第16話 焼けた森
水の防護膜を基調として森には確かに結界が張られていた。それを証明するように森全体がいつもとは違う、しっとりとした湿気を纏っていた。
ソシアの、そして第二隊の仕事は確実である。
対するように木々の焼け焦げた臭いが鼻に突く。崩れ落ちて折り重なっるように倒れている煤くれだった樹木に、ともすれば足を取られそうになる中をシャディルトは、いとも簡単に進んでいく。
時刻は美の神ヴィレアの時を示そうとしている。
恒星ラヲはその姿を天井に晒しているだろう。普段は森の中に届かない光も今の状況下では障害するものもないためか、真っすぐ大地に降り注いでいる。
暖かな春の光が降り注ぐ中、シャディルトの予測通りステルが前を進んでいた。
音を立てぬように、気配を気取られぬように細心の注意を払いながら後をつける。シャディルトの前を何度か転びそうになりながら道案内をしている彼は出身をザーナリダムといっていた。都会で育った彼が旅をすることなど困難だったのかと思いつつも、集落での時に見せた魔術の腕を思い返し、すぐさまその思いを否定する。なぜなら彼こそが魔術の神オーソメドルの加護を受けし者に違いなかったからだ。
さて、その道標の役割を成している彼は。
疲れた体で集落で氷の魔術を連発していたこともあり、足がうまく持ち上げられないでいた。
折り重なる樹木がまるで自分のこれから先を暗示しているようにも感じるほどに。
それでも、少しでも早く少しでも犠牲が少ないうちに世の災いを止めなければという想いが、多少の無理を承知で動かしてきた。ザーナリダムを出てから、満足な休息を得たことはなかったな、と思いを巡らせる。
おまけにつけられているとは…。
あらかた宮庁が彼女を連れ戻そうと、行方を知る自分に張り付いているのだろう。
どちらにしても彼女には、一度戻ってもらうつもりだった。
王族が勝手に国を出れば、国民は不安を募らせる者が現れてくるだろう。しかし、彼女は国の者に告げずに旅立ってしまった。突如いなくなった国民は王族に対して不安が募り、いつか王都に対して反乱を起こす。
そうなった時に、ジフィール当主が如何に人を先導する力に長けていても、それを食い止めることが非常に困難となることが推測できるのだ。
そのことを憂いたジフィール当主が彼女の連れ戻しを求めているのであって、決して彼女の旅に反対することはないはずだ。
反対することでもあれば、世の災いに対抗する手段が絶たれたとして他国の謀反のきっかけを作ってしまいかねない。世の災いと人民との板挟み状態だけは避けなければ。
いくら旅に出したくなくとも出さなくてはならない自然の守護は、いわば人柱だ。生きて戻れる保証もない。
この役割を引き受けた者は余程の変わり者だといえよう。
大体からして王族などは、そういうことは危険であるが故に人民に任せてしまうものではないのか。王家の血筋が絶えるということは国家そのものの存続すら危ぶまれる。
納得できない、そんな表情で待ち合わせの場所あたりへたどり着いたステルは一人で、うーんと唸ってみていた。




