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第5話 図書委員の美人先輩に『秘密の部屋で二人きりになりましょう』と誘われた件

第5話 図書委員の美人先輩に『秘密の部屋で二人きりになりましょう』と誘われた件


放課後、俺は図書室に向かっていた。

委員長との図書館デートは明日の土曜日だが、

その前にやっておきたいことがあった。


魔法や異世界について、もう少し詳しく知りたかったのだ。


「図書室なら、そういう本もあるかもしれないな。」


カバンの中でミストが小さく身じろぎした。


『大樹様、確かに図書室には古い本がありそうですね。』


(ミストも賛成してくれるなら、行ってみよう。)


時計は15時30分を示している。

部活動の時間なので、図書室はそれほど混んでいないはずだ。


図書室のドアを開けると、静かな空間に本の匂いが漂っていた。

予想通り、利用者は数人しかいない。


そんな中で、窓際で本を読んでいる男性が気になった。


(あれ?あの人、生徒じゃないよな?)


その男性は、制服ではなく黒いスーツを着ている。

教師にしては若いし、なんとなく場違いな感じがする。


その男性と目が合った瞬間、背筋にぞくっとしたものを感じた。


『大樹様...』


ミストの声が緊張している。


『あの方から、嫌な気配を感じます。』


(やっぱり?俺も変だと思った。)


その時、奥の方で銀色の髪がきらりと光った。


振り返ると、そこには見たことのない美しい女性がいた。

長身で、銀髪のセミロングが印象的。

制服を着ているから生徒だと思うが、俺より明らかに年上で、

リボンの色的に3年生だろうか。


無表情だが整った顔立ちで、どこか近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

まるで人形のような美しさだ。


カバンの中でミストが急に身を縮めた。


『大樹様...この方は...』


(どうした?)


『ただの人間ではありません。強い魔法の気配を感じます。』


え?


「あの...すみません。」


俺が声をかけると、その女性がゆっくりと振り向いた。


「何でしょうか?」


冷静で落ち着いた声だった。

でも、その瞬間、俺は背筋にぞくっとしたものを感じた。


「えっと、魔法とか、ファンタジーに関する本を探してるんですが...」


「魔法?」


女性の目が、明らかに光った。

そして、じっと俺を見つめてくる。

まるで、俺の内側を探るような視線だ。


『大樹様、たぶんですがこの方は私たちの正体に気づいています。』


(え?マジで?)


「私は西園寺蘭です。3年生で、図書委員長をしています。」


「あ、俺は2年の橘大樹です。よろしくお願いします。」


「橘君ですね。」


西園寺先輩がさらにじっと俺を見つめる。

その視線が、なぜか俺の魂まで見透かしているような気がした。


「魔法に関する本...とても興味深いですね。

実は、あなたが図書室に入った瞬間からすこし気になっていたんです。」


「え?」


「あなたからは、とても興味深い『気配』を感じるんです。なぜそのような本を?」


「えっと...最近、ファンタジー小説にハマってて。

もっと本格的な資料も読んでみたいなと。」


嘘をついているのがバレないように、必死に平静を装った。


西園寺先輩は少しの間黙って俺を観察していたが、やがて小さくため息をついた。


「そうですか...でも、あなたが求めているのは、小説の参考資料程度ではありませんよね?」


「え?」


「あなたのカバンの中にも、何か特別なものがいるようですし...」


西園寺先輩は少しの間黙っていたが、やがて小さくため息をついた。


彼女が立ち上がって、俺に近づいてくる。


「普通の本棚にある本では、

あなたの求めているもの、あなたが本当に知りたがっていることの答えは見つからないでしょうね。」


「本当に知りたがっていること...?」


「ええ。

例えば…『異世界から来た小さな住人と、どうやって共存していけばいいのか』とか。」


俺の血の気が引いた。完全にバレてる。


「あ、あの...」


「大丈夫です。私は敵ではありません。むしろ...」


西園寺先輩が声を潜めた。


「あなたを待っていたんです。

本当に詳しいもの、本当に価値のあるものは奥の秘密の部屋にあります。

よろしければ、二人きりで見に行きませんか?」


そう言いながら、彼女がちらりと窓際の男性の方を見た。


「ここでは...人目もありますし。」


(え?!)


心臓が跳ねた。秘密の部屋?二人きり?


『大樹様、落ち着いてください。この方は敵ではないようです。』


「ひ、秘密の部屋?」


「図書室の奥にある資料保管室です。

古い蔵書や学校の歴史資料を保管している部屋で、

普段は立ち入り禁止なのですが...」


西園寺先輩が小さく微笑んだ。

その笑顔が、さっきまでの無表情とのギャップで、やけに艶っぽく見える。


「図書委員長の特権で、特別にお見せしましょう。

あなたが探しているものが、きっと見つかります。」


「あ、ありがとうございます。」


西園寺先輩は何も答えずに、ただ小さく頷いただけだった。

そして無言で立ち上がると、俺に背を向けて図書室の最奥部へ向かい始めた。


(え?ついて来いってことか?)


俺も慌てて後を追った。

人気のない廊下を無言で歩いていると、俺の心拍数がどんどん上がっていく。


(美人の先輩に、秘密の部屋に誘われるなんて...)


(しかも、ほとんど会話もしてないのに...)


『大樹様、邪なことを考えてはいけません。』


(考えてないよ!)


資料保管室の前で、西園寺先輩が鍵束を取り出した。


「ここです。

あまり人に見られたくないので、中に入ってから電気をつけますね。」


ドアが開くと、古い本の匂いがより濃く漂ってきた。

薄暗い部屋の中に足を踏み入れると、古い本がぎっしりと並んでいるのがぼんやりと見える。


西園寺先輩が電気をつけた瞬間、俺は息を呑んだ。


「すごい...」


思っていたより広く、天井まで届く本棚には古い洋書や和書がところせましと並んでいる。

まるで古い図書館のようだ。


「この学校は明治時代創立なので、創立当初からの蔵書もあるんです。

中には...とても特別な本も。」


西園寺先輩が本棚の奥へ向かう。

俺もついて行くと、彼女が一冊の古い本を取り出した。


「まずはこれから。」


手渡された本は、革装丁で、タイトルが古い文字で書かれている。


「『異界ノ住人ニ関スル考察』...?」


読んだ瞬間、俺の体がビクッと震えた。


『大樹様!その本は...私の故郷のことが書かれています!』


ミストの声が興奮している。


「お気に入りいただけたようですね。」


西園寺先輩の声が、さっきと違っていた。


振り向くと、彼女の表情が完全に変わっている。

さっきまでの冷静な雰囲気から一転、目がキラキラと輝いて、頬が少し上気している。


「その本、本当にすごいんです!

異世界の住人について詳しく書かれていて、テレパシーを使う猫のことや、

魔法の才能を持つ人間のことまで載ってるんです!」


え?


「特に第3章の『魔法ノ才ヲ持ツ者トノ契約』の部分が素晴らしく...」


西園寺先輩が興奮して早口になりながら、少し身を乗り出した。


「あ、あの、先輩...」


「それでね!この本によると、異世界から来た住人は、

この世界で魔法の才能を持つ人間を探してるんですって!まさに運命の出会いよね!」


熱弁していると、気がつけば俺との距離が少し縮まっている。

でも、本人は全く気づいていないようだ。


「そして、選ばれた人間は、その住人と契約を結んで、世界を救う冒険に出るの!

なんてロマンチックなお話なのかしら!」


(近い...でも、夢中になってるから気づいてないのかな。)


西園寺先輩の美しい顔が普段より近くにあって、俺は少しドキドキした。

銀髪から良い匂いがして、心臓がバクバクしている。


「せ、先輩...」


「あ、そうそう!」


今度は興奮のあまり、俺の袖を軽く掴んだ。


「この本には、異世界の住人を見分ける方法も書いてあるの!

例えば、特殊な瞳の色を持つ猫とか...」


『大樹様、この方は完全に私たちの正体を知っています!』


ミストの声が警告している。


(やっぱりか!)


『でも、敵意は感じません。むしろ...』


西園寺先輩が俺の袖を掴んだまま、もう少し身を寄せてきた。


「橘君のカバンの中にいる子も、もしかして...」


その時、カバンの中でミストが「にゃあ」と小さく鳴いた。


西園寺先輩の動きが止まった。


「やっぱり。」


彼女がにっこりと笑った。


「いましたね、異世界からの来訪者が。」


俺は青ざめた。


(バレた?完全にバレた?)


「大丈夫ですよ。」


西園寺先輩が俺の腕を優しく撫でた。


「私、こういう瞬間をずっと待っていたんです。

ついに、私たちの本来の役目を果たす時が来たのね。」


「え?」


「実は...」


西園寺先輩がようやく俺から少し離れて、本棚から別の本を取り出した。


「私の家系は、江戸時代から代々『知識の守護者』という役割を担ってきたんです。

異世界と現世界を繋ぐ知識を管理し、

必要な時には異世界の住人をサポートする...そういう家系なんです。」


「知識の守護者?」


「ええ。だから、あなたのような方が現れるのを、ずっと待っていました。

正直に言うと、あなたが図書室に入った瞬間から、『この人だ』と分かっていたんです。」


「最初から?」


「はい。でも、いきなり『あなたは魔法使いですね』なんて言えませんから…

なので様子を見させていただいていたんです。」


(だから最初、あんなに見つめてたのか...)


西園寺先輩の表情が真剣になった。


「私にも少しだけ、特殊な能力があります。

人の魔法的な気配を読んだり、異世界の存在を感知したり...そして。」


彼女が手のひらを俺に向けた。

すると、薄い光が手のひらから漂い出た。


「練習したので、簡単な魔法なら使えます。」


(すげぇ...)


『この方は本物ですね。私たちの強力な味方になってくれそうです。』


「そういうわけで、もしよろしければ...」


ここで西園寺先輩が再び興奮し始めた。


「私と一緒に冒険しませんか?」


また俺に近づいてきて、今度は両手で俺の手を握った。


「異世界の敵と戦って、世界を救うなんて、夢のようじゃありませんか!」


「え、敵?」


「あ、もちろん知ってますよね?

異世界からは味方だけでなく、敵も来るんです。」


俺は昨日感じた、あの不気味な気配のことを思い出した。


「実は、昨日...」


「ありましたね?

校門の近くで、嫌な気配を感じませんでした?」


西園寺先輩が俺の手を握る力を強めた。


「私も感じました。

あれは間違いなく、異世界からの敵です。『闇の眷属』と呼ばれる存在でしょう。」


『闇の眷属...確かにアルカナ王国を狙う敵の一派です。』


ミストの声が緊張している。


「でも大丈夫。」


西園寺先輩が安心させるように微笑んだ。


「私たちが力を合わせれば、きっと勝てます。それに...」


彼女がカバンを見つめた。


「そろそろ、直接お話ししませんか?ミストさん。」


え?


カバンの中でミストが躊躇しているのが分かった。


『大樹様...この方は信頼できそうです。姿を見せても大丈夫でしょう。』


「ミスト、出てきても大丈夫か?」


『はい。』


俺がカバンを開けると、ミストがそっと顔を出した。

黄色と赤のオッドアイが、西園寺先輩を見つめている。


「まあ!」


西園寺先輩が感動したように手を合わせた。


「本当にいたのね!しかも、とても美しい...」


『初めまして、西園寺蘭様。私はミストと申します。』


「テレパシーですのね!素晴らしいわ!」


西園寺先輩の興奮がまた高まって、

今度はミストに向かって少し身を乗り出した。


『あの...少し距離が...』


「あ、ごめんなさい。」


西園寺先輩が苦笑いした。


「興味深いものを見ると、つい...」


(興奮すると距離感なくなるタイプなんだな、この人。)


でも、敵じゃないと分かって、俺は心から安心した。


「先輩、本当にありがとうございます。」


「いえいえ。こちらこそ、念願だった異世界の方とお会いできて嬉しいです。」


西園寺先輩が本棚からさらに数冊の本を取り出した。


「これらの本、すべてお貸しします。

アルカナ王国の歴史、魔法の基礎理論、敵対勢力の分析...きっと役に立つはずです。」


「こんなにたくさん...」


「大丈夫です。図書委員長の権限で、特別貸出ということにしますから。」


本を受け取りながら、俺は少し心配になった。


「あの、先輩...」


「何でしょう?」


「実は明日、クラスの委員長と図書館に行く約束があるんです。

もしかして、バレたりしませんか?」


西園寺先輩が意地悪そうに笑った。


「佐々木美月さんですね?」


「え?なんで知ってるんですか?」


「彼女のことも、少し調べさせてもらいました。

とても優秀な子ですよね。」


(調べたって...)


「心配しないでください。

彼女には魔法の才能はありませんが、とても聡明な方です。

いずれは仲間になってもらえるかもしれません。」


『美月様も仲間に?』


ミストが興味深そうに呟いた。


「ただし、まだ時期尚早です。

今は秘密にしておいた方がいいでしょう。」


「分かりました。」


資料保管室を出て、図書室に戻る。

西園寺先輩は落ち着いて、元の無表情な雰囲気に戻っていた。

まるで別人のようだ。


「では、また何かありましたら、いつでも声をかけてくださいね。」


「はい、お願いします。」


図書室を出る時、俺は窓際を見た。

さっきの黒いスーツの男性は、もういなくなっていた。


(いつの間に出て行ったんだ?)


『大樹様、あの方はおそらく...』


(敵の偵察?)


『可能性は高いですね。私たちの動向を探っていたのかもしれません。』


図書室を出た後、俺は重い本を抱えながら大きくため息をついた。


(すげぇ先輩だった...)


『大樹様、心強い味方が増えましたね。』


(ああ、でも正直、ちょっと怖い部分もあるな。)


『どういう意味ですか?』


(だって、俺たちのこと全部お見通しなんだもん。

委員長のことまで調べてるし...)


『確かに、情報収集能力が高すぎますね。少し警戒は必要かもしれません。』


でも、味方が増えたのは心強い。特に、魔法に詳しい人がいてくれるのは助かる。


家に帰ったら、借りた本を読んでみよう。

アルカナ王国のこと、敵のこと、もっと詳しく知りたい。


明日の委員長とのデートも楽しみだが、

今は魔法の世界の知識を深めることも重要だ。


俺の周りに、だんだんと仲間が集まってきている。


でも同時に、敵の存在も現実味を帯びてきている。


『闇の眷属』...一体どんな敵なんだろう。


家に着くまでの道のり、

俺は本を抱えながら、これから始まる本格的な戦いのことを考えていた。


でも、一人じゃない。ミストがいて、委員長がいて、そして西園寺先輩がいる。


きっと、乗り越えられる。

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