
「申し訳ありません、リュシール様。2週間は休暇だと聞いていたのですが…」
朝食が終わり、部屋にお茶を持ってきたカーラが、そう言って頭を下げる。しかし、カーラに謝ってもらっても何の意味もない。リュシールは笑みを浮かべて気にしていないと首を振った。
「いいのよ、カーラ。きっと急なお仕事だったのでしょう」
そう無理やり納得させて、リュシールは不満そうに口を曲げているミリアを振り返った。
「あとはミリアにやってもらうわ」
そう断ると、カーラはそれ以上弁解することなく退出していった。そして、ようやくミリアの曲げられていて口が開く。
「なんですか、アレ。失礼にもほどがあります! 昨夜のことだって―――」
激昂したミリアはそこまで言って、口を閉じた。
「いいのよ、初夜を放棄されたのは事実だもの。でも、きっと私に原因があるんでしょう」
『あなたが一番にすべきことは別にあるだろう』
エリックの、その言葉の意味さえわからないリュシールは、ただただ自分の不甲斐なさを悔しく思うしかない。
「ミリアは、何か思い浮かぶ? 領地や領民のこと以外に考えるべきこと。私が一番にすべきこと。それがわからないと、エリック様に謝りようもないわ」
謝らなくても、とぶつぶつ言いつつもミリアは、一緒に考えてくれた。
「子供を作る義務のことを指しているかと思ったけれど、なら昨日放棄するのはおかしいでしょう?」
もし、母と同じように子供を産むだけの腹という扱いならば、昨日の馬車の中での会話もおかしい。一体何がしたいのか、とリュシールはエリックの襟首をつかんで問い詰めてやりたい気分になった。
「私がすべきことって何なのかしら」
「エリック様と仲睦まじいフリをするって、と言っていませんでした?」
「でも、それなら使用人たちの前であの反応はおかしくないかしら。むしろ不仲さをアピールしているような態度だったわ」
「そうですよね」
「そうなのよねー」
リュシールには、エリックの行動に一貫性がないように思えて、そこから意図を推察することができない。だらりとテーブルにうつ伏せて、わかんないなーと呻く。
「不仲さのアピール……」
エリックの昨夜と今朝の態度で、使用人たちはリュシールに対して様々な反応をしていた。
戸惑い、好奇心、中にはリュシールを軽んじるような視線も交じっていた。
「まずは、この屋敷を掌握しろってことかしら?」
「え?」
「私への課題として、屋敷の主として使用人たちに認められろってことね!」
リュシールは、当初予定されていなかった花嫁だ。歓迎されるわけがない。それは、この国全体にも言えること。
まずは、小さな社会であるこの屋敷の中で、自分を認めさせて居場所をしっかり作れということね、とリュシールは解釈した。
「そ、ういう、ことでしょうか?」
意気込むリュシールの隣で、ミリアが若干不満げに首を傾げた。
そうとなれば、部屋に籠っていては、何の進展も得られない。リュシールは、ミリアを連れて屋敷を見て回ることにした。
拙作をお読みくださりありがとうございます。
文章量がいつもの倍となってしまい…。
第10話が二つに分かれることに。すみません><




