第26話 ほっぺに小麦粉
「ごめんね、お待たせ!」
ソシアが足りなくなったウェルシュの実を運んでくると、出迎えた二人の女性はくすぐったそうな声で小さく笑う。
「うん?何かあったの?」
彼女らの笑い声にソシアは首を傾げる。
「その顔で長に会ったんですか?」
「ふふっ」
二人顔を見合わせて笑っているが何故かわからない。
「美味しそうって言われませんでした?」
「一緒に焼き上げましょうか?」
「?そんなことは言われなかったし、パンと一緒に焼き上げるなんて聞いてないよ?」
真顔で答えるソシアに、なおさら彼女らは楽しげに笑う。
「ふふ、ほっぺに小麦粉、ついてますよ」
「え?わわ、ホントだ!」
ウェルシュの実が入った籠を大地に卸して顔をはたく。
その仕草がおかしかったのか、彼女らは笑いが止まらない。しまいにはソシア自身まで釣られて笑いだしてしまう。
それも束の間、何かを思い出したかのように手をポンと叩くと、ソシアは今笑いあった彼女らに告げた。
「シャディがスタレードの肉も出したほうがいいだろうって、フェステに買い物を頼んでた!」
「まあ大変」
「それは大変」
声を揃えて言う彼女らは双子。
言葉ばかりで、雰囲気では余裕をまとわせる。
「さすがレニファーとピーシェ!」
ソシアが素直に感嘆の声を漏らす。
「まあ!」
「わたくしたちの名前も覚えてくださっていたのですね」
二人は声を揃えて言う。
「だって、レニファーもピーシェも私の名前を憶えてくれているでしょ?何か変かな?」
不思議そうな表情をしてからソシアは目を瞬かせた。
レニファーとピーシェは顔を見合わせて、もう一度くすりと笑う。
「やはり、わたくしたちは、あなた様が大好きですわ」
「皆にも伝えてまいりますね」
双子の宮庁の者が調理場へと足を運ぶ。
ソシアもそれに倣い、三人が戻った野外の調理場では、賑やかな声が立ち上がっている。
美味しそうな匂いと楽しげな雰囲気で訪れた難民の心を癒していく。
これって宮庁の力だよね、ソシアは満足げに頷く。
自分がその一端を担っていることも気づかずに。
集落からの難民が受付を済ませた後、パンの焼ける匂いに釣られるように集まってくる。
まず、彼女らが醸し出す柔らかな明るい雰囲気に顔を緩ませた。
「はい、お待たせいたしました。温かいうちに召し上がってくださいね」
オレンジ色のスープからもやもやと湯気が立ち、訪れた者の心を和ませる。
並んだパンからは香ばしい芳香が放たれ、リレプーが赤い彩りを添える。
そして焼きたてのスタレードの肉が人の鼻腔を刺激する。
食べずにはいられない要素を持たせた食膳に人々は舌鼓を打つ。
行き場をなくした人が穏やかな表情をして食を進めている中で、スタレードの肉を焼きながらレニファーが、食膳を持って横を通り過ぎるソシアに声を掛ける。
「よく食事をしようと思いつきましたね。わたくしは、食事は落ち着いてからでいいと思っていましたのよ。でも人々はそうではなかった。感心いたします」
唐突な誉め言葉にソシアは、パタパタと食膳を持たない右手を勢い良く振りかぶる。
「ううん、違うよ!私は自分ができそうなことしかできないから、こんなことしか思いつかなかっただけ。ホントは…こんなことになった元凶を早く止めることが一番なんだ」
ホントはそうなんだ、と肩を落としてしまう。
「では、やはり旅に出てしまわれるのですか?」
言葉の意図するところを読み取って、レニファーは寂しそうに俯いた。




