第13話 共同戦線
請われてサドレカは、ふむ、と一考する。
「わかった。フィジェン、お前が《スピード》で接近、《怪力》で人形を破壊すること。いいな」
避難誘導を指示しながら、サドレカが身体能力に秀でたフィジェンを呼びつける。
呼ばれた者は、とても身体能力に長けた人物には見えないほどフラフラと第四隊隊長サドレカのもとへ歩み寄った。
現れたのは女性のようで、スカートをふわりと揺らしていた。
彼女がフィジェンなのだろう。
「はい~、わかり申しました~」
ぺこり。
ゆったりと一礼してステルへ向き直る。
「それでは~、よろしくお願いいたします~」
同じようにゆっくりと人形ヘ向きを変え、大地につま先をトントンとつけてから言葉を放つ。
「参ります~」
間延びした予告をしてフィジェンの姿が消えた。
目を疑うスピードで移動する彼女に驚きつつ、ステルは氷の魔術で援護する。
援護といっても彼女の姿が見えなかった以上、的確なものかどうかは疑わしかった。
そのうえ、炎を氷が二つと撃ち落とすときには人形があった場所で爆発といえることが起きていたのだ。
放射状に広がる突風と飛ばされてきた砂塵に目を細めながら、
「やったか!?」
誰ともなく爆発の起きた先へ期待を向ける。
火の玉が飛来してこないところを見ると、少なくとも失敗はしていないと言えた。
そこへ。
「あら~?」
まだ収まらぬ爆煙に混じり、のほほんとしたフィジェンの声がステルとサドレカ、その他宮庁第四隊の者たちの耳に届いた。
集落では人民の安全確保を申しつかった宮庁たちがケガ人の手当てに忙しく駆け回っている頃、焼き払われた民家の間を潜り抜け、宮庁長の腹心であるレンファースが次の指示を仰ぐべく長のもとへ駆け込む。
暗いテントの中のテーブルには昨日の冷めた夕食がそのまま残されている。
昨日は遅くまで聞き込みをしていて、ステルの事情聴取をしていたため一口も味わうことをしていない。
しかしながら空腹感はない。
元来、食事をしているところを宮庁の者に目撃されていることもない。
それもそのはずで、シャディルトは食事を摂ることは滅多になかった。いかんせん食生活が違いすぎる。
この世界の人々にすれば美味なるものも、食べるのにはかなりの勇気が必要だったし、一度などは当主に勧められるまま口にして気を失ったことすらあるのだ。
所々焼け焦げたテントの暗い中に声がかかった。
その声は、長、と中の者を呼ぶ。
呼ばれてシャディルトは、なんでしょうか、と返す。
するとテントは開かれることはなく声のみが侵入してくる。
「報告します。住民の避難はほぼ完了しました。この辺り一帯を襲撃した者は既に、この地を去っております」
その時、異変の起きた集落にて人民の救助に手を使ったことの状況を当主に報告するために意識を集中させていたのだが、新しい情報が入ったことに加えて次の対策を伝えるために当主に一時中断する非礼に許しを請うてから。
「わかりました。しかし、油断はなりませんよ。レオド付近で起きたものには人が消えてしまう前例があります。次は森に出た者たちへの支援を。森に結界を張るよう申し伝えてあります」
部下の報告を受け、シャディルトは再度注意をするよう新たな指示を出す。
私がいることがわかっていながら、仕掛けてくるとは…事が進んでいるということなのか。
森の方ではソシアさんが炎を消す魔術を施行しようと試みるはずで、それに合わせるように言ってあるから大丈夫でしょう。
思考を巡らせて、ふふっと一人笑うと再び住民の避難が無事終了したことを当主に伝えるべくシャディルトは意識を集中させた。




