第12話 宮庁
笛の音を聞きつけた宮庁の者が駆け付け、シャディルトのテントの前に集う。
「集まりましたね。先ずは人民の安全確保を」
飛んでくる火炎球をパン、と払いのけて宮庁の長は指令を出した。
払われた炎は何も存在していなかったかのように姿をくらます。
その背後でテントを焼いていた炎が渦を巻いて命を得たかのごとくシャディルトに襲い掛かる。
指令を受けた宮庁が危うい、と踏み出してはみたが、それすらも軽くあしらってシャディルトは部下に続けた。
「ふむ…。第二隊は森に入れ。森に結界を張り厄災を阻止せよ」
指令を受けた第二隊が右の手を胸にあてた敬礼をもって応える。
第二隊とは、空間魔術を得意とする者五人で形成された部隊。空間魔術は属性を持たぬがゆえに扱いが難しく、習得も困難なことも相まって部隊を特別なものへ分割させていた。
ジフィール宮庁の部隊は、第一隊が攻撃魔術を得意とする部隊、第二隊は前述の部隊、第三隊が傷を癒す魔術を得意とする者で構成された部隊、第四隊が特殊な能力を持つ者たちで作られている部隊。
以上、四隊で構成されている。
分割はされてはいても、それぞれがこの世界に伝わる新魔術全てを扱うことができるほどの実力の持ち主であり、総数も六十人弱の僅かな者たちしかいない。
彼らジフィールの部隊の実力は世界でも有能な実績を誇る。したがって、ジフィールに住まう者、そうでない者が憧憬の眼差しを向ける存在なのだ。
今回、王族行方不明事件に駆り出されて、この集落を訪れた宮庁は第二隊と第四隊である。
第一隊と第三隊は、最近起こっている世の災いを警戒し、中央都に副長と共に残してきている。
今度の集落の襲撃においても、その実力を発揮するべくジフィール宮庁第二隊、第四隊は手際よく指示を実行に移し始める。
彼らの動きは訓練を受けた者たちが持つ、無駄のない洗練されたものであった。
一方、集落に住む者たちはややもパニックに陥っていた。
右往左往、思い思いの声をあげながら逃げ惑う人々に火炎球を水の属性、氷の新魔術で撃ち落としている者がいる。
指令を受けた宮庁は駐屯地を出ると氷塊を打ち出す一人の者に気が付く。
「何者だ!?」
「それを訊くより、早くあの人形をどうにかしてくれませんか?」
ジフィール宮庁第四隊隊長、鬼のサドレカの言うこともものともせずステルは今一度、セルナホーンを次々に襲ってくる火炎球に向けて放った。
余裕のない表情で先程から炎の勢いが衰えない人形を顎でしゃくる。
その顎に汗が伝う。
魔杖に宿る輝きも徐々にその色を失いかけている。
いい加減、限界が来ようというのに。
宮庁がくる前から試してはいたのだ。
人形を消すことを。
だが、人形自体が結界を持っているのか、魔術の通りが悪い。
間合いを詰めようにも、この炎の間を潜り抜けて無事でいられるのは確率的にもほぼゼロに等しい。
さらに、間合いを詰めたにせよ、魔術の効果が薄いのであればどうにも仕方がないこともある。
宮庁の動きが気になり、つい、とその方角を盗み見ると彼らは迫る火炎球をそれぞれの手段で叩き落とし、また打ち消している。
炎から守護するかのように住民の前に立ち、人々へ宮庁の駐屯地を目指すように声を荒げている。
既に宮庁駐屯地の炎は鎮火していた。人々は一目散にその場を目指し、シャディルトの形成した魔術防護の結界の中へと身の安全を求めた。
混乱して逃げ惑う住民の避難誘導している宮庁らへ、ステルが声をかける。
「僕が炎を食い止めます。その隙に人形を破壊してください。魔術は通用しませんから物理的な方法でお願いします。準備ができたら言ってください」




