未来の暗号世界
最近はとても便利な世の中になったものだ。
買い物も行政の手続きも今やスマホを使ってどこからでもできるようになった。
昔は電子化に伴いハッカーからの攻撃を受けて情報漏洩が珍しくなかったが、暗号技術の進化によって外部の攻撃から漏れることもなくなり安心して利用することができる。
ただし、その分本人確認には厳しくなっており顔認証とパスワード入力の両方をクリアしないと個人用のスマホにもアクセスができない。それだけではなく、顔認証とパスワードが結びついており保険や年金、電話サービスに至るまで同じパスワードは使用できない。
紙が完全に廃止されて大きなデモも日本中で起こったがこれも便利で安全な生活のために仕方がないことだ。
この世は弱肉強食。進化には犠牲がつきもので機械に疎いやつらはこの先は生きていけないのだ。
「近くで犯罪が発生。逃亡阻止のために身分証明の提示のご協力お願いします」
一台のアンドロイドがやってきて身分証明を求めてきた。
今の世の中で犯罪をしても監視カメラが至る所にあるため、すぐに捕まるのに馬鹿なやつだな。
「えーと、パスワードは何だっけな」
俺は目の前のアンドロイドの指示に従ってスマホの画面を開いた。
今やこの一枚の板ですべての手続きをすることができる。
身分証明もお手の物だ。
「これだったかな」
指をすらすらと動かして8桁の数字を入力するもロックは解除されない。
これは健康保険のやつだったか。
「残り二回です」
アンドロイドから冷たい機械音声がそう告げる。
額から冷たい汗が噴き出した。
「あー思い出した。こっちだった」
指を慎重に動かして8桁の数字を入力するもロックは解除されない。
これは年金用のパスワードだった。
「残り一回です」
アンドロイドから冷たい機会音声がそう告げる。
俺は深く息を吐いた。
「これに違いない。今度はあってるはずだ」
指を震わせながら数字を入力するたびに長い時間をかけて8桁の数字を入れるもロックは解除されず三度間違えたために入力を受け付けなくなった。
しまった。これは端末暗証番号だったか。
「残り〇回です。スマホ窃盗の疑いで逮捕します」
「待ってくれ、パスワードを忘れただけじゃないか」
「正常な人間が自身のスマートフォンの画面解除パスワードを忘れる可能性は非常に低いです」
「いや、ちょっと疲れてて度忘れしただけですぐに思い出すから」
俺は叫ぶも複数のアンドロイドに体を拘束されて別室へと連れていかれた。