襲撃は突然に……!
ガチャガチャン……。
美咲さん(?)がその場を去り、床に取り落としたものを拾って見ると、キラリと銀色に光るそれは大きな手錠だった事が分かった。
「なんだ……。ナイフかと思ったじゃねーかよ! 美咲さん(?)はこれで一体何する気だったんだよ……」
俺が脱力し、大きな手錠に自分の腕を合わせてみると、ブカブカだった。恐らく美咲さんの手首のサイズに合わせてしまったのだろう。
「これじゃ、すぐすり抜けちゃって、拘束する道具としても使えないじゃん。あの人頭悪過ぎっしょ……」
果林も呆れて果て、橘さんも井堀さんも苦笑いを浮かべている。
ギィ……。
そこへ、会場の扉が開き、鈴木が気遣わしげな表情で現れた。
「あの。社長に入場が遅れているようだと聞いたんですが、小松崎さん、桃谷さん大丈夫ですか? さっき一瞬地震のような揺れもありましたし、心配で……」
「「あっ。鈴木さん!」」
「「鈴木様!」」
俺と果林、橘さんと井堀さんは声を上げ、事情を鈴木さんに説明した。
「うわっ。そんな事があったんですね! ボディーガード役だったのに、お役目果たせず申し訳ないです!」
平謝りする鈴木に、俺はブンブンと手を振って否定した。
「いや、ほんの少しの間だからと油断して、付き添いを断わった俺が悪かったんです。果林も怖い思いさせてごめんな?」
「ウチは、別に……! それより、あらっちゃんが無事でよかったよぅ。ふええん!」
果林にも謝ると、彼女はまた涙を流し、俺に抱き着いたまま離れられないようだった。
「何より、こうした事態を想定しながらも、式場の入り口で小丸様をお止め出来ず、お二方を危険な目に遭わせてしまい本当に申し訳ありませんでした!」
「申し訳ありませんでした!」
「いえ、とんでもないです。お二方共、守って下さりありがとうございました!」
「本当にあらっちゃんを守って下さってありがとうございます!」
支配人の橘さんとウエディングプランナーの井堀さんにも深々と頭を下げられ、俺と果林は逆に頭を下げる。
「しかし、橘さんのあの演説、美咲さん(?)に効果覿面でしたね。こういう現場に対処するマニュアルがあるんですか?」
「ああ、いえ。実は、私の結婚式の時に、ストーカーの女性が乱入した事がありまして、その時にあんな口八丁でお帰り頂いた事があるんです」
「「え! そうなんですか?」」
俺と果林が驚いた声を上げると、橘さんは更に説明を続ける。
「失礼ながら、その時のストーカーの女性と小丸様のご性格が似ていらっしゃるように感じましたので、同じような声かけをさせて頂きました。
大きな幸せの裏には陰が出来る事もございます。式場にいる間、その陰から新郎様、新婦様の身をお守りする事も私の務めでこざいます」
「「橘さん……!」」
橘さんの支配人魂に俺も果林も感銘を受けたのだった。
その後、鈴木さんには、念の為美咲さん(?)の後を追って安全確認をしてもらう事にした。
少し時間が経ってしまっているが、ウエディングドレス姿の巨体の女性が地響きを立てながら走っていたら、目撃者も多く、すぐ見つかるだろうとの事だった。(実際、その後すぐに美咲さん(?)の姿を捕捉したと鈴木さんから連絡があり、彼女が悪さしないように、今日一日見張っていてくれる事になった)
そして、俺と果林は予定より少し遅れたものの、無事会場に戻る事が出来、すぐにルミナス☆ミの出し物が始まった。
『『『元気出してね マイダーリン〜♪
君は僕の天使〜僕の太陽〜♪ 暗闇照らす眩しい光〜♪』』』
わあぁっ!
結婚式の余興としては豪華過ぎる、ルミナス☆ミの生ライブを聴き、招待客は大喜び。
ルミナス☆ミのバックのスクリーンには、デビューコンサートの後、舞台袖で俺と果林が笑い合っている画像、生告白番組で俺が果林から花束を受け取る画像、 クリスマスライブの時に使ったゴンドラに俺と果林が乗り、寄り添っている画像、そして卒業コンサートで俺と果林がアヤと舞弓からサプライズの質問を受けている画像が次々に映し出されていた。
俺と果林の9年間の軌跡は、ルミナス☆ミの軌跡でもあった。
『僕はずっと君の側に〜〜い・る・よ〜〜♪』
果林達の歌声を聞きながら、先程の恐怖も頭を掠め、生きていてよかったと身に沁みて思い、そして、果林とのこれからの生活を頭に思い描いた。
✽
「ふーっ。大荷物だな」
「式関連の荷物の他に、式場から沢山お土産もらっちゃったもんね。有難いけど」
結婚式を終えた俺と果林は、新居の戸口の前で、一度荷物を下ろした。
「「最高の式だった」って皆に言って貰えてよかったね? あらっちゃん」
「ルミナス☆ミの生演奏はあるし、桃谷果林手ずから、引き出物を渡して貰えるし、そりゃ最高の式だろうよ!」
「あははっ。あらっちゃん、めっちゃファン目線!」
「そりゃ、俺は果林のファン一号だからな!」
果林に笑われるも、俺は得意気に胸を反らす。
「これからも、ずっとずっとファンで大好きでいてくれる?」
上目遣いで人差し指を口に当て、そんな問い掛けをしてくる果林に、俺は頷いた。
「もちろん。俺は生涯果林のファンで大好きに決まってるだろ! あと、マネージャー兼旦那な!」
「ふふっ。肩書きがいっぱいだね? あらっちゃん♡」
「果林だって、俺の推しかつ担当タレントかつ妻。肩書きがいっぱいだぞ?」
そうして、俺達は見つめ合いどちらからともなく近付き……。
「んむっ……ちゅるっ……んむむっ……」
「んんっ……ちゅるっ……んんっ……」
熱い口付けを交わした。
果林の柔らかい唇と舌の感触と甘い唾液を味わいながら、幸せを噛み締めていると……。
「死ね……!」
ダッ……!
短くも怨念の籠った呪詛の言葉と地面を蹴る音に、ハッと目を見開くと、帽子を目深く被った、黒パーカーの男がこちらに突進して来るのが見えた。
「危ない!」
ドンッ!
「キャッ!!」
反射的に果林を後ろに突き飛ばすと、男の手元に光る刃物がスローモーションのようにゆっくりと首元に迫ってくるのを、俺は信じられない思いで見詰めていた……。
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
一難去ってまた一難。新の安否は……!?
全ての命運が決定する、緊迫の次話を見守って下さると有難いです。
今後ともどうかよろしくお願いします。




