第32話 宣誓
緑神カフィールの時。
ジフィール中央都にある宣誓広場には人々が不安そうな表情で集まっていた。
本日一つの宣言がなされるとジフィール当主からの通達が中央都に広がったのだ。
内容は知らされず、揺らめく夕日のように人々の心も揺れていた。
そこへジフィール当主ルネ8世がソシアとシャディルトを従えて現れる。
普段ソシアは壇上に上ることがなかったこともあって、人々は小さくざわめく。
ソシアは一つ前に歩み出てルネ8世を振り返り、小さく頷く。
心は決まった。
「私は」
ソシアが語り始めると人々のざわめきはピタリとやんだ。
「この国の者じゃないんだ」
声が震えている。
突然の告白に、広場に集まった人だけではなくルネ8世までもが目を見開く。
だが止めることはしない。
「ごめんなさい!みんなは私に期待を向けてくれているのに、私は欺いてばかりだ。だから旅に出て人知れないところに行ってしまえばいいと思ってた。でもそれじゃ、みんなを余計に苦しめちゃう結果にしかならないって気づいた」
頭を下げたまま、ソシアは一気にまくし立てるように口にする。
誰かが言った。
頭を上げて、と。
受けて、ソシアは集まってくれた人々を確かめるように一人一人視線を配っていく。
そして続ける。
「私は宣言するよ。自然の守護、星の守護として世の災いを止めるために旅に出ることを。どうか、みんなにも許してほしい」
夕日が彼女を照らす。
ジフィールの持つ海を照らすように。
森を照らすように。
「私は支持するよ。ソシアちゃんが思うようにすればいいって」
果物屋のウリンゼが第一声を飛ばすと、人々は各々の思いを口にしだす。
中にはソシアの身を案じて反対する声もあったが、隣にいる人に彼女を尊重するように諭す者がいた。
その声はうねりとなり、誰とはなく拍手で満たされていく。
この国は大丈夫だ。
誰もが思いを込めて。
「ありがとう。だから私はみんなのことが大好きなんだ」
日が沈み、夜がくる。
誰の心にも安寧をもたらす夜になれますように、ソシアはそう願わずにはいられなかった。
「ふぅん…」
宣誓広場の端の方で成り行きを見守っていたステルが壇上のソシアを見る。
国の者ではない、か。
これからジフィールはどうなっていくのだろう。
彼女はルネ8世と比較すると似ていない。記憶の中にあるヴェルネ妃にも似ていない。
しかし国の人民は彼女を国の子として迎え入れている。
その彼女がいなくなったこの国の行く末を案じてみて。
では、彼女はどこからやってきたのか。
ステルの中で疑問が浮かび上がる。
彼女に聞いても答えは得られない気がした。
とりあえず旅に出ることはできる風の流れになってきているようだ。
それだけでも十分な成果と言える。
「さて。また旅の支度をしなくてはなりませんね」
ステルは踵を返すと、宮庁舎で割り当てられた部屋に戻ることにする。
夜の帳を含めた風が吹き始める。




