第25話 難民受け入れ開始
ジフィールの森が靄をまとい、それを空に返そうとして掲げている。受け取ろうとする空は白い雲を払拭してしまっている。青の色彩だけが際限なく続いていた。際限のない青の中を幾羽かの鳥たちが高みに上り詰めていく。
「あ、シャディ!おはよう!」
ひときわ明るい声があたりに響く。
朝の難民受け入れを開始したジフィール中央都には、家を失い生活の保障を求める人が多く訪れていた。
「おはようございます。おや?ソシアさん、いかがなされたのですか?」
おはよう、と声を掛けられてシャディルトは少しだけ驚いたような表情を見せたが、すぐにいつものような微笑を浮かべたものに戻っていた。
「それが…聞いてくださいよ!私も止めたんですよ!?でも…」
難民名簿を振り回しながらレンファースが喚きたてる。彼が難民のチェック係らしい。
「私が無理に手伝うって言いだしたんだ。えへへ」
悪戯っぽい笑みを浮かべてソシアがレンファースの言葉を継ぐ。
「みんながこんなに頑張ってるのに、私だけ議会の中で全てを決めるなんて、何か違うなって思ったんだ。大丈夫、父さまにもこうしたいって伝えてあるから」
「そんな問題じゃないです!」
「気にしない、気にしない。ほら、レンファースも早く受付しないと次の人が待ってるよ?」
宮庁の長にこの事態を差し止めてもらおうと、レンファースは頼みますよ~、と長に目配せを残して難民受付窓口である宮庁舎前に駆けていった。
レンファースはソシアがこの国を束ねていく人物であるから、このような雑務はさせていられないと言っているのだろう。
「まあ…私は止めませんけどね。これも社会勉強です」
レンファースの意図は脆くも崩れ落ち、シャディルトはこの場を訪れているソシアに何をしているのか尋ねてきた。
答えた彼女は。
「昨日が大変だったから、みんな疲れてるだろうし、きっと満足な食事もとってないと思うから、みんなに手伝ってもらいながら朝ご飯を作っていたんだ」
よく見れば、彼女の頬に小麦粉がついていたことにも気づくことができたのであろうが、いかんせんこの宮庁の長に視覚はない。代わりに鼻につくナッツの香ばしさが事の真実を証明していた。
向こうのほうでは宮庁の女性陣がナッツに火を通しているのだろうか、この場所にまで彼女らの楽しげな声が届いてくる。
ついでにメニューも尋ねてみる。
「ピグナッツのパンと、ウェルシュの実とパパニレの葉を潰して作ったスープと、リレプーを準備してるよ」
「ふむ…あとは何か、スタミナの付くものを加えてみるといいかもしれませんね。待っていてください」
シャディルトがソシアの元を離れ、宮庁の一人と言葉を交わしている。その者が町のほうへ走り去ると、再びシャディルトはソシアのほうへ足を運ぶ。
「どうしたの?」
「ふふ、スタレードの肉を焼いて出すんですよ」
スタレードというのは森につくキノコで、その食感や栄養素が食肉と類似していることから肉、と呼ばれている。香辛料との相性も問わず、安価であることから肉の代わりに食する人も多い。
数少ないシャディルトにとっての好物でもある。
「なるほど、そっかー」
シャディルトの采配に納得の声を出してからソシアは、その顔をさらに輝かせる。
「じゃあ、みんなにも伝えてくるよ」
「はい、いってらっしゃい」
足取り軽くソシアは女性陣の声のするほうへ駆けていく。
「みんなー!もうちょっと頑張っておいしいもの食べてもらおう!」
「はい!」
シャディルトの耳に明るい声が届いてくる。
この状況を明るいものに変える天性の素質に小さく笑うと、難民誘導に当たるのであった。




