法律事務所での話し合い
SNSの件で美咲さんの実家に連絡をすると、以前は横柄だった両親だが、事務所からの訴訟も絡む案件と説明すると、
「娘からは依然として連絡がない状態ですが、もし、SNSの件に娘が関わっているようなら大変申し訳ありません。娘と連絡が取れ次第すぐにお知らせ致します」
と、手の平を返したように丁寧な応対をして来た。
SNSで桃谷果林の婚約者兼マネージャーのDVを主張していた投稿主は、本当に元婚約者の古丸美咲なのか? と、記者達も家に詰めかけて来たらしくて、両親はかなり疲弊しているようだった。
それから数日後に美咲さんが実家に戻って来たと両親から連絡が入った。
やはり、SNSの投稿主は、美咲さんだったらしい。
本人は精神が不安定な状態で直接話すことは難しいと、後日両親も付き添い、今後の事を話し合う事になった。
そして、数日後、藍戸瑠法律事務所にて──。
社長の知り合いの南村雨男弁護士立ち会いの元、俺、果林、社長の向かいに美咲さん、両親という並びで俺達は気まずい顔を突き合わせた。
「久し振りですね、美咲さん。婚約破棄の上、ありもしないDVをでっち上げ。
こんな形での再会とは、残念です……」
「あ、新さん……|||||||| (本当に桃谷果林に、芸能プロの社長までいる……!)」
美咲さんと顔を見るのは、式場で婚約破棄された時以来だが、居丈高な態度で慰謝料を叩きつけてきたのが嘘のように今は窶れ、オドオドしながらこちら側の様子を窺っていた。
美咲さんが送ったというSNSはあの後すぐにDVを訴える投稿が虚偽のものである事がバレ、『嘘つき』『浮気女タヒね』と悪口が大量に書き込まれ、地獄のように炎上していた。
実業家の彼氏ともうまくいかず、別れを告げられてしまったらしい。
「(むうっ……。この人があらっちゃんのひどい婚約者!)」
「(ほぉ……。これが、新の例の元婚約者……!)」
果林は怒りマックスの状態で、大文字社長は興味深そうに彼女を見遣っていた。
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『はあっ! 予算、予算ってケチ臭いわね! 私は私に釣り合った結婚をしたいの! もちろん、結婚相手はあなたじゃないわ。婚約破棄って事にさせて下さい』
『な、何だって!?』
『実は、私、数日前から他の人とお付き合いしているの。イケメンで有名実業家のその人と、もっと規模の大きい式場で、沢山人を呼んで派手に結婚式をあげるわ』
『ふぁっ?! 嘘だろっ?! もう、双方の親に挨拶してんだぞ?』
ドサドサッ!
『今の彼から貰ったの。300万円あるから、それで私の事は綺麗さっぱり諦めて?』
『美咲さんっ!? ちょっと待っ……』
『新さん、さようなら。 式場のキャンセル料を引いた残りのお金で結婚出来る程度の、あなたにお似合いの相手が見つけかるといいわね?』
『っ……!!』
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「「………||||||||」」
「そ、そんなひどい事を言ってたかしら……||||||||」
まずは、婚約破棄の状況確認の為、当時の音声データ(式場の打ち合わせの時に、事前確認を得た上でウエディングプランナーの井堀さんが録っていたものを提供してもらった)を再生すると、そのあまりに酷い内容に美咲さんの両親は絶句し、美咲さんはバツが悪そうに俯いている。
「ご存知でしょうけど、あなたに心配されなくても、あらっちゃんにお似合いの相手すぐ見つかりました〜! ルミナス☆ミの桃谷果林ですっ!」
「〰〰〰!||||||||」
「コ、コラ、果林!」
ルミナス☆ミセンターのポーズを取り、キメ顔で美咲さんに迫る果林を俺は窘めた。
「だって、この言い草、何度聞いてもムカつくんだもん! 私は例えあらっちゃんが無一文だったとしても、結婚して絶対に幸せに幸せになれる自信がある! 逆にあらっちゃんを裏切って、お金持ちの実業家に走ったあなたは、今幸せなの? ねぇねぇ、今、どんな気持ち?」
「うっ。ううっ……! やめてぇっ!||||||||」
「コラ、果林! ステイ!! お前、そりゃ、(ゾンビみたいに窶れているだけに)死体蹴りだから!」
「あうっ!」
更に挑発的に詰め寄られ、美咲さんが苦しげに悶える中、俺は果林を止めようも羽交い締めにした。
そんな俺達のやり取りを見遣り大文字社長、南村弁護士は苦笑いをしていた。
「果林……。気持ちは分かるが容赦ねーなぁ」
「ま、まぁ、音声データの内容は以上になります。
小松崎新さん と古丸美咲さんの婚約解消の状況について、DVの事実はなく、古丸美咲さんが別の男性と関係を持ち、一方的に婚約解消を告げたという事で間違いないですね」
「はい。間違いないです……」
「その際に、現金300万円を慰謝料として置いていかれたという事ですが事実と金額に誤りはないですか?」
「はい。その場で、300万円を置いていきました……」
南村弁護士の確認に、美咲さんは、消え入りそうな声で肯定した。
「一方的に小松崎新様に渡された現金300万円は、古丸美咲様にお返しさせて頂きまして、改めて後ほど慰謝料等のご相談をさせて頂きます。
金額に間違いがどうかご確認下さい」
「「「は、はい……」」」
預かってもらっていた300万円を南村弁護士が美咲さんサイドのテーブルに差し出し、美咲さんと美咲さんの両親は複雑そうな顔をしながら札を数え始めた。
現金が戻って来るのはよいが、これから俺達から慰謝料をいくら請求されるのか分からない状態では不安でしかないだろう。
金額が合うことを確認してもらった後、南村弁護士は一番トラブルになっている案件について、切り出した。
「では、続きまして、SNSの投稿について確認させて頂きます。現在、削除されている「月桂樹」というアカウントで小松崎新さんがDVをしていたという虚偽の情報を流されたという事でキラ星プロ様から、運営サイトに投稿主についての情報開示を請求中です。
この投稿主「月桂樹」はあなた、古丸美咲さんであると認められますか?」
「は、はい。認めます……。あの時はそうしないと、自分の幸せを守れないと思って……」
動機は身勝手だが、美咲さんが罪を認めたので、俺は、果林、大文字社長は共にホッとした顔を見合わせた。
ルミナス☆ミの果林卒業コンサートも控えている中、仕事に影響しないようSNSの騒動を出来るだけ速やかに収める必要があった。
SNSアカウント情報開示には時間がかかる為、この場で美咲さんが認めてくれて本当によかった。
「では、最初に小松崎新様のご要望をお伝えしたいと思います。
今回の婚約破棄については古丸美咲様の不貞が介在する一方的なものであると
した上で、小松崎新様より慰謝料の請求は希望されないそうです。
DV冤罪についても、古丸美咲様に、冤罪だった事を明らかにし、今後二度と新様に対して迷惑行為を行う事がないよう約束して頂けるなら、こちらについても慰謝料の請求は希望されないとの事です」
「「「……!」」」
美咲さんと両親は驚いたように俺の顔を見て来たので、南村弁護士が述べてくれた結論についてその理由を補足する事にした。
「僕は……美咲さんが式の直前に他の男に走って婚約破棄した事、俺が果林と婚約したと知って、DV冤罪をでっち上げた事、決して許してはいません」
「新さん……||||||||」
美咲さんにされた事を思い返し、再び脈打つような怒りや身を切るような哀しみが蘇りながら、彼女を見据えると……。
ぱさついた髪、落ち窪んだ瞳、こけた頬。
美人だった元婚約者が変わり果てた姿で震えているのを見遣り、俺はやり切れない思いでため息をついた。
「ですが、彼女も相手の男に同じような目に遭わされたようで、既に天罰は受けているように思います。
それに、今回の婚約破棄をきっかけに果林というかけがえのない伴侶を得ることが出来ました……」
「あらっちゃん……! //」
隣の果林と目を合わせると、彼女は照れたような表情で青い瞳をうるうるさせた。
「式は彼女とそのまま行う事になりましたので、キャンセル料はかかりませんし、DV冤罪についても、大事にはならず収束しました。
一時は共に幸せになる事を望んだ彼女が、これ以上不幸になるのを望みません。
ですから、約束を守って頂けるのなら、僕からは慰謝料の請求はしません」
「新さん……!」
「「小松崎さん……!」」
甘過ぎるとも言える俺の結論に、美咲さん、美咲さんの両親はホッとしたようで、目を潤ませ、俺に感謝の瞳を向けてきたが……。
「あ。だからって、僕に感謝するのは、早計ですよ?」
ガタン!
「「「え?」」」
「よいしょっと」
俺は遮るように手を突き出し、席を立つと、美咲さんと両親が目を剥く中、大文字社長が代わりに俺の席についた。
「では、続きまして、社長の大文字北三郎様から、キラ星プロダクションからのご要望を お伝えしたいと思います。
SNSによる、マネージャーである小松崎新様への虚偽の誹謗中傷により、小松崎新様、並びに婚約者の桃谷果林様の仕事に多大な支障や損害が発生した為、古丸美咲様に1千万円の慰謝料を請求を希望されるとの事です」
「「「!?||||||||」」」
南村弁護士に告げられた言葉に美咲さん、美咲さんの両親が凍り付く中、大文字社長は豪快に笑った。
「ハハッ。まぁ、こっちは人気商売なんでね! 取るものはきっちり取らせてもらいますわ! これからよろしゅうに!」
*あとがき*
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