身勝手な要求
「慰謝料1千万円だとっ……!?」
「そんなっ! 美咲は前の職場を退職している上、醜聞で、主人も兄も職を失いそうになっていて大変なのに、そんな大金慰謝料とても払えませんよ!」
「そうよ! 慰謝料1千万円なんて今ここにある現金を差し引いても、差額分六百万円も支払わなきゃいけないって事じゃないっ」
「いえ、差額分は六百万ではなく、七百万円になりますね」
キラ星プロから1千万円の慰謝料を請求されると聞いて、美咲さんの両親と美咲さんが絶望的な声を上げる中、南村弁護士は冷静に美咲さんの金額の誤りを訂正する。
「そうはいっても、芸能プロダクションやアイドルタレントなんてのは、イメージが即売り上げに影響するんですよ?
マネージャーの小松崎新がDV冤罪なんてかけられちゃ、仕事も滞りますし、婚約者の桃谷果林のイメージダウンは避けられません。
今は収束しているとはいえ、そのせいでCM出演を一件、ラジオ番組の出演を一件取り逃がしているんですよ?
損害は補填してもらわないとこっちだってやっていけませんよ……!」
大文字社長は、そんな彼らに腕組みをして頑として譲らない姿勢を見せた。
「交渉決裂という事でしたら、キラ星プロダクション様、古丸美咲様双方の主張を裁判で争う事になりますね。訴訟の手続きに移らせて頂いて宜しいでしょうか?」
「「「訴訟……||||||||」」」
「おう。こっちは構わないですよ〜! 徹底的に戦ってやろうじゃねーの!」
南村弁護士にキラリと目を光らせて訴訟を示唆され、美咲さん達は怯み、覚悟の決まっている大文字社長は胸をドンと叩いた。
「ちょっ……、ちょっと待って下さい。これ以上大事になるのは困ります。家族で少し話し合わせて下さい……」
「それだと、予定の時間を超過してしまいますが……」
美咲さんの父親の要求を受け、南村弁護士は、気遣うように俺達に目を向けたが、大文字社長は頷く。
「ああ。いいぜ? 今日は長めに時間を取ってあるから、よく話し合って決めてくんな?」
「では、今から20分、話し合いの時間をどうぞ」
南村弁護士の言葉に、美咲さんと両親は向き合い、沈鬱な雰囲気で話し合いを始めた。
「美咲、実際問題、今貯金はどのくらいあるんだ……?」
「それが、今は二、三万しか……」
「雀の涙じゃない! 最近までお勤めして貯めていたんじゃないのっ?」
「そうだぞ! 結婚も控えていたのに、お金を貯めようとは思わなかったのかっ?」
「あんな薄給、美容や服にすぐ消えちゃうわよ! 実さんから貰ったお金も、マンスリーマンションの退去と引っ越しでほとんど使っちゃたし!」
両親に声を荒らげて責められ、喚く美咲さんを見遣りながら、俺より裕福な実業家に乗り換えた筈なのに、懐具合が寂しいとは、あの婚約破棄には一体何の意味があったのだろうと、虚しい気持ちになっていると……。
「信じらんない! その状態であらっちゃんと結婚しようとしていたの? 私は14の時からコツコツあらっちゃんとの結婚資金を貯めていたから、安心してね?」
「へっ。果林、14の時から俺との結婚資金貯めてたの?」
果林が俺の袖を引いて呟いた言葉に、目を剥いた。
そして、そんな俺達に気付く余裕もなく、美咲さんサイドでは切羽詰まった状況で家族同士の罵り合いが始まった。
「はぁっ……。お前の育て方が悪かったんだ! 俺が美咲は「頭が悪過ぎる」んじゃないかと、再三に渡って言っていたのに、お前は「女の子は可愛ければそれでいい」と甘やかして……!
結果、結婚直前に他の男に走り婚約破棄した上、DVをでっち上げ、芸能プロダクションに喧嘩売るような頭のおかしいアラサー女になってしまったじゃないかっ!」
「頭のおかしいアラサー女?? お、お父さんっ!?||||||||」
「あなただってそうでしょう! 私が美咲は「性格が悪過ぎる」んじゃないかと、再三に渡って言っていたのに、は「女の子は可愛ければそれでいい」と甘やかして……!
結果、結婚直前に他の男に走り婚約破棄した上、被害者である元婚約者に事実無根のDVをでっち上げ、世間から罵られるような性格のねじ曲がったアラサー女になってしまったじゃないですかっ!」
「性格のねじ曲がったアラサー女?? お、お母さんっ!?||||||||」
両親が言い合いの中で自分が酷い言われようをされている事に美咲さんはショックを受けていた。
「大体、あの時、あなたが暴落する株なんか買うからっ!」
「それを言ったら、あの時、お前も訪問販売員の口車に乗って、高額布団を買わされやがって!」
「お父さん、お母さん、もうやめてよっ!」
両親の言い合いは関係ない事にも飛び火してしばらくやり合っていたが、やがて消耗し、言い合いを続ける元気もなくなったらしい。
「(ハァハァッ。と、とにかく、美咲。やってしまった事を誠心誠意謝罪して、何とか減額してもらいなさい!)」
「(ハァハァッ。ああ。そうするんだ、美咲。このままではお前だけでなく、一家が破滅してしまう!)」
「(わ、分かったわ)あ、新さん〜!」
「??」
「むむっ?」
両親に何かを耳打ちされ、美咲さんは、俺に向き直り、猫撫で声で呼び掛けて来たので、俺も果林も何を言うつもりかと眉を顰めた。
「婚約破棄とSNSを送った時は、確かに私、ちょっと、調子に乗っちゃってたみたい。ごめんなさいね〜? でも、より良い相手と巡り合って、別れた相手より幸福でいたいって気持ちは分かるでしょ?
あなただって、すぐにそこのアイドルちゃんと婚約して私のプライドを傷つけたわけだし、一緒よね〜? だから、可哀想な私の為に慰謝料を減額するように社長さんに頼んでくれない?」
は? 美咲さんは何言ってんだ?
愛想笑いを浮かべながらの美咲さんの謝罪(?)と言い分に、一瞬頭がフリーズしたが……。
ガタンッ!
「は? それ、もしかして謝罪のつもり? そんなんで減額するわけないっしょ! ふざけんなっ! あんたとあらっちゃんを一緒にすんなし!!」
「か、果林落ち着け!」
俺が何か言う前に、果林がブチ切れて立ち上がったので慌てて止めた。
「ひっ、怖い! アイドルの裏の顔はそんな粗暴だったなんて! 新さん、結婚考え直した方がいいんじゃない? 私の方がよっぽど女子力が高いわ」
「はんぁ〜!?? N◯K番組『素敵な裁縫』に出演して鍛えたウチの女子力、あんたの口を縫って思い知らせてやろうかぁっ!?」
「コラ、果林!! アイドルは猟奇ダメ! ゼッタイ!!」
「止めないで、あらっちゃん! あの性悪女の口をミ◯フィー(✕)にしてやるんだぁ〜っ!!」
カバンからソーイングセットを取り出そうとする果林を必死に阻止していると、美咲さんの両親は更に蒼白になった。
「「ひぃっ!|||||||| み、美咲、もう黙りなさい!(この子に喋らせていては、余計慰謝料を加算されてしまう!)」」
「むぐむぐぅっ……!(お母さん、何するのっ?)」
果林がミ◯フィーにする前に、美咲さんの母親は、美咲さんの口を押さえ、美咲さんの父親は俺と大文字社長に深々と頭を下げて来た。
「小松崎様、娘に代わって謝罪します。
婚約破棄の件、DV冤罪の件、本当に申し訳ありませんでした!
キラ星プロダクション様にも多大なご迷惑をおかけして、損害を与えてしまい、申し訳ありません!
ですが、このままでは家が破綻してしまいます。今後、美咲は悪さしないよう家に置いて責任を持って監督します。
何でもしますから、どうか慰謝料を減額して頂けないでしょうか?」
「「!」」
テーブルに届く程深々と頭を下げ、玉の汗をかいている美咲さんの父親の必死な姿に、俺は大文字社長と顔を見合わせてニヤリと笑みを浮かべた。
「では、減額の検討をする為にご協力頂きたい事があるのですが……」
*あとがき*
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