天使な彼女は中学生
梅雨が明け、本格的な暑さが始まった7月上旬のある日の夕方──。
「はあ〜あ! クッソ難儀な仕事だぜ〜」
とあるターミナル駅、噴水広場近くのベンチで、ハンカチで汗を拭きながら、俺はひとりごちた。
苦しい就職活動の末、キラ星芸能プロへの採用が決まり、4月から入社。担当するアイドルユニットも決まり、これから社名の通りキラキラの社会人生活が始まると思っていた俺だったが……。
「さーせん! 祖父が芸能活動に反対みたいで……。やっぱし、アイドルグループの話はなかった事にして下さい」
「ふぁっ?!」
俺の担当で、これから売り出す予定だった三人組のアイドルユニットの一人にドタキャンをされ、急遽、同じ年頃の女の子を捕まえて来なければならなくなった。
アクタースクールやダンススクールに募集をかけてみたが、弱小プロダクションかつ新人マネージャーの担当するアイドルグループを希望する者は少なく、イメージ通りの女の子をなかなか見つける事が出来なかった。
大文字社長に、「これも経験だ! 街に出てスカウトして来いやぁ!」と無茶振りされ、何人かの女の子に声をかけてみたものの、ナンパや不審者と間違われ、危うく通報されるところだった。
危機管理やコンプライアンスをしっかり教育されているのはいい事なのだが、スカウトする側にとっては、大変やりにくい世の中になぁと、俺がため息をついていると……。
近くのサーティーアイスの店舗から、アイスを手にした派手めな外見の中学生らしき三人の女の子が出て来て、俺の近くのベンチに座った。
「だからさ〜、果林は、可愛いんだけど、ちょ〜っと固すぎて、こなれてないところがあると思うんだよね? ウチらみたいないい女オーラ出てないってーか?」
「そっか〜。ミアちゃん、ココちゃんは大人っぽいもんね。ウチ、ダメだなぁ……」
「あ〜だいじょぶだいじょぶ。果林も経験積めばすぐ、ウチらみたいになれるから! 今日、この後、他校の男子とカラオケ行く予定なんだよね? 果林も行こーよ」
「えっ。でも……」
「ああ、皆女慣れしてるし、そこそこイケメンだから。気に入ったのいたらお持ち帰りしちゃっていいし、なんなら、別室とってそこでヤッちゃってもおけ! みたいな……?」
「いや〜、ハハハ……。流石にそれは……」
うわ。最近の女子中学生ってこんなんなん? 闇が深すぎるぜ……。
友達にビッチの道へ引き摺り込まようとしている子、可哀想に……。
聞こえてくる女の子達の会話にドン引きし、俺から見て、一番奥にいるまだまともそうな女の子に同情していると、友達の陰に隠れて顔がよく見えないその子の髪がキラリと光った。
ん?金髪?
一番の奥の女の子がよく見える位置まで、さり気なく座り位置を変えると……。
「ウチ、人見知りだから、初めて会う男子はちょっとな〜」
!!!!
綺麗な金髪のポニーテールに碧眼。他の二人の女子と同じ、紺の襟に黄のリボンのセーラー服に身を包んだ女の子が身を屈め、困ったような顔で笑うのが見え、俺は息を飲んだ。
天使のような美少女だ。
猫背で、他の女の子の陰に隠れていて分かりにくかったが、年の割に長身で、すらっとした手足。
華のある美貌は、ステージの上で踊ったら、さぞや映えるだろう。
友達とのやり取りではさっきから、小さくてもよく澄んだ綺麗な声を響かせている。
透明感のあるその声でラブソングを歌えば、多くの人を、惹きつけることだろう。
間違いない! この子は、アイドルになる為に生まれて来た子だ。
俺がこの子をトップアイドルに育てちゃる!
「だから、人見知りの果林に耐性つけてあげよーとしてるんじゃん」
「そーそー」
だから、ビッチ中学生共、俺の見つけた天使を邪な道に誘うのやめろっつーの!
手前の女子中学生二人に顔を顰めていると、それからすぐに、「じゃあ、果林、ウチ、化粧直してくっから考えといてね」「好みのタイプも教えてね?」と言い残して、その二人は駅前のトイレへと向かい、天使は一人ベンチに残された。
このチャンスを逃す理由にはもちろんいかない。
「……。お腹痛いって言って帰っちゃお〜かな……」
友達の姿がトイレへと消えた途端、暗い顔で呻くように呟く天使に、俺は颯爽と近付き、声をかけた。
「やぁ! 君、中学生? 可愛いね! 芸能界とか興味ない?」
「はあ? おじさん、誰? それ以上近付いたら通報しますけど!」
警戒の色を全身に滲ませ、緊急通報の番号の表示されたスマホの画面を見せて来た天使に俺は流れるような土下座をした。
「ううっ。勘弁して下さい! 今日、通報されそうになるのこれで4回目なんで!」
✽あとがき✽
いつも読んで頂き、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
過去編になりまして、9年前の二人の出会いの話をお届けしていきたいと思います。
今後ともどうかよろしくお願いします。




