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青空少女はやっぱり本物の聖女さまでした  作者: ことりとりとん


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3.飼い殺し

 


 数日後。

 領地からやってきた父は最初こそ怒りに燃えていたが、話を聞くほど真剣な顔つきになってゆく。


「ほう、なるほど。アレスト子爵が聖女を独占した挙句に飼い殺している、という噂はあながち間違いでもなかったわけだ」


 北部国境を魔物から守り抜いてきた辺境伯としての獰猛な笑みは、偶然産まれた聖女を扱いきれなかった子爵程度とは全く格が違う。


「癒しの力が今まで誰にも気づかれなかったのは、扱いづらさがある故だろう。お前の言う能力も、色々な条件の上にたまたま成り立ったものかもしれん」


「父上、確かに彼女の能力は不確実な所があるた思います。家の役に立つかどうかは、未知数でしょう。

 でも、聖女の能力云々を抜きにしても、俺は婚約するなら、そしていつか結婚するなら、レイナが良いと思います」


 俺の強い想いを、父も分かってくれた。


「そうか。それならば、こちらも全力で臨もう。相手が聖女を渡すと言っているのだ。みすみすこの機会を逃す必要はない

 ライナー、お前はもう王都を立つつもりなのだろう? 明日にでも、動けるようにしておけ」


 ああ、父も、レイナを完全に我が家の手中に納めるつもりだ。

 そして俺ももちろん、手放す気は毛頭ない。


「もちろんです。騎士団には以前から領地守護のための退団を申し入れていましたから、それを早めるだけで済みます。

 アレスト家が彼女の価値に気づく前に、動きましょう。でなければ、またアレスト家が聖女を独占しようとして、彼女は閉じ込められてしまいます」


 そう言ってしまったけれど、ひとつ気になる事がある。


「しかし、父上。全てを実行に移す前に、少しお時間を頂けますか」


 我がシュレイ辺境伯家は傷を癒す聖女が欲しい。

 俺個人としても、妖精のように美しく可愛らしいレイナと結ばれたい。


 ……でも、彼女の想いは、真意はどこにある?


 手段を間違えないためにも、それだけは聞いておきたい。





 翌日の朝一番でアレスト家の3人を呼び出した。

 こちらは辺境伯家で、当主も居る。完全に格上なので遠慮することはない。


 急な使者に焦って準備したのだろう、服装が微妙な上にかなり落ち着きのない3人をそれぞれ別の部屋に案内する。

 相当不自然だが、レイナの意思を確認するために俺が頼んでそうしてもらった。


「失礼します。レイナ、急に呼んで悪かったね」


 部屋へ入ると、見るからにどうしていいか分からない、と言いたげなレイナがちょこんとソファに腰掛けていた。


「いえ、大丈夫ですよ」


「君の今後のことについて、決めてしまう前にきちんと話し合いたかったんだ」


「今後、ですか?」


 何のことか分からない、という様子のレイナ。


「ああ。君が良いと言ってくれるなら、今すぐにでも、結婚したい。して欲しい。


 ……結婚、してくれないか」


「えっ、あっ、はい。分かりました」


 何も分からず慌てているのに、酷くはっきりとした返事だ。


「本当にいい?」


「だって、結婚するための約束をしたんですよね? お姉さまじゃなくて、私と、結婚してくれるんですよね?」


 彼女の瞳が不安に揺れる。


「そうだよ。レイナがそれで良いと言ってくれるなら」


「私は、良いです。ライナーさまがいい。

 でも、私は聖女じゃないんですよ? それに、お姉さまみたいに綺麗じゃないし、お話も上手くないです。それでも、本当に良いんですか?」


「ああ。レイナが聖女じゃなくていい。癒しの力がなくても、誰よりも可愛くて優しくて。

 その上神様にもらった世界で一番キレイな金の瞳と銀の髪がある。

 だから、レイナと結婚したいんだ」


 そうきっぱりと言い切ると、レイナの顔はぱあっと陽の光を浴びたように輝いた。


「とっても嬉しいです。私、ライナーさまと一緒に居たい!」


 そのはっきりとしたレイナの言葉に、自分の背中を押してもらえた。





 レイナとの話が終わった所で、本題だ。

 3人まとめて応接室に呼び出して、いざ話し合いだ!!


「婚約破棄をして、相手を変更したいとのお話でしたが」


 俺が唐突に話を始めると、アレスト子爵は少し顔を歪めた。お前が挨拶抜きで話をしたんだろう? 同じことをされてその反応はどうかと思うぜ?


「様々条件は付けますが、ティーナとの婚約をそちらから破棄して、新しくレイナとの婚約を結ぶ形で許そうと思います」


 俺の言葉の後、気詰まりな沈黙が落ちる。

 こちらが要求を飲んだから、怪しんでいるのだろう。


「……それは、家としての総意なのか」


 子爵が、そう口を開く。

 我が家は「自分のことは自分でやる」主義なので話し合いの前面には俺が立ち、父上は後ろで見ているだけだが、それが気に食わないらしい。


「言葉遣いには気を使うことをお勧めするよ、アレスト子爵。

 私がここに居ることが見えないようでは、それも分からぬか」


 間髪入れない父上の嫌味に、子爵の顔つきがますます歪む。

 もう少し、表情筋の訓練をすることもお勧めしたいな。


「そちらからの破棄なので違約金を支払うこと、レイナの嫁入り道具をきちんと準備すること、今後一切レイナについて口出ししないこと。

 こちらからの条件はその3点だ」


「なにっ!? 違約金を払えと言うのか! その上嫁入り道具だと? おかしな事を言うな!」


「婚約を拒否したのはそちらですから当然違約金は発生しますし、レイナが嫁入りするなら道具類を持たせるのは当然でしょう。

 それとも、この前のそちらの屋敷での話の録音を、今ここでお聞かせしましょうか」


 王都に当主不在の状態で他家に呼び出され、全くの丸腰で行くわけないじゃないか。

 もちろん、今すぐに流すことも出来るし、今この会話も録音されている。


 場合によっては宮廷裁判になるだろうが、言葉遣いひとつとっても、裁判官の心証がどちらに傾くか、考えて喋っているのだろうか。


「……ぐっ。だが、すぐに大金を用意は出来ぬゆえ……」


「期限もきちんと定めましょう。こちらに契約書を準備してあります。それからこちらはレイナと俺の婚姻届です。どうぞ、両方にサインを」


 俺は辺境伯家の騎士で武闘派だが、その辺の脳筋共のように一発殴ってそれで終わり、としてやるほど生ぬるくはない。

 言質だけでなく物的証拠をきちんと取って、いつでも追い込めるようにしておかないと気が済まないな。


「……ぐっ、いや、帰って検討してから……」


「どうぞ、サインを。時間が必要でしたら、ここで読んで頂いて構いませんよ」


 録音されているので言葉遣いは綺麗に、だが目にはこれ以上ないほどの圧を込めて。


「……だが……」


「そちらの言い分は、全て飲んでいます。それはお分かりいただけていますよね?

 それとも、もっと違う内容に書き換えて差し上げましょうか」


「お父さま、わたくしはあんな田舎へなんて行きたくありませんわよ!」


 子爵はなおも抵抗しようとしていたが、ティーナが反発した。


 それこそ、俺の思うつぼだ。


 ティーナの『辺境へ行きたくない』という要求は通っている。お金の話は、自分の小遣い以外は彼女にとって他人事だろう。

 このまま話がまとまった方が好都合だと思ったようだ。


 ティーナの性格上、そうなるだろうと思ってこの条件にしてある。


「だが、しかし……」


「レイナは向こうへお嫁に行くんですから、こちらとの関係が無くなっても良いではありませんか!」


 最初はこちら2人対、向こう3人の構図だったはずが、今ではアレスト子爵1人対、他全員という風になっている。

 こうなるように仕向けたとはいえ、ティーナが馬鹿で助かった。


「そうですよね、ではこちらへサインを」


 俺ももう一声かけて、サインを迫る。


「……分かった」


 観念したようにがっくりと肩を落とし、アレスト子爵は婚姻届と、こちらにだけ都合の良い契約書の両方にサインをした。

 これを当主が王宮へ提出すれば、完全にレイナは俺のものになる。


「はい、ではこれで話は終わりです。お帰りください」


 最後まで丁寧な口調のまま、速やかに追い返す。

 俺の最っ高の笑顔付きで。



「……えっと……?」


 すごすごと帰っていく2人に着いていくべきかどうか悩むように、レイナがこちらをうかがう。


「レイナ、おいで」


「はいっ!」


 不安げな彼女に向かって手を広げてあげると、ぱあっと笑顔になって抱きついてきてくれた。


「あの、ライナーさま、ほんとにありがとうございます」


「レイナが俺と一緒に居たいと言ってくれたから、こう出来たんだ。レイナの思うようになった?」


「はい! これで、ライナーさまとずっと一緒ですよね」


「もちろん。離すつもりはないよ。

 でも、もしも父や姉と話をしたい時があれば、会いに行ってくれてもいい。

 向こうからの接触は契約で禁止したが、レイナから会いには行けるよ」


 彼女が家族に対して本心でどう思っているか分からないから、完全禁止にはしなかった。


「そうなんですか? でも、私は出来れば、会いたくないです。

 いつも、父上は怒るし姉上はすごく馬鹿にしてくるので」


「そうか。それなら会わなくていいよ、大丈夫だ。でも、母の墓参りには行きたいだろう?」


「それは、行きたいですね」


「レイナからの接触も禁止すると、領地に入れなくなってお墓参りにも行けなくなる。それは困るから」


「ライナーさま、私のために色々考えてくれて、本当にありがとうございます」


 金色の瞳がこれ以上ないほどきらきらに輝いていて、頑張って良かったと心から思える。


「俺のかわいい奥さんの為だからな。いいんだよ」


「ライナーさま、大好きです!!」


 今のレイナは、間違いなく世界で一番かわいい。


 それを実感して銀の髪をするすると撫でると、無邪気にくしゃっと笑ってくれた。




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