第28話 生命の実
横からエクアラが悪戯好きそうな笑顔でソシア迫る。
「リレプーはこうやって食べるのがおいしいんですよ!はい、あーんしてくださいな」
「って。エクアラ?それって丸かじりっていうのよ?」
突っ込みを入れるイサーシャ。対するはぺろりと舌を出すエクアラ。
二人の息はぴったりで、まるで幼いころから一緒にいたもののようだ。
ソシアもエクアラが差し出したリレプーにかぶりつく。
「ほんとだね!おいしい」
止めるよりも先にソシアの口に収まったリレプーは軽やかな音を立たせながら食される。
瑞々しい見た目相応の水分を多く含んだ甘酸っぱい果実の香りが口の中に柔らかく広がる。この世界に生まれた生命の輝きを秘めた果実。多くの恵みをその実に宿し、新たな命を育むため他者へ我が身を分け与える。
そしてその命を受けて自分が今ここにいる。自分はこれら生命を守ることができるだけの力を偉伸から与えられたにもかかわらず旅に出ることを未だに迷っている。
「なーに考えてるんですかー?」
エクアラがソシアの顔を覗き込む。
「え?」
「だって、さっきから変ですよー?正体ここにあらずーって感じで」
じっと見つめられ、危うく考えている内容を口にしようとする。
「別に変なことを考えてるわけじゃないよ。ただね、この果実も命を繋ぐものなんだなって思っただけ」
「私たちは、そういうものがないと生きていけないんですよね。ならば、それを守っていかなきゃいけないってことはわかってるはずなんです、たぶん」
イサーシャの言っていることは皆にも伝わっていれば、この世から焼き払われる命がなかったかもしれない、ソシアはこう思ったことを悟られないように笑って誤魔化しながら
「みんなは優しいから大好きだよ」
と返しておく。
ソシアの本心に彼女らは顔を見合わせて、きょとんとした表情を見せて固まって…突如吹き出した。
そんなにおかしいこと言ったかな、ソシアは眉を寄せて考え込んだ。
それがなお笑いを呼び寄せていることに本人は気づいているだろうか。
「ソシア様、皆もあなた様のことを同じように思っているはずです」
「え?そうなの?なんでわかるの??」
イサーシャが言うことに、戸惑いを隠せない。
自分のことですらよくわからないソシアにとって、自分以外の人の心がわかることがこの上なく不思議で仕方がないのだ。
「見ていればわかります」
と言われて、さらに不思議で混乱してしまう。
「ふふ、ソシア様。もっといろんな人と出会って、いろんな人とお話して、楽しいことも知って、そして嫌なことにも触れて。そしたらわかるんです。特別な能力とかではないことだから」
いよいよ混乱がピークに達してきて、エクアラの言うことまでが意味不明になってきた。
よくわからないことに頭を悩ませながら、食事を受け取りに来た人へリレプーをつぎ分けてみる。
エクアラとイサーシャは楽しそうに笑うだけだ。
彼女らの言うように旅に出て、色々な人に出会うことができればわかるようになるのだろうか。
人をあれだけ怖れていた自分が…。
「ソシア様、ソシア様、あそこ!」
エクアラがふと笑うことをやめて小声でソシアに注意を促した。
注意を向けられた方角には宮庁舎の入り口があり、そこで昨日知り合った月の守護が伸びをしながらこちらに気づいたところであった。




