第21話 ソシアの目覚め
「お目覚めですか?ソシアさん」
「ん…。……ここ、は?」
心配そうに寄り添っていたルゥをぼーっとしたまま抱き寄せて、起き上がってはみたものの。
まだ頭がぼんやりとしているのであろうか、表情はここにあらずといった感じだ。
それも束の間。
すぐに現状を把握したソシアはシャディルトを強い瞳で睨みつける。
「おや、怒ることはないでしょう。国が滅んでしまうようなことは避けなければいけないのですよ?それとも何ですか?そうなってほしいのですか?」
「違う」
即答したソシアは周囲を見渡す。
それで自分が宮長舎に連れてこられたことを悟ったのだろう。
小さな肩を大きく落として、宮長舎からは構造上逃げられないことも同時に悟る。
「父さまと母さまは…この国は私に何を望むの?私に何ができるっていうの?」
静かな、けれど確かな言葉をソシアはシャディルトに向けて解き放つ。
受けてシャディルトは表情を変えずに答える。
「まずは、自分で民の声を聴くことです。民が望むことがこの国が望むこと。当主の望むことです」
ジフィール当主は宮長の長の言う通り、人民の声を主としてこの国を統治している。
その表れが王国議会制に由来している。
そうか、彼女は頷いてベッドから立ち上がろうとする。
その瞳はシャディルトに向けられていたものとは違い、前を見据え、覚悟を決めたような、決意を固めたようなもの。
傍観していたステルも、その表情は見たことがあった。
泉やガレータの群れに出会った時に見せた表情。ステルには眩しく見えた表情。
人の上に立つもののそれを見て、ステルはあるところに行きついた。
「あ、それはラシュネさんが戻ってきてからのほうがいいと思いますけど…」
ラシュネが勢いよくソシアを旅に出るのを許してもらえるようジフィール当主に進言してくる、と立ち去った時のことを思い返す。心見の間が荒れていなければいいのだが。
ラシュネが進言しに行って結構な時が経っている。
ふむ、とシャディルトは少し考えるそぶりを見せる。
この部屋の窓から見える外部には、森を背にしていることも相まってか、一面の森林とそれを燃やすような光が投げ落とされているのが見渡せる。森を燃え上がらせているように見せている正体、恒星ラヲは今や、衣を赤いものへ取り換えて遥か彼方にうっすらと見えているフェール山脈に身を潜ませようと準備をしているようであった。視覚にとらえることができない炎に焦がされながら、森の木々はざわざわと嘶いている。
時は緑神カフィールの頃になる。
世間でいう夕方という頃だ。
「ラシュネが行っているんだね。ならば、私一人で行ったほうがよさそうだ。ステル、申し訳ないけど宮庁舎で待っていてもらえないかな、私が戻ってくるまで」
ソシアがまっすぐにステルの柔らかな若草色の瞳をとらえる。
「僕はそれで構いませんが…」
「ありがとう。じゃあシャディルト、ステルがここで過ごすのに苦労しないよう手配して。…大丈夫、私は逃げないよ。この国が求めていることが、ようやく掴めそうなのに。この機を逃したりはしない」
シャディルトが危惧するところを安心に変えて、ソシアは頼んだからね、とルゥを肩に乗せてから出口から音もたてずに出て行ってしまった。
後を追わなくていいんですか?
ステルの視線の意味に感づいて、その必要はなさそうですから、宮庁の長は安堵した声で返す。
「あなたは休むといいですよ。お疲れでしょう。隣の部屋も空室です。自由に使ってください」
言われた通りステルは休ませてもらうことにした。集落での疲れを思い出したかのように。




