絶対魅了の勇者と魔王!~戦う宿命の二人に芽生えるモノは愛ですか?~
風雲急を告げる魔王城大決戦。
いよいよ城の最深部、玉座の間に辿り着いた勇者は、黄金の玉座に座る魔王を睨みつけていた――。
「よくぞここまで辿り着いたな。誉めてやろう」
腰まで伸びた燃える様な赤い髪、月の光を溶かしたような魔王の黄金の瞳が勇者を見下す。
漆黒の闇を思わせるゴシック調のドレスに身を包んだ見目麗しい少女だが、その中身は数千年の時を生きる凶悪な魔族の長である。
魔王の眼光の鋭さに臆することなく、勇者も力強く魔王を睨みつけた。
「魔王! お前を倒し、囚われた人々を開放する!」
「ハッ、囚われただと? 勝手なことを抜かしてくれる。奴らが望んで我が下僕となったに過ぎぬわ!」
玉座から立ち上がり、魔王が指を鳴らす。
パチンッと乾いた音が響き、玉座の背後の分厚いカーテンが開かれる。
カーテンの奥から現れたのは、きれいに横一列に並んだ人間の男達だった。
人数は軽く百近くに届き、奥にも列を成しているのが分かる。
老若問わず、人種を問わず。数多の男達が魔王の背後で魔王に熱い視線を送っていた。
その光景に驚きながらも、勇者はおのれ魔王と益々、正義の炎を燃やす。
「その人達を開放するんだ! 罪のない人間を囲い、何を考えているッ!」
「貴様こそ、その背後に並ぶ女共は何だ。余と何が違うという?」
そう、勇者の背後にはずらりと女性が並んでいたのだ。
まるで壁のようにぎっしりと並んだその人数は、こちらも百近くである。
老若問わず、人種を問わず。数多の女性達が勇者の背後で勇者に熱い視線を送っていた。
「違うッ! 彼女たちは純粋な気持ちでオレに付いて来てくれているだけだ!」
「奇麗事を言う! こんな場所にまで侍らせて、我が下僕共と同じではないか!」
魔王と勇者、そして男と女達が互いに睨み合う。
傍から見れば異様な光景ではあるが、各々真剣なのである。
そもそもどうしてこの様な状況になったのかと言えば、魔王と勇者、二人に共通する能力に由来するものであった。
『絶対魅了』――異性であれば、誰であっても好意を抱くという超常の力だ。
奇しくも同じ力を持った二人は、互いに数多の異性を虜にし続けて今日に至っている。
この二人に魅了された人々の数は数え切れぬほどであり、当然、この場には収まらない程だ。
「私たちは勇者様が大好きなのよ! あんた達みたいな主従関係にはない、純粋な愛情の上で成り立つ関係よっ!」
「それはこちらも同じだ! 我々は魔王様を心の底からお慕いしている。孤高の御方、頂点に立つ我らが支配者。お美しい魔王様! 万歳ーッ!」
「勇者様なんて、強くてカッコよくて、とっても優しいんだから! 勇者様、素敵ーっ!」
それぞれに魅了された男女が、魔王と勇者を挟んで互いに騒ぎ立てる。
その声を背に受けて、勇者は剣を構え、魔王は不敵に嗤った。
「勇者よ、我が軍門に下れ。貴様も下僕に加えてやろう。特別扱いをしてやらんでもないぞ?」
「魔王! お前こそ降参すれば、その命を取ることはしない! 一人の女性として扱う事を約束するっ」
「クハハハハッ!! 人間如きに扱える女と思うなよッ!」
「お前こそ人間を侮るなよ! 征くぞ!」
「来るが良いッ!」
二人の力が急激に膨れ上がる!
勇者の体を金色のオーラが包み込み、魔王の体を血の様に紅いオーラが包み込む。
「おおっ! なんと神々しい魔王様のオーラ! みんな! 魔王様にお力添えをするんだッ!」
「オーッ!」
「勇者様の全力見せて~! 素敵~! 私たちの力も使ってーッ!」
「勇者様~~っ!」
男女それぞれの声援を受け、勇者と魔王は自身の力を更に高めていく。
膨れ上がり続ける力に地面が揺れはじめ、轟々と地響きが鳴り出す。
「受けてみろッ! 必殺の一撃! スターライト・ホーリィ・スラッシュ!」
「ぬるいわッ! 滅・紅血閃光波ッ!」
剣の柄を強く握り締めた勇者が、流星の如く素早さで魔王との距離を詰める。
高めたオーラの全てが込められた剣は、光の如く煌めきを放つ。
振り下ろされた剣の軌道を描くように光の線が駆け抜けて、刃が魔王の眼前に迫った!
動じることなく魔王は手の平を正面に向けて構え、高めた力の全てをその手から放った。
視界を埋め尽くす、目に痛いほどの赤。深紅の閃光が大きく弾けた。
「勇者様っ、きゃぁぁぁあっ!」
「魔王様ァーーッ!」
二人の力の衝突は衝撃波となり、全てを吹き飛ばす。
立っていられなくなった男女の悲鳴も飲み込んで、轟ッと大きな衝突音が響き渡った。
勇者と魔王を中心に、壁も床も柱も何もかもが破壊されていく。
「うぉォォォオッ!!」
「クッハハハハハーーッ!!」
二人の叫び声が響き渡った刹那、極限の力と力の衝突により爆発が起こった。
……超新星爆発を彷彿とさせる強烈な爆発の後に残ったものは、静寂だった。
見るも無残に崩れ去った玉座の間の瓦礫を寄けて、ボロボロに薄汚れた男達と女達がそろりと顔を覗かせた。
それぞれ不安げに、分厚い煙のカーテンを見つめている。
そこは魔王と勇者が居る筈の場所だった。
「勇者様……」
「魔王様……」
風に流され、煙が薄れる。
固唾をのんで見守る彼ら彼女らの瞳に飛び込んできたものは、意外な光景だった。
互いの全力の攻撃をぶつけ合った勇者と魔王は、傷一つない姿で向かい合っていた。
手を伸ばせばすぐに触れ合えてしまう至近距離で、お互いの顔を見つめ合っている。
その瞳はどちらも熱っぽくあり、心なしか頬は朱に染まっているかに見えた。
「魔王……」
「フフッ……勇者よ……」
どちらからともなく手を出し合い、その手を握り合う。
決して握手などではない。手の平を重ね合い、指を絡め合うまるで恋人同士のそれである。
「どうして気が付かなかったんだろう。君は……とても可憐だ」
「余の目こそ節穴であった。どんな男よりも逞しいお前に気が付かなんだとは……」
「魔王、君の名前を聞いても構わないだろうか?」
「余こそ、貴様の名を知りたい。勇者としてではなく、貴様個人を欲しているのだ……」
先ほどまでの鬼気迫る様子は微塵もなく、そこには甘ったるい空気だけが漂っていた。
どういうことなのだと呆ける男女達の中の一人が、あっと声を上げた。
「これ、二人の絶対魅了がぶつかり合って、お互いにかかっちゃったんじゃないの!?」
「えぇ~っ!?」
驚きの声と呆れの声があちらこちらから飛び交う。
しかし二人の様子を見れば、それも真実味を増していく。
周りの様子なんてまるで見えていない勇者と魔王は、二人だけの世界を展開し続けている。
なによこれ、と誰かが愚痴を溢したことを切っ掛けに、まるで魔法が解けたかのように男女それぞれ勇者と魔王に興味を失っていった。
「あら、よく見たら貴方、いい男じゃない」
「君こそとてもチャーミングだ。良ければこの後、お茶でもどうだい?」
「姉さん!? 生き別れた姉さんじゃないか!!」
「まぁ! 貴方、今までこんなところに居たの!? ……会えてよかった!」
「ほほほ……さて、帰りますかな……」
「めでたしめでたしですねぇ」
老若男女、それぞれが手を取り合い魔王城を後にしていく。
玉座の間にはあっという間に勇者と魔王だけが取り残されたが、二人はずっと見つめ合い、手を取り合ったままだった。
こうして、人類の命運を掛けた戦いは幕を閉じた。
それぞれ恋に落ちた勇者と魔王はその後、魔王城改め愛の城を築き上げ、二人で幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。
終わり




