君は僕の天使
お忍びデートで身に着けていた帽子とサングラスを取り去り、果林は俺にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「ここ、誰もいないから大丈夫っしょ」
「ま、まぁ、そうだが……」
確かにこの小さな海辺に俺達の他に人影はいないようだ。
周りをキョロキョロしている俺に、果林は呼び掛けた。
「あらっちゃん! 『アイドルになって本当によかったか』っていう、あらっちゃんの質問に対するウチの答え、見ててね」
果林はそう宣言し、俺の前ですうっと息を吸うと……。
「元気出してね マイダーリン〜♪
君は僕の天使〜僕の太陽〜♪ 暗闇照らす眩しい光〜♪」
……!
俺に右手を差し出すようなポーズを取り、果林は透き通った綺麗な歌声を響かせた。
その曲は、ここでMVを撮ったルミナス☆ミのデビュー曲「元気出してねマイダーリン」
デビュー当時は、高音のところを少し苦しそうに歌っていて、振り付けもやっとの事でこなしていた果林だが……。
「君の悲しみ〜♪ いつか癒えて〜もっと強く輝ける日まで〜〜♪」
アイドルとして大成した今では、綺麗な高音とキレのよいダンスを披露してくれる。
メンバーは一人変わってしまったが、9年間懸命に頑張り続けたルミナス☆ミ、そして果林の軌跡を思い、目頭が熱くなった。
「僕はずっと君の側に〜〜い・る・よ〜〜♪」
開いた開いた両手を胸の前で交差させ、果林は歌い上げると、得意げな笑顔で俺の顔を覗き込んで来た。
「ど? あらっちゃん?」
「いや、ハハッ。すげーよ、果林! 本当に成長したな! デビュー当時の事を思い出して、うるって来ちまったぜ」
目の端を指で拭うと、俺は大きな拍手を送った。
「イエ〜! あらっちゃんに褒めて貰えて嬉しい!」
夕焼け空の下、頬をピンク色に染めて満面の笑みでピースマークを出す果林は輝いていて、その眩しさに俺は目を眇めた。
「お前は本当にこの曲そのものだよな。辛い環境にもめげずに立ち上がって、頑張り続けて太陽のように輝くアイドルになったんだ。
原点になるこの曲を歌ったって事は、果林の答えはアイドルになった事を後悔していないって捉えていいのか?」
果林は力強く頷いた。
「うん、もちろんそうだよ。あらっちゃん。ウチはアイドルになる道を選んだ事を後悔なんかはしていない。この曲の解釈はちょっと違うけどね」
「ん? そうなのか?」
「ウチは、あらっちゃんがこの曲そのものだと思ってる」
「はぁ〜? 俺が天使とか太陽ってガラかよ! ハハハッ!」
真面目な顔でそんな事を言って来る果林を、俺は笑い飛ばしたのだが……。
「本当だよ? あらっちゃん! お母さんに捨てられちゃったあの時、アイドルとして拾ってくれたあらっちゃんが天使のように、暗闇に差し込む日の光のように見えたの!」
「いや、果林……。お前がそう言ってくれて有難いけど、あの時は、傷付いてるお前に俺の願いを一方的に押し付けてしまってやっぱり悪かったと思ってるんだよ。同じ選択をするにしても、まずは環境を整えてから、ゆっくり選ばせてやればよかったんじゃないかと……」
「ううん、それは違うよ、あらっちゃん。あの時、どんな綺麗事を言われるより、ウチの事を必要だって事を本気でぶつけて伝えてくれたのが嬉しかった。だから、人見知りの性格を直して、あらっちゃんみたいに、いつも明るくて、人に元気をあげられるような人になろうと思ったんだ!」
「果林……」
確かに、果林はルミナス☆ミとして活動するようになって明るく元気な表情を見せてくれるようになったが、それが努力して俺を真似した結果だったと知り、何とも言えない気持ちになった。
「そして、あらっちゃんに何か辛い事があった時は同じ言葉を返してあげたいと思ってた」
果林は俺に手を差し伸べた。
「これは運命の出会いだったと思っているぜ! 小松崎新。 ウチが君を丸ごと引き受けてやる! この手を取ってくれ」
「果林……!」
「ウチは小松崎新の黒い髪も目も鬱陶しいくらいに熱血漢な性格も大好きだし、君の育てた人気タレントかつ妻として、ずっと側にいるよ。 今度は本当に「絶対大丈夫」だ!!」
「本当にによく覚えてるな! 俺、そんな事言ってたのかよ。ヤバいな……恥ずかしっ……、っ……」
真っ直ぐな青い瞳で力強い言葉を吐く果林の手を取ると、涙がボロボロッと零れた。
「やばいっしょ? 泣けるっしょ? あの時のウチの気持ちが分かったかい?」
霞む視界の中、果林は小憎たらしい、してやったりの笑顔を浮かべた。
*あとがき*
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