第2話 目的
追手をつけてまで為そうとする彼女の目的はふたつある。
まずは過去の英雄の血を受け継ぐ者を探す。
一度会っただけだが、過去の英雄の血が必要とされることがある。
そのために協力を依頼しなければならない。
事の成否は英雄の血なくしては成し得ない。この世に訪れている混沌を調和するためには欠くことができないものなのだ。
第二に。この世界の乱れ。
歴史的にも最も古く、この世界の於ける権力も随一とされていたレオド王国が突如として跡形も残さず消滅してしまったことに端を発する。続くように街や村までも燃やされていたこともあり、あるいは人間のみが消えてしまったこともある。
原因は全くつかめていない。
人々は世の災いについて語り、恐怖に身を震わせた。
そこで偉神らも対抗手段として自然の守護という存在を世に送り出したという。偉神によって送り出されたものを信じ、確認もされぬ救世主に人々は心を向けた。
そして、彼女はここにいる。
人々の期待に添うべく、額に刻まれた星のあざを徴として。
偉神に指定された自然の守護として、この世界の乱れに終止符を打つべく旅に出たのだ。
先日、偉神の神託を授かったばかりで内容も抽象的だったこともあって、理解するには至らなかったがこれだけはわかる。
輝きとそれを受けるものとで、世の災いを阻止すること。
自分はそのためにここにいるのだと、ソシアは自分に言い聞かせた。
だから今、あの者たちにつかまるわけにもいかず必死の逃走劇を繰り広げているのだと。
「さてと、休憩もこれくらいにしないと」
大樹に寄せた身を引きはがすと意識をさらに北へ飛ばす。
通りかかった風の精霊によると、ここより北に行くと小さな泉があるのだという。そこで夜を明かそう。
はるか昔に教えられた、夜の森は思うようにいかないから必ず昼のみに行動するのだということ。
以前一人だけで森を彷徨い、獣に襲われたことがあった。
その時に、ぼそっと教えてくれたことである。
それ以来、危険だと言われた夜の森は歩かないことにしている。
「ええーっと、こっちのほう…かな?」
飛ばした意識を北に向かわせると、確かに泉が森の中にひっそりと佇んでいる様子がうかがえる。
大きくはないが、深いコバルトブルーの湖面に森にある木々の葉を映し、幹の間に伝う風でさざ波を作っている。人の姿はないようで、湖岸の付近には春に鮮やかな薄い黄色の花をつけ、その花の色から恒星ラヲの孫娘という異名を持つセプリカが顔をのぞかせている。周囲の若草に小動物の足跡がいくつか残されている。
意識の目で見ているところへ、鳥が水の中へ身を躍らせているのが見えた。
再び空へと舞い上がるそのくちばしには、小さな魚がぴちぴちと身をよじらせている。
「わわ!すごい!」
素直に感嘆を示すと、彼女の足はその泉へと足を向けていた。
今晩はあの泉の世話になることに決めて。




