不許可
ズッタンズツタン!
桂香は自宅の電子ドラムを一人で叩いていた。
「……ッ!」
無心で叩く。
邪念などそこにある筈がなく、何も考えず、ただ自己の技術向上を目指し、あるいはひたすらリズムにノって自分の世界に、
『いろいろ、気付けました』
「っ⁉︎」
スティックが飛んだ。通称ジェットスティックである。
『……っ』
「っ⁉︎」
次いで、スティックを取りに行こうとしてつまずいた。
別に亜季がそのセリフの直前に桂香の方をチラ見した事に対して気付いていたとかそういう事ではないのである。本当である。嘘ではない。きっと。
「…………」
クロエに対して。
彼女持ちのクロエに対して。
気付いた。
ありがとうございます。
そして、この間の挙動不審。
「そ、そんなの……」
ヨッパが言うまでもなく、そんなのもう確定に決まっている。
そんなのどう考えても自分の気持ちに気付いたという意味以外に無い。
それどころかもう確変に入っていると言っても過言ではない。
つまり、もしかして、もしかすると、だ。
「亜季さん、から……?」
の可能性すら、ある。
「い、いえ、そんな、いえ、ばかな」
だが桂香はそれを棄却する。
何故か口元を隠しながら棄却する。
「……亜季、さん」
桂香は思う。自分は変わった、と。
他者の事を必要となんてしなかったし、他者についてこんなに考える事なんてしなかった。
今となっては、なんで彼女と別の学校なんだろう、とすら思うし、もっと一緒に過ごしたい、そう思う。
それに、あのバカップル程ではないがもっと近付きたいと思うし、それに、それに、それに……。
「……っ!」
だから、桂香はドラムを叩き始める。
余計な事まで考えそうになったからだ。
「っ⁉︎」
と、そこでスマホのアラームが鳴った。
「……時間」
時間、というのはドラムを叩いて良い区切りの時間の事。
いわゆるご近所さんに配慮した時間の事である。
電子ドラムとはいえ、響くものは響くのである。
「…………」
椅子から立ち上がり、ドラムセットを見下ろす桂香。
消化不良だった。
だからなのか、奇妙な幻視をした。
「……っ」
そこには、楽しそうにこちらを見上げてくる亜季の姿。
「……ふ」
思わず頰が緩む桂香。
だから決めた。
もしかしたら、亜季は自分を好きなのかもしれない。
いや、もうここまできたら認めよう。
自分は亜季が好きだし、亜季も自分を好きだ。
そしてここからは本当に推測だけれど、亜季は自分に告白を試みている可能性がある。
だけどそれは許さない。
それだけは本当に許さない。
「だって……」
先に好きになったのは、自分の方なのだから。




