表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

追放聖女とハンバーグ

作者: 椎名正

「貴様は辺境の地マルベルに追放だ」

 婚約破棄と聖女の身分剥奪のついでに、王子は私の追放先を告げる。


 辺境の地マルベル。

 常に仮面を被る変人の辺境領主が納める地。

 隣接する森は魔物たちの住処で、この国の中でも危険地帯に振り分けられる。

 そして、カニの名産地。


 きゃーほい。

 私は心の中で万歳三唱をする。

 かにだ。

 蟹だ。

 カニだ。

 説明せねばなるまい。

 カニはめちゃうまいのだ。

 元々は魔物の一種と考えられて忌み嫌われていたが、異世界転移者が私達の概念を破壊したのだ。

 「あれ、カニですよね。この世界でもいたんっすね。あれ、食うとうまいっすよ」

 異世界転移者と言うのは、きっちり説明すると長くなるが、ようはすごく遠いところから来た異国の人だ。

 カニの食べ放題。カニざんまい。

 心の中で小躍りしながらも、私はそれを表に出さないように、おすましの表情を作る。

 私のことをよく知っている従者は、あきれた表情になる。

 「私が偽聖女とはどういうことですか?」

 「貴様は聖女の力を使うことを拒否している。国に対する立派な反逆罪だ」

 「私が癒しの力を使うのは緊急事態の時だけです。むやみに使用することは、この国の医療を衰退させることになります」

 「言い訳はよせ」

 このやり取り、いらないだろ。

 とっとと、私をカニの名産地に追放しろ。

 カニをまるごと。カニ鍋。カニのスープに、カニグラタン。

 「私の言葉は、もう殿下には届かないのですね。残念です。わかりました。聖女の名前はお返しします」

 カニのパスタもいいな。

 「待ちなさい。どうして、こんな理不尽な扱いを受け入れるのよ」

 新しく聖女と王子の婚約者の地位を継ぐはずの女性が、私につっかかる。

 「それはあなたを信頼しているからですよ。あなたが聖女になるなら、私は何も心配せずに辺境の地マルベルに行くことができる」

 さあ、カニの名産地へ。

 「適当なことを言わないで。私のことなんか何も知らないくせに」

 「知ってますよ。あなたが自分の領民のために尽力していることをよく知ってます。ハンバーグ美味しかったですよ」

 ハンバーグはめちゃうまい。

 従者が私に白い目を向ける。

 「本当に私のことを知っていたのね」

 ハンバーグは新聖女の領地でしか食べられない料理だ。異世界転移者の大雑把なレシピから、相当な試行錯誤の上で完成させた、努力の観光料理。

 「もちろんです。あなたのやった数々の努力を私は知っています。民を飢えさせないために、ジャガイモの普及に努めましたね」

 肉じゃが!

 「そんなところまで」

 「聖女を頼みましたよ」

 新聖女になるはずの女性は決意した顔になる。

 あっ。

 まずった。

 「お断りします。聖女なんて面倒ごとはまっぴらごめんですわ。べ、別にあなたのために言っているわけじゃないですからね」

 従者が私の背中をバンバン叩き、興奮して小声で叫ぶ。

 「あれ、ツンデレですよ。実在したっすね。あれ、ツンデレっすよ」


           おわり

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ