その出会いは運命だったってマ?④《桃谷果林視点》
すぐに小松崎さんに通報してもらって、その場で中学生への暴行未遂として男は逮捕され、ウチと小松崎さんも警察署で事情を聞かれる事になった。
警察が到着して、すぐに男は意識が戻って、「俺は悪くない。彼女に誘惑されたんだ。会社には連絡しないでくれ」と
全部をウチのせいにして来て、ムカついたけれど、小松崎さんはもちろん、警察も信じなかった。
けど、お母さんは、ウチよりもその男の言う事を信じた……。
「どうして、あの人がこんな事に……! 果林、あんたが彼を誘惑したんだろっ!! こんの泥棒猫がっ!!」
「お、お母さんっ……?||||||||」
警察署に駆け付けたお母さんに罵られ、ウチは呆然とした。
金髪に青い目で男を誘惑したなら、謝れってウチに髪と顔に掴みかかって来て、小松崎さんと警察署員の人が慌てて止める事態になった。
警察署員の人に別室に連れて行かれながら、お母さんはウチに叫び続けた。
「ハッ。この男達も誑かしたのかい。あんたは天使の顔した悪魔だねっ! 昔から可愛げがない子だったが、もう限界だっ! あんたなんか娘でも何でもないっ!! 私の前から消えな! 疫病神っ!!」
「お、お母さんっ……。うっ……、うわあぁ〜ん! ああっ……ああぁっ……」
父親そっくりだという金髪と青い目のウチを疎ましく思われているのは薄々気付いていた。
けど、ハッキリ絶縁され、切り捨てる言葉を吐かれたショックは大きかった。
その場に座り込み、泣き崩れるウチを、小松崎さんは途方に暮れたようなしばらく表情で見守っていた。
「は、灰谷果林っ……」
躊躇いがちにウチの肩に手をかけようとする小松崎さんを、鋭く睨みつけて叫んだ。
「や、やっぱり、お母さんに捨てられちゃったじゃんっ……! 何が「絶対大丈夫」だよっっ!」
八つ当たりだった。小松崎さんはただ巻き込まれて、助けてくれて、正しい事をしてくれただけ。
警察に通報したらどうなるかって、ウチは本当は分かっていて、その上で流れに身を任せた。けど、今は辛い気持ちを誰かにぶつけずにはいられなかった。
「……!!|||||||| わ、悪かった。まさか、あんな事を言う母親がいるなんて思わなかったんだ! 母親は子供を守るもんだろ? なんで、娘が傷付いている時にあんなひどい……」
ウチの理不尽な怒りを受け止めて、謝ってくれる小松崎さんをウチは更に責めた。
「娘より男を選ぶ母親もいるんだよっ!それでも、ウチにはたった一人の身内だったのに!
小松崎さんが、警察に連絡なんかしなきゃ、捨てられなかったかもしれないのにっ!」
「なーなーにして、同じ事がまた起こったらどうするんだよ!? 心と身体がボロボロになってまで、それでもあの母親と一緒にいたいのか?」
「分かんないよっ! だって、ウチには他の道なんてないもんっ!」
小松崎さんの言うように、もし通報をしなかったら、近い内に、今度こそもっとひどい目に遭わされるかもしれない。それを我慢したところで、遅かれ早かれお母さんとの仲は険悪になって捨てられていたかもしれない。
でも、14のウチはまだ子供で、自分で道を選ぶ事は出来なかった。
「だったら、アイドルになればいい! 寮付きの学校で芸能を身に付ければ、親に関わらずとも生きていける!」
小松崎さんの叫びをウチは信じられない思いで聞いた。
「正気? まだそんな事いってんの? ウチなんか、学校でも皆に嫌われ、たった一人の身内にすら嫌われてんのに、皆に愛されるアイドルなんてなれる訳ないじゃんっっ!」
「例え誰に嫌われていても、俺は灰谷果林、お前が大好きだ! そのキラキラ光る金髪も、青い瞳も、難しい環境の中、一生懸命頑張っている姿も全部!! この先ずっと、俺が側にいて、お前を絶対に好きでい続けるっ……!!」
「は?」
魂の籠った言葉を吐く小松崎さんに、ウチは大きく目を見開き、固まった。
小松崎さんがウチをす、好き……?
この先ずっと側にいて、好きで居続けるって、そそ、そんなプロポーズみたいな……。
「え? 小松崎さんも……、ロリコン?」
「違う! さっきの奴と一緒にするな!」
呆然と呟いてしまった言葉に小松崎さんは急いでブルブルと首を振る。
「お前には皆を照らすアイドルになる輝きがある! 俺はマネージャーとしてそれに惚れた!」
あ、ああ、マネージャーとして好きで側にいてくれるって事か。
びっくりしたぁ……!
「いつか、誰もが俺と同じように君に夢中になる日が来る。絶対だ!
お前がトップアイドルになる未来の為に、俺は人生の全てをかける!」
「な、なんで、今日初めて会って、ちょっと話しただけのウチにそこまで……!」
仕事相手にしても、人生全てをかけるって重すぎ!
小松崎さんに熱い想いを告げられ、ウチは圧倒されるばかりだった。
「ああ。これは、運命の出会いだったと思っているぜ! 灰谷果林。 俺がお前を丸ごと引き受けてやる! この手を取ってくれ」
小松崎さんに差し出された手を困って見詰めるしか出来ない。
「そんな事言ったって……。見ての通り、ウチは、お母さんに捨てられて、この先どうなるかも分からないのに……」
「それは、あらゆる方法を考えてみよう。最終手段として、お前を養子として迎えてもよいと思っている!」
「え」
小松崎さんがお義父さんになるって事??
覚悟を決めて言ってくれたっぽい彼の言葉は、あんまり嬉しくなかった。
何なら、さっきの言葉の方がよっぽど嬉し……。あ、いや、そういうの期待してた訳じゃないんだけど……//
「小松崎さんがお義父さんになるのは、なんかやだな……」
「がふっ……!」
正直に言ってしまうと、小松崎さんはかなりのダメージを食らったようだった。
けれど、ウチに向ける気持ちがどんな種類のものであろうと、今やこんなにも自分を必要だって言ってくれるのは今日会ったばかりのこの人しかいなかった。
「でも、本当に、ウチの髪も目も性格もずっと好きでいてくれる? 何があっても嫌いにならないで、ずっと側にいてくれるの?」
本心を探ろうと小松崎さんを見詰めると、彼は迷いのない黒い瞳で答えてくれた。
「当たり前だ! 俺は灰谷果林の髪も目も性格も大好きだし、マネージャーとしてずっと側にいるよ。 今度は本当に「絶対大丈夫」だ!!」
「! じゃあ……、もう一回だけ騙されてやってもいいよ……」
ウチは躊躇いがちに手を伸ばし……。
「ひぐっ。ふえ〜んっ……! うええっっ……え〜〜んっ……!」
小松崎さんの差し出した手を握って、その温かさに触れた途端、子供のように泣きじゃくってしまった。
「灰谷果林。今まで、辛かったな? 大丈夫だ。この先は頑張った分だけいい事がある。そんな人生になるから。そんな人生になるように俺がお前を守るから」
泣いているウチの頭をもう片方の手で撫でてくれ、小松崎さんは涙声でそう誓ってくれた。
この先どうなるか分からない。けど、もし本当にウチに輝ける力があるのなら、この人の期待に応えたい。
この人が側にいてくれるなら、どんな事だって出来るとウチは思っていた……。




