第24話 ソシア・ディシュナ・ファラオスという子
「それならば、私も同罪ということになるな」
今にも泣きだしそうな少女と同じところまで堕ちてから続ける。
「私はキミを自分の子供同然に育ててきた。民は私の姿を見て、キミを国の子として迎えたに過ぎない。それで十分とは言えないものかな」
キミの存在は、民からは望まれているのだよ。
自分の栗色の髪とは随分異なる海色のものを、ポンポンと撫でてやる。
こうしてきたことが…この子が来てくれてから何度繰り返してきたことかしれない。
そのたびに、彼、ルネ8世は既に亡きジフィール王妃ヴェルネに代わって母親の優しさをもって接してきた。彼らが、我が子同然に育ててきた。いつかこうやって別れが来ることを知っていても。
「気に病むことはない。キミはこの国の者に愛されてる自覚はないだろうがね。明日、民の声を聴いてみるとわかるはずだよ」
「本当?」
穏やかな海の瞳が不安色に輝いてルネ8世を見つめている。
「明日、緊急招集を議会にかける。民にもキミが旅に出る理由くらいは伝えてほしい。直接街に出てみるといい。そこで、自分の目、自分の耳で人の声を聴いて見なさい。そうすれば、何かわかると思うから。人の声を聴いて、キミの思うようにしなさい」
落ち着いた声色で諭すように一言一言を大切に伝えるルネ8世をソシアは真っすぐに見つめる。
そこで何を受け取ったのか。
「はい、そうしてみます。遅くにごめんなさい」
言い残して部屋を後にするソシアを複雑な表情でルネ8世は見送った。
確かに、彼女は自分とヴェルネの子ではない。偉伸から神託で預かった子である。
その頃のソシアは、ひどく怯えた瞳を覆い隠して毅然としていようと努めていたのが、痛いほど印象に残っている。心の内を熱い殻に閉じ込めてしまった彼女が、ようやく彼女自身から話しかけてくれるようになったころ、ヴェルネは病を患い、冥界神ユナの下へ旅立った。その時、彼女は何と言って泣いていたか…。
…母さま!
小さい体を動くことのない他人に縋りつかせて、ありのままで泣いていた。
何度も、何度も、ヴェルネの腕に頬を寄せ、しばらく片時も離れようとすらしなかった。
亡葬の儀をするときなどは、自分の背にしがみついたまま枯れることのない涙を浮かべて、何度も『母さま…』と繰り返していた。
ヴェルネはそれに答えることはできなかったが、最後に残した言葉をソシアは幼いながらも忠実に守ろうと懸命になっていた。
自分のことを父と呼び。
民の声に応え。
この国の子供になれるように、自分の中にある恐怖と戦いながら人と接していった。
人に対する恐怖のためにヴェルネから逃げていた分、自分から何とか人に近づいていけるよう努めていた。
それが彼女なりの死者に対する手向けだったらしい。
ヴェルネのことを本当に悔いていることがわかった。
こうやって培われていったソシア・ディシュナ・ファラオスという子。
自分たちの血縁の子ではないけれど、この国の子である子が旅に出ることを民が許すだろうか。
それも、全て明日決まる。




