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結婚直前に婚約破棄されたマネージャーの俺が育てたアイドルに拾われ婚するってマ?   作者: 東音
第七章 育てたアイドルに魔の手が 迫るってマ?

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おまけ話 アイドル桃谷果林 人生を覚悟するとき《後編》

 打ち合わせで、ウチがやらせはしないと宣言してから、事務所で盛大に叱られてしまった。


「バカモンッ!! 番組の打ち合わせでスタッフの言う事聞かないでどうする! 今までは番組でちょっとしたやらせがあるのは受け入れられてたろうが!」

「ううっ……。果林さん、困りますぅっ……」


 大文字社長に青筋立てて怒られ、第二マネージャーの佐々木さんに泣かれても、それでもウチは引けなかった。


「そりゃ、番組を演出する為に多少のやらせはつきものだって、それは受け入れられてた。でも。この件に関しては無理! ウチは好きでもない人に告白するのは嫌っ! その方がリアリティがあって、盛り上が……」


「結婚を控えたマネージャーに告白して、振られて何が盛り上がるんだ! それじゃ、数字取れねーだろが!」


「……!! 社長、ウチの気持ちっ……」


 社長にウチの思惑を見抜かれていたと知り、目を見開いた。


「ああ。お前が新に惚れてる事は、分かり切ってる。だけど、三ヶ月後にあいつは結婚するんだ。

 そんな奴に、横恋慕して告白して振られるなんて、世間のお前の評価は下がるかもしれない。もしくは、振られても後腐れのない事務所の人間に告白を済ませた事で逆にやらせだと思われるかもしれない。

 どちらにしろ、番組は盛り上がんねーだろうよ。それを新が喜ぶと思うのか……?」

「……!」


 大文字社長の言う事もよく分かるけれど、納得は出来なかった。


「でも、それでも、ウチはっ……」

「ま、まぁまぁ、社長、果林さんもゆっくり考える時間が必要だと思いますよ?」


 唇を噛み締めるウチを、佐々木さんが庇ってくれた。


「はぁっ……、そうだな。ちょっと頭冷やしとけ」

 大文字社長はため息をついて、デスクチェアを軋ませ、そっぽを向いた。


「果林さん、朝から仕事でお疲れでしょう? 飲み物でも飲んで少し休憩されたらどうですか?」

「ありがとうございます……。その前にちょっと、お手洗いに……」


 佐々木さんにお礼を言って、ウチは事務所の部屋を出て、廊下に座り込んだ。


「はぁっ……」


 ウチだって分かってる。アイドルタレントとして成功する事は、ウチとあらっちゃんの大事な夢で、ここで躓いたらいけないって。


 失恋という現実を受け入れなきゃいけないって。


「……」


 ウチは拳をギュッと握り締めると……。


「よし! 告白しよう」


 大きく頷き、携帯をカバンから取り出した。


 告白番組では、やらせで好きでもない男の人に告白しなきゃいけないとしても、その前に本当に好きな人に想いを伝えたい!


 あらっちゃん、式の打ち合わせは1時間ぐらいと言っていたから、もう終わる頃だよね……。


 トゥルル、トゥルル……。


 呼び出し音がしばらく続く。


 トゥルル、トゥルル…………。


 婚約者さんと一緒だから今は無理かな……と思ったところで、あらっちゃんが電話に出た。


「……! あ、あらっちゃん? 打ち合わせ、終わった? 出るの遅かったけど、もしかして、今、婚約者の人とデート中?」


『いや……。彼女は帰った……』


 緊張を隠すように早口で聞くと、あらっちゃんはいつになくテンションが低かった。


 婚約者と一緒で、ウキウキ気分で惚気られるか、いいとこだったのに邪魔をするなと怒られるかだと思っていたウチは目をパチクリさせた。


「あれ、そうなんだ? 朝は、今日はお前のようなお子様には分からない大人のデートをして来るぜってメッチャマウントとって来てたのに……」


『……』


 え。何、その沈黙。まさか、ウチの電話のせいで婚約者が帰っちゃったわけじゃないよね?

 まずは、仕事の話題を振って、あらっちゃんの様子を窺ってみる事にした。


「まぁ、いいや。それなら、ちょっといい? いや、今、例の告白番組打ち合わせから事務所に戻って来たところなんだけどね?

 番組側に今回は一切やらせはしませんって宣言したのを、社長に「それじゃ数字取れねえだろ!」って怒られちゃって、佐々木さんには「困りますぅっ」って泣かれて大変だったの。

 あらっちゃんにもその場にいて、いつものように「お前はお前らしくいればいい」って言って頭ナデナデしてフォローして欲しかったぞ? 婚約者さんも大事だろうけど、9年も付き合って来ている看板アイドルも大事にしてよねっ?」


『果林……』


 番組であらっちゃんに告白すると言って怒られた事は伏せて辛い状況を訴えると、いつもすぐに明るくウチを励ましてくれるあらっちゃんが、言葉に詰まっているようだった。ウチを呼ぶ声もとても暗い。


「ん? あらっちゃん、さっきからどした? 声、ゾンビみたいだよ?」 


『ああ。俺、急にゾンビになっちまったみたいだ……』


 あらっちゃんが、いよいよおかしい。お休み中にこんな電話してこられて迷惑に思ってるのかな? 告白の前に、ウチ嫌われちゃったかも?


「いやいや、何言ってんの? なんか、怒ってる? いや、ワガママ言ってごめん。ちょっとあらっちゃんの声が聞きたかっただけだよぅ。これからは、婚約者さんとの予定がある時はいい子に……」


 焦って謝ろうとするウチに、あらっちゃんは力のない声で答えた。


『怒ってねーし、もう……そんな機会ないから、安心しろ。俺、婚約破棄されたし……』


「え」


 あらっちゃんは、何を言ってるの……??


『有名実業家と付き合う事になって、そいつと結婚するから、婚約破棄させてくれだってよ。


 甲斐性のない俺に、ずっと前から不満があったらしい』


 更に信じられない事を告げられ、ウチは目を剥いた。


「ええっ? ちょっと待って、それマ? 婚約者さん、浮気してたって事?」


『ああ。そうらしい。式場の打ち合わせの中についさっき、婚約破棄を申し渡された。今の男に貰った慰謝料と式場のキャンセル代として300万円の札束を俺に叩きつけて、彼女は去って行ったよ』

「〰〰〰!」


 衝撃の連続に、ウチは腹の底から怒りが湧いて来た。


「何その婚約者! 結婚間近なのに浮気しておいて、わざわざ式場で婚約破棄宣言とか、あり得ないんですけど! その婚約者の相手の男もおかしいよ! 人の婚約者を奪っておいて、札束さえ積めば何でも許されると思ってんのっ?」


『ははっ。そうだよな……。23のお前でもあり得ないしおかしいと思うよな……。あまりにも当然のように去って行ったので、こっちがおかしいのかとさえ思ったぜ。ハ、ハハハ……』


 乾いた笑い声を立てているあらっちゃんは、当たり前だけど精神的なダメージを受けてて、ちょっとおかしくなっちゃってて、ウチは必死に呼びかけた。


「あ、あらっちゃん! 気を確かに! 大丈夫! ちょっと待って! 今、全部上手く行くよう社長に相談してみるから!」


『?? 果林?』


 ガチャッ!


「(社長! 佐々木さん!)」

「「!?」」


 ウチはある決意を胸に事務所のドアを再び開き、ツカツカと歩み寄ると、社長と社長のデスクにコーヒーを置いてい佐々木さんが何事かと目を見開いた。


「(ウチ、やっぱりあらっちゃんに番組で告白します!)」

「はっ? だから、それは無理だって

 さっき……」

「果林さん?」


 非難するような二人の言葉を封じるようにウチは厳かに告げる。


「(あらっちゃんが婚約破棄されました!)」


「「!!」」


「(これからは、ウチが傷付いたあらっちゃんを支えてあげたいの。アイドルだからそれが出来ないなら、ウチは芸能界を辞める覚悟があります!)」


「「果林さん!?」」


 衝撃を受ける大文字社長と佐々木さんに、ウチは更に訴えかける。


「(告白番組でアイドルからマネージャーへのドラマチックな告白を成就させれば、番組も盛り上がるし、イメージダウンにもならないんじゃないかな?)」


「おまっ。そんなの、出来るわけっ……う、ううん? ま、一理あるがしかし……。そんなの前代未聞……。」

「ううっ。果林さん、またとんでもない事をっ……!」


 ウチの提案に大文字社長は慄き、佐々木さんはすすり泣いた。


 もし、これが受け入れられないとしても、覚悟は決まっている。


 社長がどう判断するのか、固唾を呑んで見守っていると……。


「いや、一か八か賭ける価値はあるか」

「社長?!」

「……!」


 佐々木さんが驚きの声を上げる中、大文字社長は難しい顔で頷き、鋭い視線でウチに尋ねて来た。


「果林、新の為に人生をかける覚悟はあるな?」

「もちろん!」


 即答するウチに、大文字社長は悪役俳優のような貫禄のある笑顔を浮かべた。


「ハハッ。お前らお似合いかもな。後は任せとけ、果林。成功率100%の告白劇の舞台を整えてやんよ」

*あとがき*


 いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m

 生告白番組のサプライズ企画が決まった時の舞台裏はこんな感じでありました。

 来週は、おまけ話 桃谷果林18才 〜必要な婚姻◯◯◯届♡〜、そして、いよいよ最終章の話をお届けしていきたいと思います。


 今後ともどうかよろしくお願いします。

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