第1話 平凡な少年と非凡な少女
幼馴染みのカエナが青空をゆっくりと旋回する。
歓声を上げる彼女の背中からは、立派な竜の翼が生えていた。
しばらく優雅に飛んだ後、カエナは俺のそばに着地する。
「アルフ! 見てた!? あんな高いところまで飛べたよ! 新記録だっ!」
「もちろん見てたよ。すごいね」
「えへへ」
カエナは誇らしそうに照れる。
神々が授けるとされる祝福は、およそ千人に一人しか持っていない。
種類は様々で能力の強さも異なる。
その中でもカエナの竜翼の祝福は、かなり優秀な部類だろう。
空を高速で飛べるのは唯一無二の特徴だと思う。
カエナの将来の夢は騎士だが、この調子なら問題なく実現するはずだ。
最近は剣術も習っているし、成人する頃には村でも一番の戦士になっているに違いない。
(それに比べて僕は何の取り柄もない……)
祝福を持たず、武器の扱いは下手くそ。
体力に自信はなく、不器用で物覚えも悪い。
優秀なカエナとは比較にならないダメ人間、それが俺だった。
そんな考えが表情に出ていたのか、カエナは俺の肩を叩いて励ましてくる。
「私が騎士になったら、アルフを従者にしてあげるよ。給金もいっぱい払うから安心してね?」
「だ、大丈夫だよ……」
「遠慮しなくていいって! 私達の仲なんだから」
その時、村の方角から轟音と悲鳴が響き渡った。
見れば家が燃えている。
俺とカエナが驚いていると、近所のおじさんが大慌てで走ってきた。
「敵襲だ! 逃げろ!」
叫んだおじさんが炎に包まれて倒れる。
背後から現れたのは、赤い鎧を着た大男だった。
年齢は五十歳くらいで、焦げた髪と傷だらけの顔がよく目立つ。
手には大剣の形をした炎が握られていた。
その姿を見た瞬間、俺は相手の正体に気付く。
「ファルクエンの王……っ!」
男は隣国ファルクエンを支配する最強の戦士だった。
名前は確かハンニグだったか。
炎剣の祝福を宿し、数十万の敵兵を焼き殺してその座を勝ち取った暴君である。
ハンニグは俺達に注目した瞬間、まっすぐに丘を駆け下りてきた。
炎剣を頭上に掲げ、殺気を全開にして迫ってくる。
俺はカエナの手を握って言った。
「ま、まずい……カエナ、逃げよう!」
「アルフは先に行って。私があいつを食い止める」
カエナはハンニグを睨んだまま答える。
今まで見たこともないほどに真剣な顔だった。
だからこそ俺は彼女の手を引っ張って言い返す。
「何言ってるんだ!?」
「このままじゃ絶対に追いつかれる! だから私が時間を稼ぐの!」
「カエナ……」
「早く走って! 一生のお願いだから!」
カエナは俺を突き飛ばした。
彼女は一瞬だけ泣きそうな顔をした後、再び前を向いて呟く。
「……ありがとうね」
カエナが竜の翼を広げて突進した。
地面すれすれを加速し、その勢いのままハンニグに襲いかかる。
刹那、炎剣が凄まじい速度で往復し、カエナの胴体を切り裂いた。




