「アルテミス」支配人の熱き演説
「美咲さん……だって? (いや、だって彼女はそんなに……)」
「う、うん! (太っていなかった! 寧ろ痩せ過ぎていたよね)」
小丸美咲だという恐ろしく太った女性(ウエディングドレス姿)を前に俺と果林は戸惑い気味に目を見交わした。
「まぁ、グラマーになって見違えたかもしれないけど、私は小丸美咲よ?ホラ、新さんが買ってくれたこの婚約指輪が証拠!」
美咲さん(?)は、ブルルンと牛のような胸を震わすと、左手の小指の先に引っ掛けている指輪をくるくると回した。
「う、う〜ん。確かにそれは美咲さんにあげた婚約指輪に似ている気がするけど、嵌めれてないし……」
薬指どころか、ちぎりパンのような太い小指にも、その指輪は全く入りそうになかった。
「大体、美咲さんなら、顔写真を登録しているから、式場の入り口で止められる筈じゃ……ハッ!」
そこまで言いかけて、俺は支配人の橘さんとのやり取りが思い出され、息を呑んだ。
『体重が増減する事で、顔認証が効かない事もあるんですか?』
『短期間に通常ではあり得ない位の体重の増減をしない限り、そんな事はありませんよ。ハハッ』
「もしかして、通常ではあり得ない位体重が増加したから、顔認証が別人と判断しちゃったって事か?!」
「そ、そんな事があるのっ?!」
「どうやら、そのようです。くっ……!システムの穴をついて来られるとは!」
橘さんの言葉を思い出し、俺と果林が慄いていると、井堀さんが悔しさを滲ませた。
「幸せなお二人のお邪魔はさせません! 小丸美咲様! お気持ちは分かりますが、当式場での「卒業行為(※新郎及び新婦を連れ去る)」はおやめ下さい!!」
「「!」」
俺達を庇い、ウエディングドレスを着た巨体に井堀さんは果敢に立ち向ったが……。
「無能なウエディングプランナー(ムカつく事に既婚者)はどいてなさい!」
ボフン!!
「ぎゃふっ!!」
ガターン!!
「「井堀さんっ!!」」
井堀さんは、美咲さん(?)の大きな尻に押され、その場に倒れ込んだ。
「ううっ……」
「井堀さん、大丈夫ですか?」
果林が急いで井堀さんを助け起こしている間に、いつの間にか、俺の前に美咲さん(?)が迫っていた。
「さぁ、新さん。お互い、今までの事は全て水に流して、またここから私達全てをやり直しましょう? 今は、ヨーチューブで私も収入があるから、豪華な結婚式も挙げられるわ! 一緒にゴンドラに乗りましょう!!」
「な、何、勝手な事を言っているんだ!? 美咲さん(?)今更そんな事が出来るわけないだろう! 大体ゴンドラには積載量だってあるんだし!」
「そ、そう! ゴンドラに乗るなんて無理だよ! コンサート用のゴンドラ積載量は、成人男性三人分想定だって言ってたもん!!」
「え、ええ……! お相撲さん三人分位の体重があるかもしれない今の小丸様は、積載量オーバーの可能性が高いかと……! 危険過ぎます!」
「だまらっしゃい!!」
あまりに恐ろしい状況に動揺し、全員で美咲さん(?)の体重とゴンドラの積載量について指摘してしまうと、彼女は怒りに顔を深紅に染めた。
ドスドスッ!! ズズンッ!
「わっ!」
「「きゃっ!!」」
美咲さん(?)が足を踏み鳴らした途端建物が一瞬大きく揺らいだ。
ガシッ!
「!||||||||」
「あらっちゃん!」
「小松崎様!」
体勢を崩したところ美咲さん(?)に腕を掴まれた。
「新さん、ちょっと大人しくしてもらうわねぇ……?」
「ひっ!」
彼女はニタリと笑いながら、剣呑なセリフを吐く。
彼女は左手で俺を捕らえ、右手にはもう銀色に光るもの何かを持っているようだった。
刃物か何かかと、俺が身を固くした時……。
「ハァハァッ。小丸美咲様! おやめ下さいっっ!!」
「アルテミス」の支配人橘さんが、大急ぎで俺達に向かって走って来た。
「誰かと思えば、このショボい式場の支配人じゃない。私はここで失ったものを取り返しに来たの! 誰にも邪魔はさせないわっ!!」
「うぐっ……」
「あらっちゃんっ!」
「小松崎様っ!」
美咲さん(?)は、俺を掴む腕に力を込め、橘さんに向かって叫んだが、彼は更に大音声で叫び返した。
「失ったものを取り返す! あなたの望みはそんなちっぽけなものだったんですかっっ!!?」
「「「??」」」
「な、何ですって……!?」
支配人の言葉に、俺達は当惑し、美咲さん(?)は、意表を突かれたように目を見開いた。
「三ヶ月前に、この式場で小丸美咲様はおっしゃいました。自分により相応しい相手とより理想的な結婚式をする為に婚約破棄をするのだと……!
私は、当式場で小松崎様と小丸様の結婚式がキャンセルになった事は、残念でしたが、一方で、小丸美咲様は結婚に関して更なる高みを目指していく方なのだと感銘を受けたものでした……。それなのに、今の小丸様からは、全くその時の気概を感じる事が出来ません!」
「……!」
「「「???」」」
橘さんの突然の演説に、美咲さん(?)はハッとしたような表情になり、俺、果林、井堀さんは更に当惑し首を傾げた。
「高みを目指すどころか、既に灰谷様という素晴らしい伴侶を見つけられた小松崎様に対して今更ちょっかいをかけ、その幸せを壊そうとするなど、プライドのない泥棒猫のする事です!」
橘さんの話の意図は全く分からないものの、美咲さん(?)にはかなり効いたようだった。
「わ、私が、プライドのない泥棒猫……。そ、そんなっ……||||||||」
カシャーン! ドスッ!
彼女の腕の力は緩み、持っていた銀色に光るものを取り落とし、その場に膝をついた。
俺はその隙に、彼女から離れ、半泣きの果林の元へと戻る。
「果林……!」
「あらっちゃん! うわぁん。よかった!」
「私は一体どうしたら……」
途方に暮れたように呟く美咲さん(?)に、橘さんは肩に手をかけ、にっこり微笑んだ。
「賢く、高潔なあなたなら、もう進むべき道が分かる筈ですよ? 最初に目指した事を全うするのです。より相応しいと思った相手とあなたの描く理想の結婚式をぜひ挙げて下さい!」
「でも、実さんは、もう私の前からいなくなってしまって……」
「それが何ですか! 招待されてもいないのに、ウエディングドレス姿で、元婚約者の結婚式に乗り込む位度胸とバイタリティーのあるあなたなら、彼を探し当てるぐらい造作もない事でしょう!」
「!! そ、そうだわ! 私なら、きっと出来る! 彼を探し当てて、結婚してみせる!!」
橘さんの言葉は致命的なディスリにしか聞こえなかったが、美咲さん(?)には何故か勇気を与えたようだった。
「新さん……。ごめんなさい。やっぱり、私、あなたとは結婚出来ません……」
切なげな表情の彼女に、俺は引き攣り笑顔で答える。
「あ、ああ。そうだね。美咲さん(?)(俺は果林と結婚するからな)」
「は? あなたが勝手にあらっちゃんを拉致しようとしてただけでしょうがっ!」
果林はぷりぷりと怒っている。
「さようなら、新さん! 待ってて、実さん今行くわ〜!!」
ドドドドッ……!!
美咲さん(?)は地響きを立てて、その場を去って行き、彼女の姿が見えなくなると、俺達は全員安堵のため息をついたのだった……。
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
みさきんの脅威は去りましたが、皆の心に消えない何かを残して行きましたね……(;´д`)
気を取り直しまして、果林と新の今後を見守って下さると有難いです。
どうかよろしくお願いします。




