第2話 無能の覚醒
「カエナッ!」
俺は力いっぱいに叫ぶ。
炎剣で斬られたカエナは血飛沫を上げながら飛び、無数の鱗を矢のように発射する。
ハンニグは炎剣で遮りつつ、豪快に斬撃を放った。
撒き散らされた炎を見たカエナはさらに距離を取り、絶えず飛び回りながら鱗で反撃した。
ハンニグは忌々しそうに防御している。
炎熱に苦しむカエナは、俺に向かって言った。
「アルフ! 逃げてっ!」
俺はみっともなく走り出した。
慌てすぎて何度も転んだが、それでも必死に走る。
心臓の音がうるさいし息も苦しいが絶対に足を止めなかった。
カエナが俺のために戦っているのだ。
その苦労を無駄にするわけにはいかなかった。
「ごめんっ、カエナ……本当にごめん!」
何もできない弱い自分が情けない。
いつだって俺は足手まといだ。
だけど、そんな愚痴を言っている暇はない。
俺が逃げ切れば、カエナも離脱できる。
だから少しでも速く走るのだ。
丘を下った先に大きな森が見える。
あそこまで辿り着ければ追いかけるのは難しいはずだ。
とっくに体力の限界を超えていた俺は、吐きそうになりながらも走り抜けていく。
その時、背後で凄まじい爆発音が鳴り響いた。
俺は思わず振り返る。
青空を黒い物体がゆっくりと飛んでくる。
目の前に落下したのは、焼け焦げた死体だった。
黒煙を上げるそれはもはや原形を失っており、人相の判別さえつかない。
しかし、背中に辛うじて残る翼は紛れもなくカエナのものだった。
俺は絶叫して死体に縋り付いた。
「ああああ、ああああああああああああぁぁぁァァァッ!」
膝から崩れ落ちた俺は泣き喚く。
触れただけで火傷を負ったが、そんな些細なことは気にならない。
カエナの死という現実を受け入れられず、俺はただひたすら涙を流すことしかできなかった。
「俺のために……どうして……っ!」
悲しみに暮れていると、背中に違和感を覚えた。
服を破って広がったのは竜の翼だった。
カエナと同じものである。
俺は乾いた笑いを洩らした。
「ははっ……幼馴染みで同じ祝福か……」
ずっと待ち望んだ祝福――それもカエナとお揃いなのにまったく嬉しくない。
彼女はもう死んだのだから。
もっと早く覚醒していれば、二人で飛んで逃げられたかもしれない。
すべて俺のせいだ。
今さらこんな翼が生えたって何も意味がなかった。
そんな俺の前にハンニグがやってくる。
鎧に大量の鱗が突き刺さり、片目に至っては潰れて血を流していた。
きっとカエナがやったのだろう。
あのファルクエンの王に傷をつけたのだ。
ハンニグはカエナの死体を一瞥した後、俺に告げる。
「その娘……お前を逃がそうと必死だった」
「な、何が言いたいんだ」
「気高き執念を尊重し、貴様の命までは奪わない。奴隷として売り飛ばす。復讐したければ這い上がってこい。以上だ」
ハンニグが角笛を吹く。
すると村から配下らしき数人の兵士が走ってきた。
あいつらに俺を捕縛させるつもりなのだ。
立ち去ろうとするハンニグを前に、俺は拳を握り締めて立ち上がる。
「――何だよ、それ。ふざけんな!」
竜翼をはためかせて浮かび、一気に距離を詰めて襲いかかる。
動きを察知していたのか、ハンニグは振り向きざまに炎剣を振るった。
「憐れだな」
紅蓮の斬撃が俺を縦断する。
激烈な熱さと痛みを味わいながら、俺の意識が途切れた。




