減額の条件
「減額を検討する代わりに、美咲さんが付き合っていた実業家の男の情報を全て教えて下さい」
「ああ、代わりにその男から慰謝料を取るという事か。ハハッ。確かにそいつの方が家より羽振りが良さそうだもんな!」
俺が減額する条件を提示すると、美咲さんの父親はそう言い、自分達が助かりそうなことに安堵し、嫌な笑いを浮かべていた。
保身的で、全ての物事を金に置き換えて考えるところは、流石、美咲さんの父親らしい。俺は苦笑いで理由を補足した。
「まぁ、身元が判明したら相手にそれ相応の対応はさせて貰うつもりですが……。
慰謝料の話だけではなく、僕らの今後の為に不安材料はなくしておきたいですので」
婚約破棄する為の慰謝料300万円を美咲さん経由でよこして来たその男は、DV冤罪についても唆して来たらしい。
騒動になったタイミングで、美咲さんが捨てられたという事は、その目的は、やはり美咲さんではなかったという事。
俺を陥れようとする執拗な悪意はもしかしたら、果林に向くかも……、いや、もしかしたら、目的が彼女自身という可能性も……。
「そうだな。キラ星プロとしても、またこんな騒動が起こるのは勘弁だ。その男の身元が分かる情報をもらえるなら、そうだな。数百万円程、慰謝料を減額してもいいかな〜」
「「数百万円! 美咲、協力しなさい!」」
その懸念を共有している大文字社長も減額に同意したところで、美咲さんの両親は顔を輝かせ、美咲さんに迫った。
「ええっ。実さんの情報? でも今は連絡がつかなくって……」
戸惑ったように、美咲さんは、付き合っていた男について話し始めた。
✽
まぁ、結論から言うと、美咲さんの話から決定打となるような有効な情報は出て来なかった。
そもそも、その男の名前、富豪実という名前からして偽名らしい。
住んでいたマンションは短期滞在型のもの、携帯電話の番号は今は使われていないもので、どちらからも身元を特定出来そうになかった。
俺も大文字社長も落胆したが、 美咲さんと両親はそれ以上にショックを受けていた。
「じゃ、じゃあ、あの人は誰だったの……?」
「全く、どこの誰とも知らぬ男にか拐かされて! そもそも「富豪」なんて名字の人がいるわけないだろう!」
「そんな男に唆されて婚約破棄や、DV冤罪の誹謗中傷までして!」
「そ、そんな事を言われたって……」
呆然とする美咲さんの隣で両親達は怒り狂っていた。
「娘は騙されたんです。こちらからもその男に訴える事は出来ませんか?」
「そうだ! 娘はそいつのせいで、酷い目に遭ったんだ。逆にこちらが慰謝料を貰いたいぐらいだ!」
いや、怒る気持ちは分からないでもないが、今、ここで、被害者である俺達の前でする話じゃねーだろ!
「おいおい……」
「いや、本当になんなの? この人達……」
冷静さを欠いて南村弁護士に詰め寄る両親に俺達が呆れていると、南村弁護士は両手をかざして彼らを宥めた。
「落ち着いて下さい。その案件について話しているわけではありませんので、また改めて後日、ご相談下さい。 そして、減額をご検討中だった、大文字様、どうされますか?」
「ええ。身元不明も判明しなかったので、減額はしない方向でお願いしますわ」
「「そんなぁっ!!」」
「……!☠」
すがすがしい笑顔を浮かべての大文字社長の回答に、美咲さんサイドは大ダメージを受けた。
「まぁ、しょうがないですね……」
「当っ然っ!」
俺も果林も納得しかなかった……。
*あとがき*
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今回をもって、年内最後の投稿になります。
どうか皆様、よいお年をお迎え下さいませ。
よければ来年もどうか宜しくお願いしますm(__)m




