勿忘草〜私を忘れないで〜
交際5年を迎えている彼女から「大事な話があります」と連絡が入った。
このタイミングでの大事な話は結婚の話かと考えている。
彼女の琴音とは保育園時代から付き合いがあり、所謂幼馴染というやつだ。高校の卒業式時に自分から告白して交際することになった。
卒業後はお互い就職して、2年前から同棲している。
仕事終えた彼女が、帰宅してきた。
「ただいま」
「おかえり」
彼女の表情が少し暗い感じに見えたので、少し心配になった。
「何か嫌なことでもあった?」
「ないけど、どうして?」
「暗い顔してたから何かあったのかなー?って」
少し間を空けて彼女が返答をする。
「仕事で少し疲れてただけだよ」
明らかに嘘をついてるようにしか思えなかったが、その場を後にした。
「ご飯食べる??もう作ってあるよ」
「その前にお昼にLINEした大事な話してもいい?」
雰囲気から嫌な空気が出ていて、何の話か聞く前から察してしまった。
「わかった」
居間でお互い座って少し時間がたった後、言いにくそうに彼女が話を切り出した。
「大翔、私と別れてほしい」
分かってはいたが、絶句してしまい暫く沈黙が続いてしまった。
ショックを受けながらもこのままでは話が進まないと思ったので、話を続けた。
「理由を聞いても良い?」
「この先、大翔と一緒にいる未来が想像出来なくて、、」
予想していた答えと違かった。自分に悪い所があるなら素直に聞いて受け入れようと思い、彼女に聞いてみた。
「ごめん。そんなに琴音に負担かけてしまってた??俺に悪い所があったのなら謝るから言って欲しい」
彼女は、申し訳なそうな顔をして返答する。
「ううん、大翔は悪くない。完全に私のせい。」
当然納得できるわけがなかった。けど、彼女の目を見て何を言っても無駄なのだと悟った。
「わかった。少し気持ちの整理をさせてほしい」
そう言って風呂に向かった。
風呂で色々考えて自分はこの2年間琴音に甘え過ぎてたのかもしれないと後悔した。けど、いくら反省しても元に戻るわけでもないと心の中で葛藤した。
風呂から上がり、寝支度を終えた俺は、先に寝ることを告げた。
「先に寝るね。おやすみ」
彼女は寂しげな顔をして返して来た。
「おやすみなさい」
ぐっすりと寝静まって、琴音からキスをされる夢を見て不意に起きると本当に琴音からキスをされていた。
「大翔起きてたの?」
「なんで、、キスして、、」
嫌われていたと思っていたので、かなり動揺した。
「ごめん、けど大翔にしたいと思ったから」
俺は我慢出来ずに彼女を押し倒しキスをした。
彼女は体では抵抗せず言葉だけで抵抗した
「まって、、ダメ、、」
「ごめん、、これで最後だから」
自分でもズルい言い方だと分かっていた。でも、彼女も受け入れてくれた。
琴音を嫌いになれたのならどれだけ楽だっただろう。彼女の心も体も、全てが愛しい。離れたくないと心から想った。
体を重ねた後、彼女から抱きしめられ耳元で囁くように言葉を発した。
「私を忘れないでね」
俺は何も聞かなかったように彼女を抱きしめた。
次の日の朝、俺は琴音より早く起きて朝支度をしている。彼女が、昨晩に言っていた言葉が引っかかっている。
「あれが琴音の本音ならなんで別れようって言ってきたんだろう」
手掛かりはないかと、彼女の引き出しを漁ったら処方箋と書かれた袋があった。そこには見慣れない病名が書かれていて、検索アプリで調べると彼女の先はもう短いと分かった。
衝撃の事実を知った俺は、洗い物をしながら考えていたら皿を落としてしまった。皿の破片を拾おうとして指を切った。
「痛っ、、」
その時、俺は最低な言葉を発してしまった。
「何で俺がこんな思いを、、」
すぐに我に帰り、自分はなんて身勝手なんだと感じた。そこで、彼女が起きてきた。
「おはよう~って、大翔指どうしたの!?」
彼女は慌てた様子で駆け寄る。
「傷口みせて!」
「そんなに深くは切ってないよ」
「よかった。絆創膏持ってくるから待ってて」
彼女は絆創膏を取りに行った。
「はい。これで大丈夫」
「ありがと」
彼女は今日の予定を告げた。
「今日はこの部屋の解約しに行こうね。次の引越し先決まるまで仲良くしよう!」
これで何も言わずに終わりにしたら一生後悔すると思い、彼女の提案を断った。
「嫌だ、、別れたくない。琴音とずっと一緒にいたい」
自分でも女々しいと思うが、涙が止まらなかった。彼女は、それでも別れの意思が揺らがない様子だった。
「だめだよ。もう決めたの」
遮るように事実を知ったことを彼女に告げた。
「病気のことならもう知ってる」
彼女、焦ったように少し声を荒げた。
「だったら分かるでしょ!?好きな人に迷惑かけたくない。先の短い私は最後に楽しい思い出を作れたらそれだけで充分だから」
「それに大翔はまだまだ先も長いし、私なんかより良い人に出会って幸せになってほしい」
その言葉を聞いて自分の本音を琴音にぶちまけた。
「他の人を好きになるぐらいなら俺は一生1人でいい。この先短い時間だとしても、俺は最後まで琴音のそばにいたい」
彼女もまた涙を流して、本音を話してくれた。
「私だって本当は貴方と一緒にいたい。でも、このまま一緒に居たとしても貴方に迷惑しか掛けない」
俺は彼女をそっと抱きしめて、彼女に告げた。
「終わることを怖がって離れるより、今ある時間を一分一秒大切にして琴音を幸せにしたい。だから、、、俺と結婚してください」
彼女は更に涙を流して暫くした後に、悲しそうに返答してきた。
「一緒に居たら傷付けちゃうし、大翔にばっか大変な思いさせちゃうよ、、?」
何度言われたとしても俺の答えは変わらなかった。変わるわけないと心の底から思った。
「俺だって琴音を傷付けてるし、大変な思いさせてる。けどその分絶対に幸せにする」
本当の本音をぶつけたおかげか彼女も自分を受け入れてくれた。
「ありがとう」
それからいくつか季節が巡り琴音の病は一気に進行していった。意識不明となった彼女の側についていた俺はずっと彼女に言葉をかけていた。
「琴音、愛してるよ。ずっと君だけを。」
意識が無いはずの彼女の目から涙が流れて無意識に言葉を発していた。
「ひ、、ろと、、、わた、、しのこと、、わすれ、、ないで、、ね」
そう言って彼女は息を引き取った。俺はこの先ずっと流すことないぐらい涙を流した。けど、彼女と最後までいれたこと本当に幸せにだと感じた。
その日の夜、夢を見てもういるはずのない琴音と言葉を交わした。
「大翔、本当にありがとうね」
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
「私何度生まれ変わっても、貴方に恋をする。必ず貴方を見付けて一緒に幸せになる。だから、、、また出逢うまで、私の事絶対忘れないでね」
夢から覚めた後俺は心の底から感じた。彼女との想い出は掛けないの無い宝物で、何度生まれ変わったとしてもこの先ずっと忘れることはないだろう。彼女との出逢いから別れまで大切にして彼女の分まで生きようと決意した。
また出逢える日を夢見て。
〜fin〜




