第7話 傭兵の洗礼
大男は筋骨隆々で熊のように逞しい体格をしている。
額と頬に大きな古傷があり、ただでさえ凶悪な迫力を底上げしていた。
腰には分厚い剣鉈を吊るしている。
錆に紛れた汚れはおそらく血痕だろう。
(強そうな傭兵だな……)
俺は見上げたまま息を呑む。
大男は一歩詰め寄ってくると、指を差して挑発してきた。
「お前みたいなチビに傭兵なんてやれるかよ。帰ってミルクでも飲んでな」
その途端、野次馬の傭兵達が歓声を上げた。
彼らは酒を片手に次々と囃し立ててくる。
「サグに絡まれるなんて不運な新人だな」
「あいつ、酒癖悪いんだよ。すぐに八つ当たりするし」
「借金のせいでずっとイライラしてるんだろうさ」
当然ながら味方をしてくれる者はいない。
誰もが手頃な娯楽と見なして楽しんでいる。
(これも傭兵の洗礼と考えよう)
俺は深呼吸で気持ちを落ち着ける。
以前なら相手の迫力に負けて、逃げ出すか謝っていただろう。
しかし今は違う。
ファルクエンの王ハンニグに斬られた。
兵士二人と殺し合った。
怒りも悲しみも憎しみも痛みも経験し、俺は成長した。
目の前の男なんて微塵も怖くなかった。
(こんな奴に怯んでいたらハンニグに勝てない……度胸を見せろ。もう逃げない。立ち向かうんだ)
自らを鼓舞し、俺は不敵に笑った。
そして大男サグを挑発し返す。
「なあ、ここでお前を殺したら罪になるのか」
「……ッ!」
サグが目を見開き、小刻みに震え出した。
膨れ上がった殺気が全身に容赦なく突き刺さってくる。
野次馬は面白がるように言った。
「ファルクエンじゃ決闘は合法だ。これだけ目撃者がいれば、殺したって問題ねえよ」
「まあ、死人になるのはお前さんだがな」
野次馬の笑い声が響き渡る中、サグは剣鉈の柄に触れた。
そして唸るような声音で俺に告げる。
「この街の流儀を教えてやるだけのつもりだったが、俺を殺す気なのか。なるほど、そうかそうか……」
サグの顔や手足の皮膚が、パキパキと音を立て始める。
やがて皮膚は結晶のような質感に変わっていた。
戦闘準備を整えたサグは血走った目で述べる。
「硬化の祝福だ。てめえの攻撃をすべて弾いて――」
俺は遮るように先制攻撃を仕掛けた。
素早く引き抜いたナイフでサグの首を狙う。
全力で叩き付けた刃が、硬化した皮膚を割った。
伝わってくる抵抗感を無視し、体重を乗せて一気に振り切る。
軌道がずれた斬撃は、サグの首筋から喉を切り裂くと、顎下に潜り込み、彼の顔面を削ぎ落とした。
骨と筋肉が剥き出しの顔で、サグは奇妙な声を洩らす。
「あっ、ぇぺ」
サグは鮮血を噴き出しながら倒れた。
起き上がってきたら困るので、俺はサグの後頭部に何度もナイフを叩き込む。
硬化の祝福が解けたのか、一撃目のような抵抗感はなく、サクサクと切り刻むことができた。
とどめとして頭を踏み潰しておく。
静まり返った室内で、ジョッキの割れる音がした。
予想外の結果に驚いた者が酒を落としたらしい。
返り血塗れの俺は野次馬に尋ねる。
「こいつの遺品、俺が貰っていいのか?」
傭兵達は黙って頷いた。




