その出会いは運命だったってマ?⑤《桃谷果林視点》
ウチの件については、児童相談所も絡んで今後を検討していく事になったけれど、小さい頃に離婚したお父さんと連絡が取れた事で事態は好転した。
元々輸入雑貨を取り扱う職に就き、日本とI国を行き来していたというお父さんは、幼い頃に離れたウチが置かれている状況に胸を痛めて、再婚したI国在住の今の家族と相談の上、ウチの親権をお母さんから移して貰う事になったのだ。
「果林、今まで辛い思いをさせてすまなかった……」
「お父……さん……?」
ウチと同じ金髪と青い目を持つその人はウチを見るなり、涙を流して抱き締めてくれた。
ウチは知らなかったけれど、離婚後もずっと養育費や教育費をお母さんに払い続けてくれていたらしい。
お父さんは、I国で一緒に住むように言ってくれたけど、ウチは断わった。
お父さんの新しい家族に波風立てたくなかったし、ウチの人生のベクトルは既に決まっていたから。
お父さんが海外にいる間も、ウチの普段の生活をサポートできるようにと、小松崎さんのお母さんが、監護補助者になってくれた。
力になってくれた小松崎さんにもご家族には感謝しかない。
お父さんは、今まで何もしてやれなかった分、ウチに何かやりたいことがあるなら応援したいと、芸能を身に付ける為にかかる費用は全て持つと言ってくれたので、ウチがアイドルを目指す道に取り敢えずの障害はなくなった。
キラ星芸能プロに初めて訪れたのは、小松崎さんとの運命の出会いから一カ月半後の事。
悪役俳優のような貫禄を持つ社長の大文字さんに難しい顔を向けられ、不安で何度も小松崎さんの顔を見てしまった。
けど、それからすぐに採用と言ってもらえて、条件付きだけどあらかたの費用を持ってもらえる事になりホッとした。
「芸名を決めなきゃいけねーな? どうすっか?」
社長に言われ、ウチは困って首を傾げた。
「えーと……。ウチ、ネーミングセンスあんまりないんですよね……」
「まぁ、プライバシーを考えて新しい名前付ける場合が多いが、本名でいけねーわけでもねーよ? 本人が嫌じゃなければな?」
社長の言葉にウチは眉を顰めた。
「う〜ん。やっぱり灰谷って、あんまりアイドルっぽくないような……もっと、華やかで可愛い名字がいいかも」
「そうか? 有名な作家さんもいるし、俺はその名字好きだけどな? 果林て名前もとっても可愛いしな」
「え。そ、そうかな……?//」
あらっちゃんに名前を褒められてウチは真っ赤になった。
「でも、華やかで可愛い名前がいいなら、「灰」を「桃」にして、桃谷果林はどうだ?」
「桃谷果林……! 確かに可愛いいかも……//」
小松崎さんに提案された名前にウチがパアッと顔を輝かせた時、社長がGOサインを出してくれた。
「じゃ、桃谷果林で決まりな?」
小松崎さんが決めてくれた大切な名前。
「桃谷果林」としてこれから頑張って活動していくぞ! と気合いが入った。
二学期から芸能関係の寮に入り、寮に近い学校に転校する事になった。
前の学校は、夏休み中に最後の挨拶に行ったっきりだけど、ココちゃん、ミアちゃんとの別れはあっさりしたものだった。
お互いに都合のよい時に利用し合う浅い関係しか築けていなかったんだから、当然かもしれないけど。それなのに、必死にその関係に縋ろうとしていたウチはバカだったな……と今までの自分を振り返ったりした。
転校までの2週間程は、歌とダンスのレッスンを受けつつ、ウチは小松崎さんの実家でお世話になった。
「まあぁ! 可愛らしいお嬢さんねぇ!
新が小学生の頃、捨て猫拾って来た時はビックリしたもんだけど、今度は金髪碧眼のお嬢さんを拾って来るとは!
斜め上過ぎて理解が追いつかんわ〜!」
「キャーーッ! お人形さんみたいな美少女キター!! スタイル良っ! 腰も足もほっそ〜!」
「は、灰谷果林です。お世話になります……//」
小松崎さんのお母さんも妹の澪さん(高1)も、居候のウチを好意的に迎えてくれた。
「短期間とはいえ、まさか一緒に暮らす事になるとはな〜。ハッハッハッ。ここでは、俺の事を新兄ちゃんと呼んでいいぞ? 妹よ?」
「うっさい。おじさんのくせにキモい」
調子こいて兄貴風を吹かせる小松崎さんに、ウチはやっぱり素直にはなれず憎まれ口を叩いてしまう。
「なんだと、まだ23のナイスガイになんて事を……!」
小松崎さんに心外だという表情で抗議して来られ、ウチは微妙な表情になった。
「ナイスガイって言葉が既にダサ……。ま、でも、あの時はちょっとだけカッコよかった……かもしれないけどさ……」
顔を赤くしてボソッと呟いたウチの言葉を小松崎さんは聞き逃さなかった。
「え? あの時って果林を助けた時? そんなに俺、カッコよかった?」
畳み掛けるように質問する小松崎さんにウチは不本意ながら頷く。
「ほ、ほんのちょっとだけね……。実際、小松崎さんが来てくれなかったら、ウチどうなっていたか分からないし、ウチのいいところ、いっぱい認めて励ましてくれたし……」
多分あの時、小松崎さんが助けてくれた時の情景や、かけてくれた言葉は一生忘れられそうにない。
小松崎さんはウチにとって既にとても大切な存在になっていた。
とても、素直には言えないけど。
「お、おおっ。あん時は夢中で捲し立てちまったが、俺、変な事言ってなかったか?」
「ん〜。女子中学生相手に惚れたとか、ずっと側にいるとか言っちゃうのは条例とか法律的にどうなのかな〜と思ったけど……」
「うぐぐっ……。た、確かに」
ウチに指摘され、小松崎さんは手痛いダメージを受けているようだった。
コンプライアンスとか法律や条例そんな言葉に大人はとても弱いらしい。
ウチはそこをついて、ある目的を遂げることにする。
「嬉しかったからそれはいいけど、いつの間にか勝手に果林とかお前呼びになっているのは頂けない」
「うっ……。ハハッ。何を言っているんだい? 僕が君にいつそんな呼び方をしたというのかな? 灰谷さん?」
再びのウチの苦言に小松崎さんは慌ててコンプライアンス重視モードに切り替えるも、思い切り顰め面をしてやった。
「ついさっきまでしてたっしょ? その話し方、薄ら寒いからホントにやめて! もういい、分かった。私の呼び方はそのままでいいから! 小松崎さんの呼び方も変えさせてもらう事にする!」
「よかった。俺も、どこまでこのモードで持つか、不安だったんだよ。俺の事は何とでも呼んでくれていいぜ?」
ホッ。上手く行った。
ここまでの流れ、ウチに芸名を付けてくれた小松崎さんを、ウチも親密な呼び方をしたくて、「新さん」と名前呼びさせてもらう為の作戦だった。
「え、えっと、じゃあ……」
ウチは躊躇いながらに小松崎さんを見上げた。
名前呼び、いざとなると緊張するなぁ……。//
「あっ……、あらっ……、あらっちゃ(新さ)……あらっちゃ……ん(新さ……ん)。う〰〰〰」
「???」
鳴き声を噛みまくるウチに小松崎さんが首を捻っている……。
くうっ……。もう、ヤケだ!
「あらっちゃん!」
ウチは噛んだ時の呼び方で大声で叫んだ。
「こ、これからはあらっちゃんって呼ぶから!」
「いや、構わないけど、果林、今の噛んで間違えて言った奴じゃ……」
「か、噛んでないし!/// 元々あらっちゃんって呼ぼうと思ってたし〜!」
そ、そう! ちょっと恥ずかしいけど、こっちの方が親密感あるし、結果的にオッケーだもん!!
真っ赤になって言い張るウチを《《あらっちゃん》》は子供を見守るような優しい目で見遣った。
「ハハッ。分かった分かった。果林、困った事があったら、何でもこのあらっちゃんに頼って来るんだぞ?」
「う、うん。あらっちゃん。ウチを助けてくれて、側にいてくれてありがとう……」
ポンポンと頭を撫でられると心地よくて、照れながらもウチはお礼を言う事が出来た。
こうやって、ウチとあらっちゃんは少しずつ仲良くなって行けるのかな? そう思ったのに……。
チャララ、チャーラララリーラー♪
「おっ? デヘヘ……!」
懐のスマホが着信を告げ、急いで画面を確認したあらっちゃんが鼻の下を伸ばしているのを目撃して、ウチは凍り付いた。
??
「ああ、彼女から! 果林、ちょっとごめんな? ああ、南ちゃん?」
!!??
ウチに小声で告げ、あらっちゃんが廊下に出て、彼女さんの電話に応対しようとした時、ウチの中で怒りとも悲しみともつかない熱い感情が込み上げてきた。
「っ……!!|||||||| あらっちゃんのバカァッ!! 大っきらい! うわあぁ〜んっっ!!びえ〜んっっ!!」
多分、この時初めてウチは自分のあらっちゃんへの恋心をはっきりと自覚したのだと思う。
「ぶえっ……!? どした? 果林??」
大泣きするウチをその後あらっちゃんは必死に宥める羽目になった。
その後、妹の澪ちゃんに聞いたところ、あらっちゃんは人当たりよくて面倒見がいいから彼女が出来易いけど、長続きせず振られてしまう事も多いのだとか。
(ちなみに、南さんという彼女さんともその一カ月後には自然消滅してしまった)
あんなお兄だけど、気があるなら協力するよ? そう澪ちゃんは言ってくれて、それから少しずつ外堀りを埋めていくことにした。
それから、あらっちゃんとは9年もの長い付き合いとなったけど、「初恋のあの人へ生告白♡」の番組で告白するまで、彼はこんなに分かり易いウチの気持ちに全く気付いてくれず、人気アイドルになっても苦労を噛み締める事になるのだった……。
✽あとがき✽
長いですが、過去篇《果林視点》読んで下さりありがとうございました!✧(;_;)✧
次話からは現在の話に戻りまして、今まで通り毎日12:00投稿させて頂きます。
今後ともどうか宜しくお願いしますm(_ _)m




