新しい翻訳で世界は変わる
「もう春眠暁を覚えずだよ」
カエデちゃんは眠そうな顔で言った。
「カエデちゃん。それは、春の夜は心地よく眠れるため、夜が明けたことにも気づかず、つい寝過ごしてしまうという意味のことわざだから、誤用だよ」
トマトちゃんは笑う。
「嘘、僕も春って眠いよねって意味だと思ったよ」
僕は言った。
「トマトちゃんはいつから知ってたの?」
カエデちゃんは相変わらず眠そうに問う。
「三週間前に、ラノベの冒頭に書かれてあったの」
トマトちゃんは笑う。
「ラノベも勉強になるんだね」
僕は呟く。
「そうだよ。いろんな人生が見られて楽しいし、豆知識がついたりする」
トマトちゃんは窓を開ける。
春特有の空気が部屋に入り、こもった部屋はさわやかになる。
(ぶーん)
空気清浄機が反応しだす。
赤いランプがつき、PM2.5の警告を始める。
「PM2.5ってさ。どこかの秘密結社の陰謀だと思うんだ」
カエデちゃんは、天井を見ながら呟く。
「なになに?どんな組織?」
トマトちゃんは楽しそうだ。
「なんだろう。人間を弱体化させるために作られた組織とか」
カエデちゃんも続ける。
「ごめん、目がかゆくなってきちゃった。窓閉めてもいい?」
僕は尋ねる。
「ごめん、ジュンちゃん。つい気持ちよさそうだったから、開けちゃった」
トマトちゃんは、窓を閉める。
「うんうん。本当は窓を開けたほうがいいのはわかってるんだけど、花粉症でね」
僕は言う。
「花粉症もさ。きっとどこかの組織の陰謀だよ」
カエデちゃんは言う。
どんなことでも陰謀に結び付けるのが、カエデちゃんだ。
「花粉症なら、どこの組織だと思う?」
トマトちゃんは、重ねる。
カエデちゃんは口をとがらせ、考え込んでいる。
(ぴろん)
僕のスマホの通知音が鳴った。
スマホを確認する。
新しい翻訳が追加されました。
メッセージアプリに新しい翻訳が追加されたみたいだ。
「ねぇ。メッセージアプリに”新しい翻訳が追加されました”って出てるけど、トマトちゃん、カエデちゃんはどう?」
二人はスマホを確認する。
首を横に振る。
「あれ……僕だけ、ちょっと通知が早かったのかな?」
(ぴろん)
僕のスマホの通知音が鳴った。
新しいメッセージが届きました。
誰だろう。
僕はメッセージを確認する。
「御無沙汰しております。賢者マービン様。
少しご相談したいことがあります。
メアリー・アムステルダム」
えっ?なにこのメッセージ。
イタズラ。
「ねぇねぇ。こんなメッセージが来たんだけど」
僕は二人にメッセージを見せる。
「なにこれ」
二人とも興味津々だ。
「ジュンちゃんって、賢者マービンって名乗っているの?」
カエデちゃんは興味深そうに見つめる。
「そんな知らないよ。賢者マービンなんて」
僕は即座に否定する。
「もしかして。異世界から連絡が来たとか?」
トマトちゃんは、冗談めかして言ってはいるが、半分本気の顔だ。
「えっ、まさか。異世界にスマホとかないでしょ」
僕は尋ねる。
「とりあえず、メッセージ返して、友達になってみなよ」
カエデちゃんは言う。
「ちょっと待ってよ。他人事だと思って……、どんなメッセージを返す?」
僕は尋ねる。
僕も実は興味があった。
「メアリー・アムステルダム様。僕はジュン・ナカタと申します。」
突然、トマトちゃんが語りだす。
僕はメッセージアプリに入力する。
「残念ながら、これは賢者マービン様の連絡先ではございません。」
「なんらかのトラブルで、僕の所に連絡がつながったようです。」
「これも何かの縁。お役に立てることがあれば、ご相談に乗ります。」
「ちなみに僕は日本という国で、学生をしています。」
なるほど、これいいよ。
「トマトちゃん。これいいね。」
僕は言う。
「どれどれ見せて」
カエデが僕のスマホを取り上げる。
「あれ、メッセージないじゃん」
カエデちゃんはスマホの画面を見せる。
「あぁ~。送信しちゃってる」
僕とトマトちゃんは言った。
トマトちゃんはケタケタとお腹を抱えて笑っている。
僕も釣られて笑い出す。
カエデちゃんも、吹きだしている。
え~どうするの?
そう思っていると、返事が来た。
「拝啓。ジュン・ナカタ。
はじめまして、私メアリー・アムステルダム、ギフト王国の公爵家の娘です。
マービン様の件、了解しました。
つかぬことをお伺いしますが、
学生の身で高価な魔道具をお持ちということは、日本国の貴族のご子息、もしくは王族の方ですか?」
メッセージが届く。
なにこれ。
冗談?
「これ見て。冗談かな……」
二人ともじっと見る。
「この高価な魔道具ってところが気になる。うんと、」
トマトちゃんは腕を組む。
「これは電気という力を使ったスマホという道具です。魔道具というのは、そちらでは魔法の力で動く道具があるのですか?」
僕はメッセージを打ち込む。
「そうです。魔結晶を使った魔道具です。その電気というのは、魔法のようなものなのですか?」
返信が返ってきた。
カエデちゃんは神妙な面持ちで見ている。
トマトちゃんの顔を見る。
考え込んでいる。
「そうですね。魔法のようなものです。ただ私の世界では、魔法というのは、お話の世界のもので、実在はしないとされています。その代わり電気という技術が発展しています」
トマトちゃんは、僕の顔を見る。
僕はメッセージを打ち込む。
なんだか手が少し震える。
「魔法が存在しないなんて、にわかには信じられません。でも、それであれば、なぜこちらの魔道具にあなたがたがメッセージを送れるのでしょうか?」
と返信。
トマトちゃんは、僕の顔を見る。
僕は首を振る。
つづいてカエデちゃんの顔を見る。
「この世界は並行で数多くの世界がある。その並行する別の世界と偶然につながったのでは?」
カエデちゃんは言う。
「そんなことあるの?」
僕は尋ねる。
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