第3話 泉にて
目指した場所はそう離れてはいなかった。
森の同じような景色にひっそりと続くけもの道を誰の目にもつかないよう細心の注意を払いながら進んだ先。
セプリカの爽やかな香りに覆われて、泉は彼女の訪問を心待ちにしていたかのように両の手を広げていた。
視界が急に開けた奥には、底は見えぬが澄んだ水がたたえられた器から先ほど見たものと同じであろう鳥が、鮮やかな緑の軌跡を残して天空へと駆けあがっていく。今度も小魚がそのくちばしで踊っていた。
やっぱりすごいなぁ。
その鳥を見送りながら心ひそかに評する。
見送った空は既に恒星ラヲがかなり傾いたのか、夕闇を身に宿し始めている頃であった。
泉に映った木々の葉も夕日の衣をまとっていた。
ここならゆっくり休めそうだと、泉のほとりに立ち、ソシアは思い切り背伸びをする。
緊張していた体がほぐれていくのを感じて頭を左右にプルプルと振りかぶる。
その勢いでルゥが泉にぽちょっと落下して、跳ね水が彼女の頬に当たる。
「あははっ、ごめんね~、ルゥ」
口ではこう言っているが、表情は全くそう告げている素振りすらないソシアをコバルトブルーの水からルゥは一度見上げて、その深くに沈んでいった。
「あーあ。拗ねちゃったよ。ま、どうせここで…」
「何してるんですか、こんなところで」
「え?わわ!?」
予想していなかった背後からの声。
見事に崩れるバランス。
そして。
水しぶきをあげてルゥと同じ運命をたどることになってしまった。




