第31話 パトロール
大好きな街を歩く中で。
「お姉ちゃん、また遊びに来てくれたんだね」
声を掛けるものがいた。
いつぞやの男の子。名をケイファ。
母親とはぐれてしまったトゥイという子を家に送ろうとして、自分まで迷子になってしまった時に案内を買って出たはいいけれど、一緒に迷子になってしまったという思い出を共に持った男の子だ。
「ケイファ、お久しぶりだね。少し大きくなったんじゃないかな」
「ははっ、憶えていてくれたんだね。うん、ちょっと大きくなったって父さんも言ってたからそうじゃないかな」
ラシュネもソシアに倣って足を止める。
パトロールなど不要なくらいに、このジフィール中央都は穏やかだった。
「それよりもさ、聞いたよ?お姉ちゃん、こっそり旅に出ようって目論んでたんだって?」
「うわあ、もうばれてる!」
ラシュネに振り返りながら、あっさりと陥落するソシア。
その反応にひとしきりケイファは笑い倒す。
「らしいと言えばらしいけど。みんなの噂は本当だったんだね」
「噂?」
「そうだよ。悪者をやっつけに行くんだってね」
ケイファは瞳を輝かせながらソシアを見つめる。
えっと、と一つ考える素振りを見せてソシアも一つ頷く。
「旅に出ようとは思っているよ」
「やっぱりね!うーん、でもなんでだろう?応援したい気持ちはあるんだ。でも嫌な予感っていうか…行ってはいけないって予感があるんだ」
占い師としての才を持つケイファの言う嫌な予感、というのがかなりの的中率を持つことはソシアだけでなく、多くの人が知っていた。
ケイファの表情は真剣で、冗談を言っている風ではない。
ソシアはそれを聞いて、一瞬街のざわめきが遠退いた気がした。
「それは彼女自身が決める。お前が決めていいことじゃないさ」
ラシュネが現実に引き戻す。
「わかってるよ。でも、忠告くらいはいいだろ?できれば止めたいって思うのも」
「まあ、それは勝手だが」
似たことをやったのけたラシュネは肯定しかできず別段怒りの感情も見せずに、ソシアに振り返り、だと、と矛先を向ける。
隣を人が二人通り過ぎるくらいの時間を要して、ソシアは口を開く。
「忠告ありがとう。でもね、もう決めちゃったんだ」
「やっぱりお姉ちゃんはそう言うと思った」
ケイファは、ほう、と溜息を一つつくとズボンの後ろポケットから何かを取り出した。
小さなオレンジ色の袋に何かが入っているのが分かるものをソシアに手渡す。
「これは?」
「お守りだよ。気休めにしかならないかもだけど」
「ううん、気休めなんてとんでもない。持っていくよ!」
ソシアの明るい声に、ケイファは頭を一つぽりっと掻いた。
「じゃあ、僕は店があるから」
またね、と一つ残すと裏通りの方へ入っていった。
「よかったな」
「うん!」
ラシュネがソシアの頭をポンポンと撫でてやる。くすぐったそうに笑うソシア。
それから気を取り直してパトロールに回る二人に声を掛けてくる者は多く、夕刻はすぐに巡ってくる。
今日、夕刻までに決めるソシアの心は、しっかりと固まっていた。




