急迫した事態
扉の中から聞こえて来るのは、さっき別れたばかりの天使・灰谷果林の叫び声と、恫喝するような男の声。
「やだっ! 触んな、変態っ!!」
「いてっ! 引っ掻くんじゃねぇ!」
バシッ!
「キャァッ!」
「っ……!! おい、灰谷果林っ!! 大丈夫かっ!?」
ガチャッ……!
中で暴力が振るわれているような気配に、思わず強くドアを引くと、鍵はかかっておらず、靴のそのまま部屋の中に押し入ると……。
「……!!!」
奥の居間のフローリングの床に、ブラウスがはだけてほとんど下着姿の灰谷果林が長身の男にのしかかられている光景を目にして、俺は目の前が真っ赤になった。
「あっ。こ、小松崎さっ……」
「な、何だお前はっ!? わぁっ!」
こちらをホッとしたように見上げる彼女の右頰が赤く腫れているのを確認し、俺は猛烈な怒りが込み上げ、狼狽している長身の男を灰谷果林から引き剥がし……。
「俺の天使に何をしてやがんだぁっっ!!!!」
ボスッ!!
「ギャッ!! う〜ん」
ボディーに一発入れてやると、男はあっけなく床にのびた。
ふん。見たか、大学時代ボクシング部副主将だった俺の実力。
ドヤ顔で拳を高く突き上げた俺だが……。
「こ、小松崎さん……」
はだけたブラウスの前を合わせ、怯えた表情で震えている灰谷果林を前に、我に返った。
「ハッ。も、もしかして、こいつ、君の彼氏とかだったりした?||||||||」
もし、これが彼氏と同意の上でのプレイとかで何の事件性もなかったとしたら、俺は、不法侵入の上暴力を振るった犯罪者。
もしかして、俺、就職して早々、人生詰んじまった?
青褪める俺に、灰谷果林はぷるぷると首を横に振った。
「ち、違うっ! こんな奴彼氏なんかじゃない!」
ホッ。違ったらしい。首の皮一枚繋がった。
「そいつ、お母さんの彼氏! お母さんに再婚相手だって紹介されてから、隙あらば、私の事も触ってこようとして、ウザかったんだけど、今日帰ったら、そいつが家にいて……。お母さんに合鍵もらったって……! 家族になるんだから、君とも仲良くなりたいって襲い掛かって来てっ……」
「なんだそりゃ。娘になる予定の子に手を出そうとするなんて、とんだゲス野郎だな!」
床に転がっている男に再び怒りが込み上げたところ、灰谷果林は青い目からいくつも大粒の涙を落とした。
「ふっ。っく……! すごい、怖かった……」
「怖かったな。もう大丈夫だ」
震える小さな肩をポンと叩くと、灰谷果林は小刻みに首を振った。
「う、ううんっ。い、今も怖いっ……。お、お母さんがこの事知ったら、もう、ウチは完全に嫌われちゃって、捨てられちゃうかもっ……」
「バカ! 何言ってんだ? そんなわけねーだろ! 君のお母さんも、大事な娘をこんな目に遭わせるような相手と再婚しようと思っていたなんてって100年の恋も冷めるだろう。これからは君の事をちゃんと守ってくれるよ」
「そ、そう……かなっ」
「ああ。絶対大丈夫だ! この事は、警察に知らせてちゃんと対処してもらおう。」
「う、うんっ」
不安そうな灰谷果林を勇気付ける為に、「絶対大丈夫」なんて言葉を使ってしまった事に、すぐに後悔する事になるなんてこの時の俺は知らなかった……。
*あとがき*
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
今後ともどうかよろしくお願いします。




