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プロローグ 上京~変貌した東京

 「そろそろ着く時間だ。」

 車窓を眺めていた青年は荷物を確認し、降りる準備を始めた。

 もうじきリニアモーターカーは新東京駅に着く。

青年の名は鷹羽宗人(たかはむねと)。大学入学のために福岡から上京してきた。

 駅のホームに降り立つと、座りっぱなしだった身体を大きく伸ばして、宗人は駅ビルの最上階に上るエスカレーターに乗った。

 ここの最上階からは街の様子が良く見えるという評判だった。

 平日ということもあって、最上階の展望フロアの人影はまばらだ。

 南に面した大きな窓に近づくと、東京の沿岸部にそびえ立つ高層ビル群が見えてきた。

 沈みつつある太陽がビルの間から赤っぽくなった光を投げかけている。

 繁栄の象徴とも言える高層ビル群だが、不思議な静けさに充ちていた。

その下の方に目を向けると、海面に当たって夕陽が乱反射している。高層ビル群はまるで海から生えているようだった。

 そう、林立する高層ビル群の根元は海に呑まれている。

 宗人はぼそっとつぶやく。

 「これは酷い。まるでビルの墓場だ。」


 あの日、世界は一変した。

 南極の巨大な氷床が海に崩落し、ほぼ同時にグリーンランドでも巨大な氷床が溶け落ち、世界中の沿岸部を津波や高潮が襲った。

 海鳴りを伴いながら盛り上がる海面が押し寄せてきて、一瞬のうちに建物を車を人を呑み込んでいった。

 地球温暖化を解決できなかった結果、海面が大きく上昇したこの巨大な災害は後に「大海嘯」と呼ばれるようになった。

 大海嘯によって、いくつかの島国は地図から消え、世界各国の海岸線は内陸に変更された。

 都市には海運で発達したところも多く、ニューヨークやロンドン、上海など世界に名を知られた大都市でも大きな被害が生じた。

 多くの土地が海に呑み込まれ、数知れぬ犠牲者が出て、被害総額は天文学的な数字となった。

世界はパニックに陥った。

 海岸沿いの国々は甚大な被害を被った。もともと国力の小さい途上国は自力では救援できず、外国に救いを求めようとしたが、救援する余力のある国は少なかった。 

 貧しい国々では食べ物も飲み物も不足し、無事だった店には暴徒が押し寄せた。

 日本も大きな被害を受けた。

 東京の東半分、名古屋の西半分は海中に没し、大阪は多くの地域が水没するという壊滅的な打撃を受けた。

 だが真面目な国民性のおかげで幸いに大きな略奪や暴動は起きず、比較的早く立ち直ることができた。

 大海嘯によって、海岸近くを走る新幹線は復旧不能になったが、山の中を走るリニアモーターカーは大部分が無事だった。それでも東京駅や品川駅は利用できなくなって放棄され、戸越の手前あたりに新東京駅が造られた。

 その駅に宗人は降り立っている。

 東京に来たのはこれが初めてだった。

 映像で水没した東京の姿は何度も見ていたが、実際に見た光景は迫力が段違いで、大海嘯の恐ろしさを雄弁に語ってくる。

 「こんなことになるまで、どうして止められなかったのかな。」

 廃墟と化した高層ビル群を眺めながら宗人は嘆いた。

 温暖化の影響は海面の上昇だけではない。気候が変わってしまった結果、台風やハリケーン、サイクロンは大きく強くなり、これまでに経験したことのない暴風が襲うようになった。

 高潮の被害も拡大し、大海嘯でも辛うじて水没を免れた低地を侵食していった。

 東京でも放棄せざるを得ない沿岸部の土地はじりじりと増えている。

 食料をはじめとして物価は高騰し、貧しい者はさらに貧しくなっていった。


 そして大海嘯の後、世界各地でダンジョンが誕生した。

 ダンジョンには危険な魔物が出現し、初期の調査隊の多くは壊滅した。

大海嘯と同じようにダンジョンは災いをもたらすものだと思われた。さんざん自然を破壊した人類への罰だとか、神の怒りだとか、いろいろな説が流れた。

 だが、ダンジョンではエネルギー問題の解決につながる物質も発見された。今では人類に残された希望だと考える人も少なくない。

 「嘆いても、もう元には戻らない。今できるのは大学でダンジョン探索を頑張ることしかない。」

 宗人が東京の大学に来たのはダンジョンを探索するためだった。

 気合を入れた彼は、新東京駅の展望台から降りて行った。




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