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あえて言うなら師匠?




 ぽんぽこぽんぽこ。

 と、ドラムも叩かず亜季は思い悩んでいた。


「……なんであんなに妬いたんだろ」


 ラブレター事件はまだ亜季の中で尾を引いていた。

 というのも、様々な事が引っかかっているのである。


 たとえば、女の子同士で付き合うという事。

 桂香の高校は女子校である。

 後輩からラブレターを貰ったという事はつまり、女の子同士でお付き合いをする、したいという事。亜季はそれがイマイチよく分かっていない。

 いや、違う。

 正直に言えば、ありえないと思っている。女の子同士なんて、普通ではないと思っている。

 ……しかし、ラブレターを出した人にとっては、ありえない事ではない。

 つまり、ありえないと思っていた事自体が、ありえない事。


「……私にとっては、どうなんだろ」


 たとえば師匠と、桂香とお付き合い。

 ……あまり違和感を感じなかった。

 というのも、今までとあまり関係性が変わらないと感じたからである。

 師弟関係であるし、ゲーセンでよく会っているし、時折お家にもお邪魔している、というのが大きいかもしれない。

 いやそもそも、誰かを好きになった事自体が無い。

 それ故に、そもそも好きがよく分からない。

 ので、


「師匠、誰かを好きになったことありますか?」

「いきなり何よ……」


 誰かに聞いてみる事にした。


「なになに亜季、誰か好きになっちゃったの?」

「恋しちゃったのー?」


 うるさいのが増えた。


「いやそういう訳じゃないんですけど、この間、師匠がラブレター貰ってたじゃないですか」

「あぁ……ちゃんと断ったけどね」

「あ、そうなんですね」


 外野が茶化しても平然と話し始めるあたり、亜季も慣れたものである。


「って、そうじゃなくて、そこまで人を好きになる気持ちって分かんないなって」

「亜季はおこちゃまだからなー」

「なにをーう⁉︎」


 が、同級生の音祢に子供扱いされれば流石に怒るのである。


「青春だねえ。こう、誰かの一番になりたいとか、誰かの側にいたいとか、ない?」


 そんな光景を眩しそうに眺めながら、ヨッパは比較的まともな事を聞いた。


「誰か……」


 亜季にとっての、誰か。

 特別な、誰か。

 最近は、決まっている。


「……あえて言うなら、師匠?」

「なっ⁉︎」

「ひゅーっ!」

「お、大胆な告白ぅ」


 沸いた。


「そ、そういう意味で言ったわけじゃないですよ⁉︎」

「そ、そうよね!」


 必死である。


「後ろめたい事でもあるのかにゃー?」

「ないですよ!」

「ないわ!」


 両人共に必死である。


「音祢さんはどうなんですか⁉︎」


 という訳で矛先を変えるべく、すごーく雑に、亜季は茶化してきた音祢に話を振った。

 が、


「え、私? 彼女いるよ?」

「彼女⁉︎」

「彼女⁉︎」

「ほー?」


 爆弾を投げ返された。


「え? 言わなかったっけ?」

「初耳だよ⁉︎」

「え、えぇ……」

「私ですら聞いたことなかったねえ」

「いやヨッパに言うわけないじゃん」

「前々から思ってたけど私の扱い酷くない?」


 一同が慄く。

 そもそも皆とゲーセン通いしている事からして、恋人がいるとは露ほども思っていなかったというのが大きい。

 なのに、恋人が、いる。


「ど、どんな人なの?」

「えっとねー。幼馴染でねー、大学生なんだー」


 しかも、


「お、女の人、なんだよね?」


 なのである。


「そだよ? あ、偏見ある感じ?」

「い、いや、びっくりしただけ」


 桂香のラブレターの事が無ければ偏見があるままだったかもしれない。

 だが、そういう事もある、という事に気付かされた今となっては、亜季は本心からそう言う事が出来た。


「じゃ、じゃあ、その幼馴染さん?のこと、好きになったんだ」

「んー、好きになったっていうか、好きになってた?」

「なってた?」

「うん。ずっと一緒だったから分かんなかったんだけど、気付いたら一緒でいるのが当たり前になってて、これが好きって事なんだって気付いて、告白しちった」


 だから、興味本位で、軽い気持ちで聞いたのに、返ってきたのは思ったより真面目な答えだった。


「はえー……」

「……すごいわね」


 だから、そう返す事しか出来なかった。


「まー亜季にはマネ出来まい! はっはっは!」

「なんだとーう⁉︎」


 ので、音祢から揶揄われても致し方のない事である。

 ……だが音祢の言った、ずっと一緒にいる、気付いたら一緒にいるのが当たり前という点について、亜季は心当たりが、あった。


「ぅ……」

「アキさん?」

「ひゃわ⁉︎」

「ど、どうしたの?」

「な、なんでもありません!」


 この気持ちが恋というものなのか、だから嫉妬したのか、それは分からない。

 分からない。何もかも分からない。

 いや、分かろうとしていないのかもしれない。

 否定しようと思えばいくらでも出来る。

 かといって肯定するにはナニカが抵抗する。

 つまりそれは違うという事なのでは。

 だから亜季は思う。


「いやいやそんなまさか」


 と。




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