俺の最悪な結婚《柏崎頼亜視点》
小松崎新のせいで、天使なアイドル・果林ちゃんを俺のモノにする計略は邪魔された上、ドグマ記者の無原にその現場を絵梨花との修羅場も含めてネットに配信されてしまった。
俺、絵梨花、映画監督の丸手と脚本家の瀬久は警察に逮捕され、今まで、俺が芸能界で摘んだ女達を有名人に斡旋し、利益を得ていた事も全て明るみになり、大騒ぎになった。
新聞や週刊誌にはある事ない事書き立てられ、テレビやネットでも連日俺の悪評が垂れ流された。
俺が起ち上げた人材派遣会社・(株)スイートスタッフは倒産。父親も自身の会社の社長を解任される事態になってしまった。
社会的地位、女、財産、俺から全てを奪った小松崎新が、そのまま桃谷果林ちゃんと結婚式を挙げ幸せになるなんて、俺は絶対に許せなかった。
俺は奴に復讐をする事にした。
全てを失った俺に怖いものはない。
看守の警備の薄い時間を見計らって、面会に来た元セフレに、差し入れを持って越させ、その中に入っていた工具と変装グッズを使って施設から脱走すると、結婚式を終えた小松崎新と桃谷果林ちゃんを尾行した。
そして、奴の自宅の建物の陰に隠れて様子を窺っていると……。
小松崎新と俺の伴侶になるはずだった桃谷果林ちゃんは寄り添い、戸口の前で熱い口付けを交わした。
「んむっ……ちゅるっ……んむむっ……」
「んんっ……ちゅるっ……んんっ……」
「っ………!!!!||||||||」
小松崎新ぁっ……!
その光景に、俺は全身の血液が沸騰するような怒りを感じながら、懐のナイフに手を伸ばす。
「死ね……!」
ダッ……!
憎悪を込めて小さく呟き、ナイフを翳して突進すると、途中で奴は俺に気付いたようだった。
「危ない!」
ドンッ!
「キャッ!!」
だが、反射的に果林ちゃんを後ろに突き飛ばすのが奴に出来た最後の抵抗だった。
ビュオッ!
「あらっちゃん!! いやあぁっっ!!!」
「っ……!!!!||||||||」
果林ちゃんが悲痛な声を上げる中、奴に恐怖と驚愕の表情が浮かぶのに胸がすく思いがしながら、その首元をナイフで思い切り切り裂こうとすると……。
グラッ……!
突然目の前の壁が崩れるように揺らぎ、そこから人影が飛び出して来た。
「ハァーーーッ!!」
ガキン!!
「ぐわぁっ!!」
気が付くとナイフはその人影・作務衣姿の忍者のような男に弾き飛ばされ、俺はその衝撃に手首を押さえて蹲った。
くそっ、失敗した!
小松崎新め! 先手を打ってやがったか!
俺はすぐにその場から逃走した。
「ハァハァッ!」
ダダダッ!
「待って下さいっ! 柏崎さん、自首した方が身の為ですよ!」
シュタタタッ!!
「ひっ……!||||||||」
俺が住宅街をひた走っていると、さっき壁から現れた忍者男が風のような速さで追いかけて来た。
もう少しで追いつかれるというところで、ちょうど大通りに出て、青信号が点滅している横断歩道へ飛び込んだ。
「……!」
忍者男の前で信号は赤になった。
「ハッ! ざまぁみろ!」
後ろを振り返りながら、奴に悪態をついてやった。
俺はこのまま逃げ切ってやる!
そして女のところを渡り歩き、小松崎新の命を何度でも狙ってやろう。
奴が死んだら、果林ちゃんを犯して今度こそ俺の女にするのもいいな。
そんな未来を思い描き、俺がニヤリと笑みを浮かべていると……。
「危ないっ!!」
ふいに忍者男の声が響き、前を見ると大型トラックが俺に向かって突進して来るのに、俺は目を見開いた。
ドォンッ!! ドギャギャ……! メキッ!!
音と衝撃。
そして、体がバラバラになりそうな痛みを感じた途端、俺の意識はふっつりと途絶えた。
✽
それから、ぼんやりと一瞬意識が戻った時には、霞んだ視界に医者と両親が映った。
「助かったのは、奇跡です。ただ……、首から下はほとんど動かせないでしょう。話す事も……難しいかもしれません……」
「ああぁっ……。頼亜っ……!」
「お前、しっかりしなさい!」
医師の前で泣き崩れる母と悲痛な表情の父。
何か、安っぽいドラマを見ているような気持ちになった。
この俺が首から下は動かせないだと?
そんな訳ないだろう。
そして、俺はまた意識を消失した。
✽
そして、またぼんやりと意識が戻った時には痛みは大分ひいていた。
「頼亜。今日はお前にお客さんが来てくれているんだ」
「あなたのよく知っている人よ?」
今度は、両親の華やいだ声が響き、やはり霞んだ視界には両親の隣に女性の姿があった。
「私、やっとわかったの。理想の結婚は、形にとらわれず、相手を思いやる究極の愛による結び付きだって。私と結婚してくれませんか?」
聞き覚えがあるような女性の声に、果林ちゃんの姿が重なる。
(ああ。やっと天使が僕のものになってくれるのか……)
俺は微笑み、何度も頷くとまた意識を失った。
✽
そして、とうとうはっきりと意識を取り戻した時……。
「し……ぷこ………き汝はここにいる柏崎頼亜を病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?」
「はい。誓います」
「うっ……ん?」
牧師と新婦の結婚式の誓いのようなやり取りが聞こえてくるのを不思議に思い、目を開くと……。
「「頼亜……! 結婚式の最中に起きるなんて、奇跡のようねぇ!!」」
喜びの表情を浮かべた両親が俺の顔を覗き込み……。
「実さ……いえ、頼亜さん……!」
!??
ウエディングドレスを着た巨体の女が、紅を差した唇でグロテスクに、ニイッと笑った。
「こ、こひゅっ……!?」
お前、誰だっ……!?
と言ったつもりが、喉を風が通るような音しか出せなかった。
その上、首から下の感覚はなく、全く動かす事が出来ない。
「私は小丸美咲。いいえ。たった今から柏崎美咲。私はあなたの妻になったの」
「はひゅっ?!!」
どういう事だ?!!
小丸美咲は、俺が寝取って捨てた小松崎新の元婚約者で、頭と性格は悪いものの、見かけだけは美人だった筈。
それが、何でこんな相撲取りのような外見に……!
いや、小丸美咲が激太りしようがこの際どうだっていい!
俺の妻になったってどういう事だ?
縋るように両親を見ると、両親はにこにこの笑顔で状況を説明した。
「頼亜。小丸美咲さんは、あなたからひどい扱いを受けて捨てられた女性の一人だったけれど、私達に慰謝料は要らないから、結婚させて下さいって頼んで来たの」
「ああ。お前のこれまでの罪も、体の状況も全てを理解した上で、それでも一緒に支えたいと言ってくれたんだ。こんな女性は他にはいないぞ?」
「はひゅっ……!? はひゅひゅっ!! ほひゅひゅっ!?」
はあっ……!? だからって勝手に結婚相手にするとか、あり得ないだろう!!僕の意思はどうなるっ!?
俺が必死に抗議していると、小丸美咲(?)は 頷いた。
「ええ、ええ。あなたの意思はあの時教えてくれたわね? 私が「私と結婚してくれませんか?」って聞いたら、何度も何度も頷いてくれた。嬉しかった……!」
……!!
そう言えば、意識が朦朧としている時に、そんな事を聞かれたような……。
俺は果林ちゃんだと思ってつい頷いてしまった……!||||||||
「ああ、柏崎さん、目を覚まされたんですね!」
「皆さん、よかったですね!」
俺が愕然と目を見開いていると、看護婦と医師が病室へ入って来た。
検査をした後、医師は明るい表情で告げた。
「うん。やや心拍数と呼吸数が高いですが、体の状態は問題ないです。ご結婚もされたとの事、おめでとうございます。皆でいい方向へ向かっていきましょうね」
「ええ。本当におめでとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
何一つめでたい事などない中、両親と小丸美咲(?)は医師と看護婦に涙を浮かべて礼を言う。
「結婚式の記念に撮影しましょうね? は〜い。 二人寄り添って下さい」
「頼亜さん〜♡ ブチュッ♡♡」
「んん〜!!||||||||(嫌だ!やめろ〜〜!!)」
パシャ!
小丸美咲(?)に無理矢理唇を奪われたところを看護婦に写真を撮られ、おぞましさに涙が出た。
「あら、頼亜ったら泣いてるわ……」
「よほど嬉しいんだろう。ううっ。よかったな、頼亜。安心しろ、ちゃんと婚姻届も代筆で出してやるからな?」
「「「ご結婚おめでとうございます!✧✧」」」
「頼亜さん〜♡♡」
「ぐはっ!☠☠」
両親は誤解して感動の涙を流し、牧師、医師、看護婦は祝福の言葉を述べ、小丸美咲(?)にのしかかられる中、俺は心の中で必死に叫んでいた。
こんな最悪な結婚は嫌だっ!!
どうか夢なら覚めてくれ〜〜!!!!
✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽
「皆さん。お久〜! 「皆さん。お久〜! 小股の切れ上がったいい女、み・さ・き・んで〜す♡
うふ〜ん♡ あは〜ん♡」
贅肉が五段ぐらいになっている腹を惜しげもなく晒したビキニ姿で、ヨーチューバー『みさきん』はセクシーポーズを取ると、人差し指を突き出した。
「今日は皆さんに重大発表があります! 実は、私、大好きな彼ピッピと結婚しました〜!!」
『あはは! みさきん、面白い冗談!』
『ネタなんだね! 分かってるよぉ!』
『いや、彼氏も同じ星の住人かも。体重は4桁かな?』
「もう〜、本当ですよ! ホラ、婚姻受理証明書だってあるんですから〜」
視聴者からのコメントに元々パンパンの頬を更に膨らまし、「みさきん」は、画面上に個人情報だけ加工して隠した書類を掲げた。
「彼は、事故で思うように体が動かせませんが、私との結婚を喜んで承諾してくれました。彼の入院費を稼ぐ為にも、みさきんは、これからもドシドシ稼いでいきたいと思います!」
『あれ、コレマジな話? しかも泣ける系?』
『旦那さんの為に稼ぐみさきん偉すぎ!』
『みさきん頑張って!』
「みんな、ありがとう〜〜!! 私、今、とっても幸せです〜!! 夢なら覚めないで〜!!」
視聴者の皆から温かいコメントが届く中、「みさきん」は涙を流して礼を言っていたが……。
事情を知る俺と果林はその動画を見て、頬を引き攣らせた。
「あの女が柏崎と結婚したって、やっぱり、本当だったんだ……」
「あ、ああ……。服部さんと鈴木さんから聞いたときはまさかと思ったけどな……」
柏崎は俺を襲って失敗した後、ボディーガードの服部さんが追跡中にトラックに轢かれ、全身不随になったらしい。
奴は一生病院で過ごす事になり、きちんと罪を償わせかったと服部さんは悔やんでいたが、俺はそれすらも奴が天から受けた報いのような気がしていた。
服部さんと鈴木さんのその後の調査で、式場で俺を拉致ろうとした美咲さん(?)は、有名なヨーチューバーとしてかなり稼いでいて、どういう訳か柏崎と結婚したらしい事が分かった。
柏崎が全身不随という事で、普通の夫婦らしい生活は送れないだろうが、美咲さん(?)は彼を支え、共に過ごす事に生きがいを見出したようだった。
疑問だったのは、全身不随の状態で、柏崎に結婚の同意が本当に取れたのだろうかという事だったが……。
「まぁどうでもいいか。二度と会いたくはないけど、他の人に迷惑をかけずに生きていくなら、幸せだろうが不幸だろうが好きにすれば……」
「いや、不幸一択なんじゃ……?
あらっちゃんの命を狙ったんだから、自業自得だけどね!」
俺の隣で果林はそう言い、ツンと顔を反らしたのだった……。
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
次話は、いよいよ本編最終話。ハッピーエンドを迎える果林と新を最後まで見守って下さると嬉しいです。
今後ともどうかよろしくお願いします。




