元婚約者の絶望と怒り《古丸美咲視点》
裕福な家庭の元、優しい両親と兄に可愛がられ、何不自由なく育った私古丸美咲(29)
容姿にも恵まれた私は、当然男子にも人気があり、学生時代は毎日のように告白されていた。まぁ、ほとんどが私に相応しくない汗臭いキモい奴ばっかりだったから、全部断ったけれどね。
女子からは、「あの子性格悪い」「頭もあんまり良くないよね」などやっかみを受けて悪口を言われる事もあったけど、美人の宿命だと思って無視したわ。
アパレル会社に就職してからも、私に気のある男性社員を活用して、それなりに仕事を上手くやっていたけれど、30までのカウントダウンが始まった辺りから、周り(私に気があった男子も含め)がどんどん結婚して、何故か自分だけ取り残されていくのに焦りを覚え出した。
そんな時、友人の紹介で知り合ったのが、芸能プロのマネージャーをやっているという小松崎新だった。
「み、美咲さんっ! 僕と結婚してくださいっ!」
「新さん……!」
4回目のデートの時に、五つ星レストランで指輪を見せながらプロポーズをされた。
多少芋臭い顔立ちではあったけれど、きらびやかな世界に身を置く彼と結ばれれば、刺激的でセレブな生活を送れるに違いないと彼のプロポーズをすぐに受け入れてしまったのが間違いの元。
芸能プロと言っても小規模な事務所で休みなく働く彼の給料は意外に低かった。
紹介された家族も彼同様みすぼらしく、家族同士の顔合わせでは、家の両親もがっかりしているのが分かった。
結婚式場、式の内容、新居、全てが限られた予算の中で地味なものになり、その不満も相手が忙しくなかなか伝えられない中、一人でバーで飲んでいる時に私は理想の男性・富豪実さんに会ってしまったのだ。
「あなたにもうお相手がいるなんて、残念です。僕があなたと結婚出来たなら、華やかな演出目白押しのド派手な式を挙げて、タワマンの新居で生涯幸せにして差し上げるのに……!」
「富豪さん……!!」
イケメンで高身長。何より若手実業家で高収入。そんな彼に口説かれて夢見心地になった私はその日の内に彼とベッド・イン♡♡
別れるなら慰謝料がいるのではと彼が工面してくれたお金を、結婚式場で婚約者の小松崎新に叩きつけ、婚約破棄をした私は、仕事も辞め、理想の王子様・実さんのマンションに移り住み、今度こそ幸せになれると思ったのに……。
「おい、見ろ! 君の婚約者だった男が、番組で桃谷果林ちゃんに告白され、逆にプロポーズまでして、君と式を挙げる予定だった式場で、同じ日にそのまま結婚式を挙げるつもりでいるぞ!」
愛し合った後、下着姿でベッドに体を横たえていると、先に着替えてテレビを見ていた実さんが画面を指差し、突然叫んだので、私は目を剥いた。
「え! 新さんが、私と別れてすぐに桃谷果林と婚約? しかも、私と式を挙げる予定だった式場で、同じ日に? 嘘でしょっ??」
信じられない思いで叫んだけど、テレビには画面には、私が婚約破棄した元婚約者の小松崎新と人気アイドルの桃谷果林がしっかりと抱き合い、スタジオ中からその婚約を祝福されている様子が映し出されていた……!
あの男……! 私にベタ惚れだったくせに、若いアイドルとイチャイチャして婚約なんて、当てつけのつもりっ!?
プライドが大いに傷付き、怒りが込み上げて来ると同時に、彼の婚約破棄の経緯までテレビで放送されていると知り、私の事が槍玉に上がったら? と心配になった。
「ねぇ、どうしよう? この事バレたら私、悪者になって外を歩けない。実さん、私を守って?」
この状況で、頼れるのはスパダリの実さんだけ。私はベッドの上で、彼に縋るように手を伸ばしたところ……。
「うるさい!どけっ!」
「キャッ!」
乱暴に振り払われ、私は悲鳴を上げ、実さんの変貌に目を見張った。
今まで熱く甘い言葉を囁いてくれた事が嘘のように、彼は私に恐ろしく冷たい視線を向けていた。
「君とはもう終わりだ!」
「そんなぁ、実さん! あなたにまで捨てられたら、私どうしたらいいのよっ!」
全てを捨てて彼との暮らしを始めたというのに、実さんまでいなくなったら、私に残るものは何もなくなってしまう。
絶望する私に、彼はバサッと札束を投げ付けて来た。
「これで何とかしろ! 手切れ金だ! 君のような女は金とでも結婚してろよ!」
「……!!|||||||| 実さん、ひどい! ああぁっ……!」
ベッドの上で泣き崩れる私に目もくれず、彼はマンションの部屋を去って行ってしまった。
それから何度も実さんに連絡するも繋がらず……。
一週間、泣き暮らしていた私が怯えながらテレビをつけると、小松崎新と桃谷果林の婚約記者会見が映っていた。
『『これから、新さん(果林さん)と幸せな家庭を築いていきたいと思います!』』
「っ……!||||||||」
多くの記者の前で、そう宣言する小松崎新と桃谷果林は、寄り添い合っている。
桃谷果林は、金髪がよく映える水色のふわっとしたワンピースに身を包み、その薬指には、彼女の目の色と同じ青い石の婚約指輪が光っていた。
記者からの質問に、時々顔を見合わせ、笑顔で答える二人の様子は心底想い合っていて、とても幸せそうに見えた。
実さんに捨てられ、私が不幸のどん底にいるというのに、どうして二人の幸せな様子を見せつけられているのよっ!?
小松崎新! 私に婚約破棄されてすぐに他の女 (しかもアイドル)に切り替えられるなんて、私の事を本当はそんなに好きじゃなかったんじゃないの?
桃谷果林! 容姿と才能に恵まれ、金持ちなイケメンや俳優を選びたい放題の筈なのに、何故、顔も収入もショボいマネージャーの小松崎新を選んだの?
ネットやSNSでは、小松崎新の人柄が評価され、桃谷果林との婚約はおおむね祝福モードになっていた。
元婚約者の私については、それ程注目はされておらず、ホッとしたけれど……。
「果林ちゃんと結婚出来るなら、M婚約破棄されて、逆によかった事ね?」
「性格の悪い元婚約者と天使なアイドル二択にもならねーな」
などというSNSの書き込みもあった。
私が人生のステップアップを果たす為の婚約破棄が、逆に小松崎新と桃谷果林の幸せの為に踏み台にされたようで、悔しくてたまらなかった。
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チュッ♡
ガタガタンッ!
『……!! か、果林! 記者会見で何やってんだよっ!////』
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……!!||||||||
プツッ!
桃谷果林に頬にキスされ、小松崎新が
椅子を倒す程慌てているシーンが目に入り反射的に、私はテレビの電源を消した。
「小松崎新! 桃谷果林! 許せないっ……!」
何も映っていないテレビ画面を睨み付け、拳を握り締めていると……。
チャーラーラー♪ チャラララ ラーララーララー♪
「……!!」
突然鳴り響いた着信音は、あの人専用に設定した「眠れる森に美女」だった。
「実さんっ!!」
『やぁ、美咲さん……。急にいなくなって驚かせてしまったよね。元気かい?』
携帯に飛び付くと、ずっと連絡が繋がらなかったダーリンの声が響き、私は泣きながら彼を責めた。
「元気な訳ないでしょうっ? ううっ。実さん、こんな時にどうして別れるなんてっ」
『ああ、すまない。君の元婚約者が世間に注目されるようになって、動転しまったんだ。僕達が幸せになるには、今はつらい状況になってしまっている……。どうすれば改善できるか、聞いてくれるかい?』
「ええ。もちろんよ」
ああ。よかった。彼は私を捨てたのじゃなかった……! ちゃんとこれからどうすればいいかを考えてくれている。
私は安堵しながら頷き、彼の話を一言も漏らさないよう注意深く耳を傾けたのだった……。
*あとがき*
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