翼の傷付いた天使
すぐに通報して、その場で中学生への暴行未遂として男は逮捕。
警察が到着して、すぐに男は意識を取り戻したが、「俺は悪くない。彼女に誘惑されたんだ。会社には連絡しないでくれ」と自分の保身ばかり主張していたのが胸糞だった。
何が誘惑されただ。あの状況からして、無理矢理暴行しようとしていた事は明らかだ。
その場にいた警察署員達も、奴の言葉を信じていないようで冷ややかな対応で、男を引き摺るように連行した。
俺も灰谷果林も警察署で事情を詳しく聞かれる事になった。
灰谷果林は動揺しながらも、きちんと状況を説明してくれたおかげで、俺が男を殴ってしまった件については、彼女を助ける為やむなくした事として、正当防衛が認められそうだった。
事務所に連絡した時には「スカウトに行けと行ったのに、何、警察のご厄介になっているんだ?!」と社長に大目玉食ったが……。
まぁ、散々叱られた後、「今日は直帰でいいから、その子の側にいてやれ」と言ってくれたのは、有り難かった。
それから程なくして、灰谷果林の母親も到着し、俺はお役御免だと思ったのだが……。
「どうして、あの人がこんな事に……! 果林、あんたが彼を誘惑したんだろっ!! こんの泥棒猫がっ!!」
「お、お母さんっ……?||||||||」
!??
およそ、母親が娘にかけるとは思えない言葉に、俺は耳を疑った。
「中学生のくせに、そんな短いスカート履いて、色つきリップなんか塗って色気づきやがって!」
「こ、これは、学校の友達は皆やって……」
「その金髪に、青い目で、あの人を誘惑したのかっ? なら、正直にそう言ってて、謝んな!!」
ガシッ。ガッ。
「い、痛いっ! やめて! お母さんっ!!」
灰谷果林の母親は、すごい剣幕で娘に詰め寄り、髪と顔に掴みかかって来たのでその場にいた俺と警察署員で慌てて止めに入った。
「いや、お母さん、娘さんに何をするんですか!」
「灰谷さん、やめて下さい!」
「離してぇっ!」
二人がかりで引き離し、果林の母親は警察署員別の場所へ連れて行かれながら、毒を吐き続けた。
「ハッ。この男達も誑かしたのかい。あんたは天使の顔した悪魔だねっ! 昔から可愛げがない子だったが、もう限界だっ! あんたなんか娘でも何でもないっ!! 私の前から消えな! 疫病神っ!!」
「お、お母さんっ……。うっ……、うわあぁ〜ん! ああっ……ああぁっ……」
「っ……!」
その場に座り込み、泣き崩れる灰谷果林が、あまりに痛ましく、俺はかける言葉が見つからなかった。
「は、灰谷果林っ……」
嗚咽を漏らす小さな肩に手をかけようとすると、彼女は涙を大量に流しながらこちらを睨み付けて来た。
「や、やっぱり、お母さんに捨てられちゃったじゃんっ……! 何が「絶対大丈夫」だよっっ!」
「……!!|||||||| わ、悪かった。まさか、あんな事を言う母親がいるなんて思わなかったんだ! 母親は子供を守るもんだろ? なんで、娘が傷付いている時にあんなひどい……」
「娘より男を選ぶ母親もいるんだよっ!それでも、ウチにはたった一人の身内だったのに!
小松崎さんが、警察に連絡なんかしなきゃ、捨てられなかったかもしれないのにっ!」
「なーなーにして、同じ事がまた起こったらどうするんだよ!? 心と身体がボロボロになってまで、それでもあの母親と一緒にいたいのか?」
「分かんないよっ! だって、ウチには他の道なんてないもんっ!」
「だったら、アイドルになればいい! 寮付きの学校で芸能を身に付ければ、親に関わらずとも生きていける!」
「正気? まだそんな事いってんの? ウチなんか、学校でも皆に嫌われ、たった一人の身内にすら嫌われてんのに、皆に愛されるアイドルなんてなれる訳ないじゃんっっ!」
「例え誰に嫌われていても、俺は灰谷果林、お前が大好きだ! そのキラキラ光る金髪も、青い瞳も、難しい環境の中、一生懸命頑張っている姿も全部!! この先ずっと、俺が側にいて、お前を絶対に好きでい続けるっ……!!」
「は?」
渾身の力を込めて伝えた言葉に、それまで俺を強く責めていた灰谷果林は大きく目を見開き、固まった。
「え? 小松崎さんも……、ロリコン?」
「違う! さっきの奴と一緒にするな!」
急いでブルブルと首を振る。
「お前には皆を照らすアイドルになる輝きがある! 俺はマネージャーとしてそれに惚れた!
いつか、誰もが俺と同じように君に夢中になる日が来る。絶対だ!
お前がトップアイドルになる未来の為に、俺は人生の全てをかける!」
「な、なんで、今日初めて会って、ちょっと話しただけのウチにそこまで……!」
心のままに熱い想いを告げると、灰谷果林は圧倒され戸惑っているようだった。
「ああ。これは、運命の出会いだったと思っているぜ! 灰谷果林。 俺がお前を丸ごと引き受けてやる! この手を取ってくれ」
「そんな事言ったって……。見ての通り、ウチは、お母さんに捨てられて、この先どうなるかも分からないのに……」
「それは、あらゆる方法を考えてみよう。最終手段として、お前を養子として迎えてもよいと思っている!」
「え。小松崎さんがお義父さんになるのは、なんかやだな……」
「がふっ……!」
覚悟を決めて言った言葉は、眉間に皺を寄せた灰谷果林に即座に否定され、俺はかなりのダメージを食らった。
「でも、本当に、ウチの髪も目も性格もずっと好きでいてくれる? 何があっても嫌いにならないで、ずっと側にいてくれるの?」
灰谷果林に心の奥底まで探るような深く青い瞳でじぃっと見詰められ、俺は迷いなく答えた。
「当たり前だ! 俺は灰谷果林の髪も目も性格も大好きだし、マネージャーとしてずっと側にいるよ。 今度は本当に「絶対大丈夫」だ!!」
「! じゃあ……、もう一回だけ騙されてやってもいいよ……」
灰谷果林は躊躇いがちに手を伸ばし……。
「ひぐっ。ふえ〜んっ……! うええっっ……え〜〜んっ……!」
俺の差し出した手を握ったかと思うと、子供のように泣きじゃくった。
「灰谷果林。今まで、辛かったな? 大丈夫だ。この先は頑張った分だけいい事がある。そんな人生になるから。そんな人生になるように俺がお前を守るから」
大粒の涙を零す灰谷果林の頭をもう片方の手で撫で、自分も涙を浮かべながら俺は誓った。
今は傷付いているその翼も、やがては癒え、大空を跳べるようになる。そんな日が来る為なら俺はどんな事でも出来ると思っていた……。
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
果林との運命の絆を繋いだ新。
次話の過去編最終話も見守って下さると有難いです。
今後ともどうかよろしくお願いします。




