初キスの記者会見
1週間後の記者会見にて──。
「「これから、新さん(果林さん)と幸せな家庭を築いていきたいと思います!」」
多くの記者の前で、俺と果林は寄り添い、にこやかにそう宣言していた。
果林は、金髪がよく映える水色のふわっとしたワンピースに身を包み、その薬指には、彼女の誕生石、タンザナイトの婚約指輪が光っていた。
宝石店エトワールで見せてもらった、彼女の瞳と同じ青色のその宝石は、光の加減で群青や紫に煌めき、喜怒哀楽がはっきりしていて表情がコロコロ変わる果林のイメージにピッタリだと俺は思ったし、果林もどストライクだったらしく、目を輝かせていた。
最終的に、予算的にもいい塩梅のもので、周りに小さなダイヤを散りばめた新商品の指輪に決めると、店主の綾小路さんは、特別に納期を短縮して二人の名前を彫ってくれた。
仕上がった指輪を受け取りに行く時、お世話になった綾小路さんに今度また結婚指輪を買いに来ると約束して、店を出たのだった……。
記者会見の間、果林は、その指輪と同じ位光輝く笑顔を浮かべていて、記者から時にはかなり突っ込んだ質問をされるも、なんなく返していた。
果林のアイドルタレントとしての成長を感じると共に、そんな彼女と三ヶ月後に結婚式を挙げるという事実にようやく実感が湧いたものだった。
だが、粘着質な取材をする事で有名なドグマ新聞の無原記者から、
「番組はヤラセで、以前から一線を越えた関係だったんじゃないですか?
マネージャーとしての立場を利用し、果林さんに関係を強要したんでは?」
と質問を受けた時には、否定しても何度もしつこく追求され、流石に俺も果林も困った。
「ですからっ! 所属タレントを仕事で成功させる事は僕の夢でもあるんですよ。
それなのに、事務所の看板アイドルに手を出すわけないっ……」
「あらっちゃん、あらっちゃん」
反論するうち、つい、ヒートアップしていた俺の肩を果林はポンポンと叩いて来た。
「果林、何……、?!」
チュッ♡
呼ばれて振り向いたところに、果林の顔が間近に迫っていて、リップ音と共に、頰に柔らかく湿った感触がした。
ガタガタンッ!
「……!! か、果林! 記者会見で何やってんだよっ!////」
頰にキスをされたのだと気付いて、思わず身を引き、椅子を倒しながら立ち上がったところ、果林は青い瞳をいたずらっぽく煌めかせて、無原記者に向かってニッコリ笑った。
「今のが、私達、初キスです。 彼のウブな反応を見て下されば、記者さんの言われるような事実がなかった事は明らかだと思いますけど……」
「……!」
「なっ……。果林、お前、また勝手にこんな事して!////」
果林の言葉に、無原記者は悔しそうに黙り込み、他の記者達は、動揺して真っ赤になった俺に一斉にフラッシュをたいた。
記者会見は、おかげで事なきを得たが、SNSは再び話題沸騰し、「桃谷果林 キス会見」「マネージャー(32)童貞?」がトレンド入りしていて、俺の心を抉ったのだった……。
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《間男視点》
チュッ♡
ガタガタンッ!
『……!! か、果林! 記者会見で何やってんだよっ!////』
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「……!!!☠ あんのマネージャーの糞野郎!! 果林ちゃんにキスされやがってぇっっ!! 許さんっ!! 許さんぞぉっ……!!」
婚約記者会見のニュースが映し出された画面を見て、俺は怒り心頭に発し、血が出る程拳を握り締めた。
大体、ネタを仕込んでいた筈のあの記者は何をやっていたんだ!?
すぐさま携帯に手を伸ばし、当の本人に連絡を取った。
「あの記者会見は一体何なんですかっ!? 無原さん、あなたには美味しいネタを振ってやりましたよね? ちゃんと仕事して下さいよっ!!」
『いや、あんた、あのねぇっ。文句を言いたいのは、こっちの方ですよ。絶対つつけば埃が出るって言うから、自信満々で追求してみれば、逆にこっちが恥をかいちまったじゃないですか!』
文句を言うも、逆ギレしてくる無原には呆れてしまった。
「何を不甲斐ない。火のないところにも煙を立てるのが、あんたら三流新聞記者の仕事だろうが! あの糞マネージャーと元婚約者のもっといいネタをやるから、今度は失敗せずに……」
『いや、もうあんたのネタはいりませんよ』
「はぁ?」
『確かに、僕ら三流新聞記者は、ちょっとしたボヤでも大火事のように騒ぎ立てるのが仕事かもしれない。けど、全く何もないところから、一般大衆の望んでない記事を捏造したりはしないんですわ。お若い実業家さんには理解出来ないかもしれませんけどね。じゃっ。こっちも忙しいんで失礼します』
「おいっ……。ちょっと待っ……」
プツッ。 ツーツー。
「くっ、くそっ。三流記者風情がっ! 分不相応に、俺に意見しやがって……!!」
ますますストレスが溜まる中、携帯の画面を見遣ると、あの女からの着信が35件、メールが100件も来ているのが確認でき、顔を顰めた。
「チッ。うっとおしいな……」
流石にブロックするかと考えた時……。
「! そうだ!」
ふといい事を思い付いた。
噂を広めるなら、あんな記者に頼るよりも、もっと早く確実に浸透する方法があるじゃないか。
「本人に直接仕掛けてもらうか……」
俺は口角を上げると、一週間ぶりにあの女に連絡を取ってみる事にしたのだった……。
✽あとがき✽
読んで頂きまして、ブックマークや、リアクション、ご評価下さって本当にありがとうございますm(_ _)m
何やら画策している間男ですが……。
次話は三章最後の話になりまして、新の実家に立ち寄る二人の話をお届けしたいと思います。
今後ともどうかよろしくお願いします。




