おまけ話 ファーストキスの行方は……?
ザザーン……!
「ああ。海辺デート楽しかった〜♪」
辺りがすっかり暗くなり、C海岸から車に戻るところで、果林は満足げに伸びをしてそう言った。
「そ、そうか……。短いデートだったけど、喜んで貰えたならよかったよ」
「ふふ。あらっちゃん、耳が赤いよん?」
メモリアルシーン無限再生の刑に遭い、まだダメージが残っている俺に果林は含み笑いをする。
「からかうなよ……。//この後は、ドラマ撮影があるんだから、切り替えて行くぞ?」
「ハーイ。あらっちゃんの言う通り、この後はちゃんと大人しくお仕事頑張りまーす!」
そう言って、俺達は車に乗り込んだのだが……。
「あ、あらっちゃん、忘れ物!」
「え?」
ハッとしたように言われ、助手席の果林の方を見遣ると……。
ガシッ!
「忘れ物はコレ。//んっ……。ちゅるっ……」
「かりっ!? んっ………。ちゅるっ……//」
いきなり首に抱き着かれ、唇を奪われ、驚いた俺は果林の肩に手をかけ、彼女を引き離した。
「ぷはっ……。コラ! 果林っ!! 大人しくするって言うなり、お前はっ!! // 」
「ぷはっ……。だって、デートの最後にチュウはお約束っしょ♡ 忘れない内にしとかないとね?」
「っ……!」
唇に人差し指を当て、キスの余韻を残すようなしっとりした笑顔でそう返され、それ以上怒るに怒れなくなり、俺はふぅっとため息をついた。
「全く、お前は一体どこでそんな手練手管を覚えたんだ……。
一昨年のドラマ「夕暮れ時に抱き締めて」に出演した時は、相手役のギンプリ 横野冬弥とキスシーンがあるかもって時は、仕事でキスなんて嫌だと泣いて騒いでいたのに……。婚約記者会見の時も、実家でも今も、お前は躊躇いもなくチューチューと……//」
一昨年の純真な果林はどこへ行ったのだと思いながらそう言ってやると、果林は気まずそうな笑みを浮かべ俺から目を逸らした。
「あ、ああ……。あの時は確かにそうだったかもね〜? ヒュープヒュー♪」
下手クソな口笛を吹く果林の様子に俺は不審を感じ、目をパチクリした。
「ん? 果林お前、もしかして、記者会見のあの時が初めてじゃなかったのか?」
「ギクッ……!! い、いや、あの! あらっちゃんがファーストキスの相手というのは、変わらないんだけど……」
「なんかやらかしてるな? この際、全部吐け!」
「えーと、エヘヘ……。実は、あのドラマの時……」
俺に追及され、果林は観念したように話し始めた。
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(※以下果林の回想です)
21才の春。ウチは、ドラマ「夕暮れ時に抱き締めて」でヒロインの友達役に抜擢され、社長やあらっちゃんにも喜ばれる中、毎日演技の練習に励んでいた。
「はい、桃谷果林さん。次の台本の改訂版です。赤字のところが変更点になりますので、確認していて下さいね?」
「あっ。ハイ。ありがとうございます」
撮影後にスタッフさんから台本を渡され、内容をすぐに確認した。
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チュッ♡
夕暮れ時に、重なる二人の影。
日高 萌:「正太郎くん! 元気出た?」
山口 正太郎:「も、萌っ……!」
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「えっ!」
台本の変更部分を目にした途端、ウチは声を上げた。
ウチの演じる日高萌ちゃんが、彼氏の山口正太郎くんの頭を撫でて慰めるシーンが、キスをして慰めるシーンに変更になっている!
14の時から、ずっとあらっちゃんへの想いを抱えたままアイドルの仕事をして来たウチは、当然誰かとキスをした経験なんてない。
ドラマの仕事とはいえ、ファーストキスを仕事でする事になるなんてあり得ない!
ウチは大きなショックを受けた。
✽
「大事なファーストキスなんだよ? 簡単にしたくないし、皆の前で見世物になんかしたくない!」
次の仕事に移動中、車の中で、抗議するウチに、あらっちゃんは困った顔で宥めた。
「う、う〜ん。ファーストキスを大事にしたい気持ちは分かるが、ラブコメドラマにラブシーンはつきものだからな……。仕事と割り切って、数に入れない事に……」
「そんな事出来ないよっ!」
「でも、相手役の横野冬弥くんは、キュートなマスクで人気爆上がり中で、女子からキスしたい俳優No.1らしいぞ?」
「それが何っ!? 他の女子はどうだろうとウチは全然嬉しくないしっ!」
「いやぁ、でも、俺みたいなオヤジからされるよりゃ、よほどマシだろう?」
「……!!!! あらっちゃんのバカッ! どうしてそんな無神経な事言えるのっ!? うわあぁ〜ん!!」
軽くそんな事を言ってしまうあらっちゃんに、ウチは泣き出してしまった。
「うわっ。ゴメン! 今のは気持ち悪かったよな! セクハラだった!」
「違うよ! 彼女とチューチューしまくっているあらっちゃんには、ウチの気持ちなんて分からないよっ!! びえ〜ん! あぁ〜ん!」
あらっちゃんの謝るポイントも何もかもズレていて、分かってもらえないもどかしさに涙が止まらないでいると……。
「あ〜ヨシヨシ、果林ちゃん、泣くな〜? あっ。次の休憩所に有名な美味しいクレープの出店が出てた筈だぞ? ちょっと寄っていこうか〜?」
✽
「ホラホラ、御当地クレープ『桃ほっぺカスタードスペシャル』だぞ? これ食って元気出せ!」
「グスン、ヒック……。モグモグ……。 甘じょっぱくて美味ひぃ……。 あらっひゃんは、かのひょさんとはべたの……? ううっ……」
スター☆休憩所で、あらっちゃんが買ってきてくれたクレープを頬張りながら、またも涙が込み上げそうになっていると、あらっちゃんは力なく首を振った。
「い、いや、彼女にはフラレちまったばかりで、クレープなんか一緒に食べてねーよ……|||||||| 果林が思う程幸せな生活してねーからな? 俺」
「そ、そうなんだ……?」
急にクレープが甘くなったような気がした。
ウチの顔を見て、あらっちゃんはホッとしたような笑顔を浮かべた。
「ちょっとは、元気になったみたいだな? すまんが、少しだけ仮眠取らせてくれ」
「あ。うん。ゆっくり休んで?」
「さんきゅ。 すー………ふごー……」
言うなり爆速で寝始めたあらっちゃんの疲れた顔を見て、ウチはちょっと胸が痛んだ。
「いつも一生懸命仕事してくれてるのに、ワガママばっかり言っちゃってゴメンね……」
「う〜ん……。ぐごー……」
「……」
よだれを垂らしていびきまでかきはじめる、あらっちゃんの口元をじっと見ると……。
「あらっちゃん……。好き……だよ?」
ウチはゆっくりと顔を近付けて行った。
チュッ。
「……// 『元気出た?』」
触れるか触れないか位のキスをして、ウチがドラマのセリフを口にすると、あらっちゃんは寝惚けたような声を出した。
「んがっ……。 ……りん……?」
その後、あらっちゃんは、しばらく起きる様子がなかったので、あと3回ぐらい台本の練習をさせてもらってしまった……。
✽
「ハッ! 今、何時だ?!」
その後飛び起きるあらっちゃんに、ウチはニンマリ笑顔を浮かべ、コーヒーを差し出した。
「まだ、30分しか経ってないよ! ハイ、これクレープのお返し!」
「え? あ、ああ、買って来てくれたのか? ありがとう……」
カップのコーヒーを手渡すと、あらっちゃんは急に上機嫌になったウチを戸惑ったように見詰めていた。
「ナーバスになっちゃってゴメンね? せっかく貰った役だし、ウチ、もう文句言わないで演技に専念する事にしたから!」
「果林……! 女優としてまた一つ成長して……!」
拳を握り気合を入れるウチを見て、あらっちゃんは目を潤ませた。
✽
「ん? なんかやたら口の中が甘いな。クリームとかカスタードっぽいような……?」
「あっ、コーヒー、クリームとお砂糖多めにしちゃったかも!////」
その後、運転しながら首を傾げているあらっちゃんに、ウチは必死に誤魔化した。
ちなみに、その後のドラマの撮影に横野冬弥くんとキスシーンがあったけれど、二人の影が重なる絵面を撮って、キスのフリをしただけだったので、あんなに大騒ぎした意味はありませんでした。
ただ、ウチがあらっちゃんにファースト(&セカンド&サード&フォース)キスを捧げたという事以外は……。
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全ての話を聞き終えた俺は、驚き、果林に詰め寄った。
「急に聞き分けがよくなったと思ったら、お前、あの時にやらかしてたのか〜!!// パパラッチされてたら、どうすんだ!」
「うわ〜ん! あらっちゃん、怒らないで〜! もう2年も前の事だし、記事にもなってないし、大丈夫だよ〜!! 今はもう婚約者同士だし、他の人とチューするよりはよかったでしょ? ねっ?」
「ぐっ……!」
果林に半泣きで言い縋られ、言葉に詰まる。
確かに、今となっては果林のやらかしを聞かされたところで、マネージャーの立場で叱ってはいても、本気で腹は立てられなかった。逆に他の奴とキスしたと言われたら、ダメージを受けていただろう。
「い、今まではともかく、これからは慎重に行動してくれよ?」
「うんうん! 次のキスはまた別の場所でしようね♡」
果林は、本当に分かっているのか怪しい屈託のない笑顔を俺に向けたのだった……。
✽あとがき✽
読んで下さりありがとうございます!
46話「元婚約者 わが道を突き進む トライアル1」前半部分の後に続くおまけ話でありました。
次話はいよいよ最終話。
ルミナス☆ミの新メンバーと対面する果林と新のおまけ話をお届けしたいと思います。
最後まで見守って下さると有難いです。




