天使の名前
「ううっ……。天使もしっかり、危機管理意識、教育されてたぁっ……」
またも不審者扱いされ、シクシク泣き出す俺に、天使な中学生女子は、焦ったように席を立った。
「な、何、いきなりっ! 泣き落としされてもナンパには乗らないよっ……!」
「違う。ナンパじゃなくて、スカウト!俺は、キラ星芸能プロでマネージャーやってる小松崎新って言う者だ。名刺どうぞ」
スマホから通報画面が消えたのを確認すると、すかさず俺は彼女に名刺を差し出した。
「「キラ星芸能プロ」? 聞いたことないけど……」
天使は、汚いものでも触るように名刺の端っこだけ摘んで確認し、俺の顔を疑り深そうに半目で見て来た。
「どうせ、AV撮影の勧誘とかでしょう」
「中学生にAV撮影申し込めるか! 俺、捕まるわ! せっかく、芸能事務所に就職したばかりだってのに、警察のご厄介になりかねない事言わないでくれ!」
天使の指摘に瞬速で突っ込んだ。
俺、中学生をいかがわしい道に引き込むような下衆い大人に見えるんだろうか。
大分ショックだぜ!
「いや、そりゃ、「ホ◯プロ」とか「オスカープ◯モーション」とか程有名な事務所じゃないけど、所属タレントに、ご当地アイドル「みかん娘」や、N◯K教育番組に出ているてんとうよし美とかいるし、ググればちゃんと出て来るしぞ!」
「ん〜、タレント詳しくないけど、そうなんだ?」
俺が熱く自社についての熱弁に、天使は困惑気味に答えた。
「君にスター性を感じて、ぜひともアイドルとして売り出して行きたいと思ったんだ。話だけでも聞いてもらえないか?」
「え〜でも、芸能界なんて興味ないし、今、連れといるし……」
迷惑顔の天使に、俺は尤もだと頷く。
「もちろん、よく考えてみて、興味があったら、後日、親御さんと一緒に話を聞いてもらう形でも構わない。ただ……」
「今、君、割と困ってる状況じゃないか?」
「……!」
ズバリ指摘してやると、天使は図星を突かれた表情になった。
「俺の事、利用してくれて構わないぜ? お茶ぐらいなら奢るけど……」
「っ……」
ニヤッと笑い、大人として小狡い提案を打ち出してやると、天使は迷うように青い瞳を揺らし……。
✽
「あっ。ミアちゃん、ココちゃん、ごっめ〜ん! ウチ、ナンパして来た人となんか、話合っちゃって〜」
「どうも、(中学生を)ナンパして来た人(社会人)で〜す!」
「ウチら、お茶して来よっかなって。だから、ゴメン! カラオケはまた今度誘ってね?」
「え? あ、そ、そーなん?」
「へ、へえ? よかったじゃん?」
派手メイクに磨きをかけて戻って来た友達二人は、にこやかに茶番を繰り広げる俺と天使を呆気に取られて見守り、その場を去って行く俺達の背に悪意に満ちた呟きを投げ付けた。
「(何あれ……? ナンパ自慢?)」
「(社会人っぽいけど……、フツメンじゃん。ダッサ!)」
その後、最寄りのカフェに入り、パフェとコーヒーを注文し終わったところで、
テーブル席の向かいにいる天使は、気まずそうな顔になり、謝って来た。
「……、ごめんなさい。嫌な思いさせて」
「ああ。さっきのアレ?
いや、別に気にしないけど、友達は選んだ方がいいと思うぞ?」
呆れてため息をつく俺に、天使は眉に深い皺を寄せて鋭く言い返して来た。
「選べる程、友達なんていないし……! この髪と目のせいで……!」
「何言ってんだ。綺麗な金髪と青い瞳じゃないか。君、美人だし、学校では人気者だろ?」
「全っ然! 男子は見た目だけですぐ告ってくるし、女子は私の事嫌ってパパ活やってるって噂立てるし最悪だよっ」
そう言って涙目で俯く天使に、大体この子が置かれている状況が想像ついて、俺は渋い顔をした。
「あ〜、女子の嫉妬は、怖えーもんな」
「経験豊富って事でマウント取ってくるところはあるけど、この外見でもつるんでくれるのココちゃんとミアちゃんだけだもん。二人が友達でなくなったら、ウチ、ボッチになっちゃう……」
「でも、だからって、友達の言いなりになって、変な男子と関係持つのはどうかと思うぞ?」
「そ、それは、なんとか躱すからいいの。それより、あなた……、こ、小松崎さんは、仕事の話をしに来たんじゃないの?」
「ああ。そうだったな。つい、君が妹と同じ位の年頃だから、気になっちまって……。本題に入ろうか。君……、えーと、確か友達に果林って呼ばれていたよな? 名字も聞いていい?」
「……に果林」
「え?」
「灰谷果林! 私の名前!!」
天使は、何故かちょっと頬を膨らまし気味に、名前を教えてくれたのだった……。
*あとがき*
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