悪友と
蛮声を張り上げて血を流すも斬りにかかる者、既に国の英雄の一人として死んだ者、無数にいる兵士の合間を縫って逃げる母と子。それらを覆いかぶさってくるように燃えるものは全て焼き尽くす勢いで炎が広がっていた。
この光景はまさに地獄そのもので恐ろしいとも言える。だが、その地獄とも言える状況で戦陣切って悪友と肩を並べた。
戦場で感じられたものは血の匂いと火の熱さ、幽かに聞こえる誰かが俺を呼ぶ声。
「ルゥシャン!!私に加勢してくれ、国王が城の中に逃げやがった」
奥底に眠っていた記憶のように誰の声かを瞬時に思い出した。アイツの声だ。右も左もわからない状況でも探しだして、走り正面玄関の階段を上がり悪友兼、現国王のノヴァ・ヴィクトリアと合流をした。
「あの野郎を今ここで逃したらあとあと探すのが面倒そうだな!」
「だから今ここで殺そうとしてんだろ。いいからあの国王に追いつくんだ」
そう言われて「そうだな」と一言だけを声からこぼした。
城の中を走り回るとあちこちから炎があがっているのが確認できた。廊下に掛けられた綺麗だけども陳腐な絵画はただの火剤に成り果て、世界で一つの一級品の代物でさえそのザマだ。可哀想に。悪い主でなければこんな羽目にならず綺麗なまま先祖代々受け継がれてもおかしくなかった物もあっただろうに。
本当に哀れだな。
二人と一人の命を賭けた追いかけっこ。
本格的に城全体までもが赤い光に包まれた頃にはもう進入するのも臆するくらいに燃やされていただろう。だが、城は倒れてくる事なくその場に建っていた。
そんな中でも唯一、ほぼ何もされず綺麗なままで我らを見守っている建物が城内の廊下の窓越しに確認できた。そこは神聖なる神のテリトリーである教会だ。
一つの考えが浮かび上がった。
ああいう人間は最後になると神にすがりたくなる生き物なのではないか…。加えて俺らも骨までも灰にされるくらいなら行って損はないとそう考えた。
俺が足を止めたことに気づいてノヴァも数歩先で立ち止まり振り返った。その威厳ある顔が血や汗で酷いものになっていたが、その体液が己のものなのか斬り倒した相手のものだったのかはよくわかっていない。
「なぁ教会はどうだ?」
一瞬はしかめた顔をでいた。それでも俺が指を差したほうにノヴァも意識をやると一点を見たまま少し思考を巡らせているようだった。
振り返って言った。
「こんだけ探してやってもいないんだ。そうならこっちから迎えに行くしかないようだな」
流れるようにコートの下に隠してある太もものベルトから素早く拳銃を持ち出して何発か俺らの身長よりある大きな窓硝子に真っ直ぐに撃った。この時代でさえまだ物珍しいこの拳銃を撃てば銃砲が、震える大きな音と耳にくる硝子のわれて落ちる音。
大胆な方法で十も数えないうちにほぼ全ての硝子が一緒くたに床へと散らばった。
ロウソクと同じように拳銃から巻きながら息を吹いて出る煙を消す。
ノヴァがヒールを履いたとき特有の足音を忍ばして歩いていても音が響いてしまうような広い空間。月と燭明よって清澄なステンドグラスが輝き、穢く地獄でもがく俺等を見守る。
「居ないな」
二人とも拳銃に弾を補充をしながら教会の長椅子が何列にも並ぶ左右を歩いた。
「いや、いるさ」
この合間、ノヴァは一瞬だけの音を聞き逃さなかったのだ。すぐさま狙いを定めると斜め上のシャンデリアに向かって発砲をした。弾丸は見事に命中し、シャンデリアは瞬く間に長椅子とともに地面へと叩きつけられた。
「お前に義侠心ってのは無いのか?」
「生き地獄か死に地獄かの違いだろ?」
この時ばかりは拳銃でコイツに勝てないと思い知らされた。
シャンデリアの下からは流れ出す真っ赤な血がじわじわと迫りきた。普通、人はその足で血の池に踏み入りたくないと後ろへ下がるのだがノヴァはただの水溜まりだと言わんばかりに躊躇なく足を踏み入れた。
「これで我々を欺き、悪逆無道な王は亡くなったのだ。なぁ、お前は俺に着いてきてくれるよな──?」
ステンドグラスを背景に振り返るその姿に私は跪いて彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「もちろんだとも、我が悪友よ――」




