第5話 能力の推察
ひとまず御者から奪った軟膏を塗りたくって怪我の治療をする。
少し時間が経つと、槍に貫かれた腹の傷がじわじわと塞がっていく。
痛みも鎮まって気にならないほどになった。
ありえない回復速度なのは、治癒の祝福が付与された高級品だからだろう。
さすがに欠損した腕が生えるほどの効果はないと思うが、ひとまず死なずに済みそうだ。
ついでに竜翼にもしっかり塗り込んでおく。
次に血だらけの服を脱いで御者のシャツとズボンで身につけた。
生地が違うのか、驚くほど着心地がよかった。
色々な物が入っている鞄も丸ごと貰う。
それから兵士の死体の物色を始めた。
鎧を外そうとするも、片腕しかないせいで苦戦する。
結局、途中で諦めて兜と胸当て、腕当てだけを装着した。
これでも何も装備しないよりマシだろう。
武器は槍とナイフを貰う。
上手く使いこなせる自信はないものの、素手で戦うより安心できる。
最後に俺は馬車を調べて、携帯食や水を確保した。
さっそく半分ほどを一気に消費して空腹と喉の渇きを満たす。
残りを鞄に詰め込んだ俺は、鉄格子の中のロン爺ちゃんを見た。
「……このまま置いておくのはちょっと酷いよな」
雨が止んだのを見計らい、俺は近くの地面を掘ってロン爺ちゃんを埋めた。
人間一人が収まるだけの穴を掘るのは苦労したが、なんとか日暮れまでに完遂する。
土を被せて蓋をした後、俺は静かに告げる。
「守れなくて、ごめん。俺、頑張って生きるよ」
俺は街道に沿って徒歩で出発した。
馬は昔から乗るのが下手なので使わない。
どこかに到着する前に落馬して怪我するのが目に見えていた。
「さて、これからどうするか……」
真っ先に思い付いたのは、村の皆の捜索である。
きっと俺と同じように奴隷となって移送されているに違いない。
すぐにでも救出したいが、行方が分からないので無理だ。
そもそもファルクエンにおいて奴隷制度は合法である。
居場所が分かったところで救い出すのは困難だ。
暴力に訴えれば、それ以上の暴力が返ってくるだけであった。
たった二人の兵士に殺されかけた俺が実行するのは現実的ではないだろう。
では何もかも見捨てて逃げ出すかと言えば、そんなわけもない。
ファルクエンの王ハンニグ……カエナを殺したあの男に復讐しなければならないからだ。
あいつだけは絶対に許せなかった。
(王殺し……俺みたいな凡人にとっては夢のまた夢……のはずなんだけどな)
ふと道端に生える樹木に目を留める。
俺は樹木に触れて硬さを確かめた後、いきなり殴り付けた。
乾燥した太い幹が大きく陥没する。
さらに何度か殴ると、樹木は軋みながら真っ二つに折れてしまった。
「やっぱりおかしい……」
この異常な筋力は、まるでロン爺ちゃんの祝福のようである。
よくよく考えると、竜翼だってそうだ。
カエナの翼と瓜二つで、同じ祝福が覚醒したと思っていた。
しかし、そんな偶然がありえるのだろうか。
(祝福は一人につき一種類。怪力と竜翼を持つ俺は……)
祝福を奪う祝福――それが俺に宿る祝福の正体ではないか。
ただし無条件に奪えるわけではなさそうだ。
これまでの状況から考えるに、祝福持ちの死体に触れないといけないのだと思う。
(無限に成長するための条件としては簡単すぎるな)
まだ祝福の効果が確定したわけではない。
それでも俺は、人生で初めて味わうほどの高揚感に浸っていた。
「試す価値はある……いや、試さなきゃ進めないんだ」
新たな覚悟を胸に、俺は夜の街道を歩き続けた。




