第7話 共鳴
ようやく魔杖に光をもたらすことを許してくれたようで、輝きに照らされた木々はボンヤリとそれ自身が光っていた。
青白い光が至る所にこびりついている。それはまるで夜空に散らばる星のようにチカチカと瞬いていた。
「これは…」
「ヒカリゴケ」
周りをキョロキョロ見渡すステルにソシアが短く答えを返す。
「これ、闇に棲む彼らが見たら怯えちゃうから。光に弱いのにそんなのを晒したら話し合いなんてできない。こちらが彼らに合わせないとダメだからね」
だから火や光は消したんだ。
驚かせてごめん。
でも、これが私のやり方だから。
ソシアがぺこりと頭を下げる。
「いえ、こちらこそ」
自分でもそれはおかしいかとは思ったがつい、そう口にしてしまう。
「ところで」
気になっていることがいくつかある。
話題を変えるためにステルが切り返した。
なに?という表情をソシアが向けると、ルゥがぽよんと跳ねてソシアに寄り添った。
「先程の言葉は何だったのです?」
まず一つ。
この子の話していた不思議な言葉。
いくつかの言語を学んだステル自身、聞いたことのないもの。
あのガレータとも通じているそれの出所。
ひいては自分の知識が打ち砕かれたものの正体を確かめずにはいられないのが、ステルの性分であるが故の質問。
返ってきた答えはやはり短かった。
「古代語」
「古代語?でも、それはそんな言語体系をとっては…」
「貴方が言うのは少し新しいもの。さっきのは、それよりも昔に使われていたものだから違う」
何事でもないようにさらりと言ったソシアに驚愕の表情を見せる。
ステルの知っている古代語は新しいと。新しいとは言っても、伝わっている最古のものであるからなおさらだ。
「どこでそれを…?」
「言いたくない」
完全な拒絶をもって断られてしまう。
これについてはこれ以上聞き出せないと判断して、第二の疑問を投げかけてみることにする。
「わかりました。では、もうひとつだけ」
額に刻まれた、あざ。
前髪に隠れてよくは見えないが、見える限り五芒星を成しているように感じた。
「あなたは何故に旅をしているのです?」
「……」
「僕は、どこかにいる仲間を探しています。世に災いを成す者を止めるために。あなたがその仲間であると…違いますか?」
「何でそうなるの??」
さも不思議そうに見やられ、ステルはそう考えるに至った所以を話すことにする。
服の袖をまくり上げ、右の二の腕を闇の森に晒す。
晒してからというもの、ステルの腕の一部分が仄かに輝きを放っている。輝きを持つ部分に刻まれていたもの。
それは、月の刻印。
はっとそれに見入るソシアの額のあざも、淡い光をもって応えているかのようであった。
「何、これ…!」
自分の身体に起こっている異変に戸惑いを見せて、ソシアはステルと距離を取る。
すると光はふっと消えてしまった。
「共鳴しているだけですよ」
そう言って袖を元に戻すと、ステルはにっこりと微笑んでみせる。
「これが、あなたと僕が仲間であるという証拠。同じ自然の守護だという、ね」
自然の守護同士、共鳴すると偉神の神託で告げていた。
彼女を泉から引き揚げた時、微かではあったが共鳴し合ったことを思い出したのだ。
それが思い違いでなければ彼女は自然の守護であるはず。何故なら、ステルが月の守護という存在であり、共鳴し合うことが証明しているからである。
訝しげな瞳を向けていたソシアは突然コロコロと笑いだす。
そして何事かと思うステルの前に歩んでくるとぺこりと礼をする。
「わかってたよ、出会った時からね。私は星の守護…らしいよ」
自覚はあまりないんだけどね。
彼女は笑ってそう言った。
僕もそうなんですけどね。
ステルもそう返して同じように笑ってみせた。




