第15話 シャディルトの祈り
夜が終わり、全ての人々、もしくは惑星モラに存在する全てのものへ平等に朝がやってくる。
欲望の神アレディの時。
生きとし生けるものが何らかの望みを、端的にいえば欲望をもって今日という日が始まる。
「長、報告します。森の火災は結界術の成功により鎮火いたしました」
集落にある宮庁駐屯地。
その中の一つのテントに声がかかる。
集落では既に人民の応急処置を終えた宮庁らが、非難した者たちへ朝食を振舞っていた。交わされる言葉は少ないものの、これからの処遇については難民としてジフィール中央都での生活を約束されていたため安息した空気が流れていた。
シャディルトの報告を受け、ジフィール当主が彼らを難民として受け入れることを提案したのだ。宮庁の長もそれに賛同を示し、集落の住民はひとまずの安寧を得られたわけだ。
今頃はジフィール中央都に残された宮庁副長であるラシュネが、難民受け入れの準備に駆り出されていることに思いを巡らせてみる。
今日彼女は非番だが、人助けは進んで行う人だから怒っていることはないでしょう…たぶん。
…きっと。
……おそらく。
…………願わくば。
シャディルトはレンファ―スの報告を聞きながら秘かに祈っていた。
「わかりました、ご苦労様です。今日、あなた方は休んでいてください。あの方の居場所は知れました。あとはお連れするだけですので」
「それでは我らも共に…」
「いいえ、それでは彼女が怯えてしまいます。私一人で行きます。あ、そうそう。あなた方には今日明日の内に住民をジフィール中央都にお連れする役割を第二隊が戻り次第、実行に移してください。民に今、不安を与えることは避けたいものですから早期に実行されなければなりません」
何としても次期当主には一度、ジフィール中央都まで戻ってもらわなければならない。
集落の人民のことも気にかかる。
テントからシャディルトが顔を出す。普通であれば朝日の眩しさに表情が変わるのであろうが、彼の表情は全く変わることはなかった。
閉じられた彼の瞳は盲目なのだから。
光すら見ることができないほどのそれでも、今日が雲一つない晴天であることもわかっている。
目に見えないものがわかるのだから、目に見えるものは当然というように知覚できていた。目に見えないもの、それが回す歯車が急速に加速していることも認知していたのである。
できうる限り早急に対策を講じる必要がある。
表情から作戦に含まれるものを感じ取り、テントから顔を出したシャディルトへ一礼してレンファ―スは食事の手伝いに入った。
「それでは、いってきますね。あとはよろしくお願いします」
そう残して、シャディルトは森の奥深くへと身を隠してしまう。
森の中を先行している第二隊はまだ戻らない。ただ、結界は完成させたと報告が空間伝達の魔術で送られてはきていた。
確かに結界は完成し、森を包んでいた。




