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ストグラ 安城とゆきんこ バレンタイン 当日

作者: 佛 弥白

客船も終わり、今日の大型も一段落がついた。他のみんなも次々とおやすみなさいと、無線から抜けていく。

ゆきんこがこっそりと、逃げようとしていたけれど、そこは逃すわけw


一緒に食べよう

分かったのだ


俺はにこにこ笑顔でゆきんこを捕まえると、観念したように大人しくなった。

ん?

少ししょげている気がするのは、気のせいか?


俺はそう思いつつ、旧アジト隣のこたつをかりて食べることにした。二人とも着替えて食べたいチョコを持って集合する約束。

先に着いた俺は一足先に座り、ゆきんこから貰った2つをテーブルに置き、月見とロギアの分は隣へと置く。

2つ並んだ箱を見つめていると、今日の可愛かった顔を思いだし、頬が緩まる。


何をニヤニヤしているのだ?あ、

いつの間にか、ゆきんこも部屋に来ていた。そして、俺が笑っていることの理由に途中で気がつく。


早く食べよ。楽しみにしてたんだから

そ、そうなのか?

当たり前じゃん!

ゆきんこは少し逃げ腰な所を見せるが、俺が手を握り心から楽しみにしていることを伝えた。すると、少し緊張をしている様子が見える。

俺が座るように合図をするように、手を軽く引くと、不意をつかれた感じでこちらに倒れてきた。

驚きつつも、ゆきんこを抱き止める。

やはり、軽い


彼女の軽さに不安を覚えつつ、俺は胡座を組む。


大丈夫か?

ごめんなのだ

ゆきんこは軽すぎるのだ!

ゆきんこが体制を建て直そうとした時、さりげなくを装って、後ろから抱き締める形で腰を下ろさせた。


きっちゃん!?

なんなのだ?と、驚いて暴れようとするけれど、腰に手を回して俺はゆきんこの右肩に顎をのせる。すると、ゆきんこの動きが止まった。


昨日と今日はいっぱい頑張ったと思わないか?ゆきんこぉ~

んー、確かに今日のきっちゃんは撃ち合いが、強くなってた気がするのだ

そうだろ?そうだろ?ちゃんとキルも取れるようになったんだぜ?

いや、そこはキルが取れなのだ

俺がいつものように、今日の戦果をおどけて聞いてみると、頑張った分ゆきんこから見ても良かったようだ。固まっていたゆきんこも少しは力が抜けたように思う。

それでも、ゆきんこは手厳しい

でも、それが正解だから反論は出来ない。


前よりは良くなったと思わない?

確かに、上手になってると思うのだ

やっぱり~、ほめてほめて~

俺がそういうと、左手で俺のおでこ上をフワフワと撫でる。


きっちゃんは頑張ってるのだ~

えらいのだ~

そんなことを言いながら、優しく労る声と撫でられることで、嬉しさ反面恥ずかしさが出てくる。照れを隠すように、ゆきんこの肩に顔を押し付ける。


きっちゃん?

ゆきんこは不思議そうにしながらも、そっと頭が乗ってきた気がする。手はそのまま撫で続けて言う。


きっちゃんは良い男なのだ

だから、心配するななのだ

そんな優しい言葉にグッと自分の方へと引き寄せてしまう。そして、ゆきんこの頭に頬をすり寄せる。


ありがとう、ゆきんこ

ゆきんこは引っ張られたことで驚いて慌てていたが、その言葉で落ち着きを取り戻す。

そこで、照れ隠しもあったけれど、ご褒美もらっても罰は当たらないだろう。


じゃあ、ご褒美ちょうだい?

肩に頬を乗せて、ゆきんこを見上げる。ゆきんこはチラリとこちらを見て、おもむろに箱からチョコを取り出し、俺の口へと押し込む。


んぐっ

きっちゃんはそのチョコがちょうど良いのだ!

ゆきんこはフンッと顔を反らせたが、頬と耳がたぶん赤い。その照れかくしも可愛いなと思う。モゴモゴとチョコを味わっていると、ゆきんこはもう一つの高いチョコに手を伸ばし開けていた。

そして、そのままゆきんこが一つ食べてしまう。

ゆきんこ!

それ、俺の!と言いかけると、ゆきんこは少し怒った様子で答える。


きっちゃんはなんなのだ?

な、なんだとは?

皆目検討がつかない。何か気に触ることしただろうか?

???を飛ばしていると、ゆきんこは続ける。


つっきー先輩やロギアさんのバレンタインを嬉しそうに受け取っていたのだ

二人とも美味しそうに出来ていたし、ラッピングも綺麗だったのだ

このチョコも嬉しそうだったし

僕のだけ、綺麗じゃないしラッピングすら出来ていないのだ

なのに、美味しいそうに食べるなんてきっちゃんは変なのだ!

ゆきんこはガリガリと齧り、次から次へとチョコへと手を伸ばす。


お、おい。まだそのチョコ、一口も食べてない!

知らないのだ!

元々、入っている数が少ないチョコレートが、あっという間になくなってしまう。

最後のチョコを、ゆきんこが口に運ぼうとしている所を手首を掴んで、俺の口に突っ込む。

勢い余って指先ごと口に含んでしまったのは仕方ない。チョコが意外と取れなくて、舌を使って軽く巻き取る。そのあと、引き抜いた指先にチョコが付いているのに気がつき、ついペロリと舐め取った。


き、きっちゃんのエッチー!!

ぐほっ

軽く突き飛ばされ、肘を着いたタイミングでゆきんこに殴られた。運悪く、鼻を強打して鼻から流れるものを感じた。


いって~

ご、ごめんなのだ

俺が鼻から出たものを確かめると、ゆきんこは慌てた様子で謝り、ティッシュを手渡してくる。

案の定鼻血で受け取ったティッシュで鼻を押さえた。


俺は大丈夫だから、手を洗ってきな~

ひらひらと手を振って大丈夫アピールをすると、ゆきんこはホントに大丈夫なのか?

と確認をとって、そろりと控えめに立ち去った。


指先に着いたチョコを舐めとる癖が、仇となったようだ。

そんなにダメかな~?

そう思いつつ、ゆきんこで想像してみる。昼間のゆきんこを思い出した。

涙目で見上げる可愛い顔、少し開いた口にチョコを入れる。モゴモゴと口を動かして指に舌が触れ、チョコがなくなった指にペロリと舐める。



いかん、意外とくるものがある。

急に恥ずかしさが勝って、もう片方の手で顔を覆って気持ちが落ち着くのを待つ。

そもそも、ゆきんこが俺にくれたハズのチョコを食べたのが原因のハズ。

あれ?おかしいな?と思っていると、ゆきんこが控えめに炬燵に戻ってきた。


血は止まったのか?

ああ、大丈夫。とりあえす、鼻栓で止まると思う

その返事を聞いて、俺の左手側の方から炬燵へと入る。

無自覚とはいえ、さっきのことがあるから離れるのも仕方ない。でも、さっきまであった温もりが消えると、寂しいものがある。


なんで、ゆきんこは怒ってたんだ?

きっちゃん、バカだと思っていたけど、やっぱりバカなのだ

バカバカ言われると流石にへこむんだけど?

本当にわからない?

うん

そう返事を返すと、頭を抱えるような仕草をする。少し、悩んでいる様子の横顔を見て、肩から流れるさらりした髪、造形の整った綺麗な顔。

可愛いだけじゃない、綺麗なゆきんこ。

改めて、一緒にいられることに喜びを感じる。一人、ぼんやりと思っていると、ゆきんこが話し出す。


きっちゃん、つっきー先輩とロギアさんのチョコ受け取ったのだ

そうだな

で、そのあと移動中に嬉しそうにしていたのだ!

嬉しそうに?

そうなのだ!嬉しそうにしてたのだ!

ロギアさんの時は、確かに和菓子は綺麗で美味しかったのだ。それは間違いないのだ!

でも、とゆきんこは言い淀む


二人とも美味しいのは間違いなくて、しかもラッピングが綺麗で、

僕は始めて作って美味しいかわからない歪なチョコ、ラッピングしても二人ほどうまく出来ないのは分かっているのだ

ゆきんこが段々と声が小さくなっていく。


だから、手作りよりも買ったチョコの方が喜ぶんじゃないか?って思ったのだ

ゆきんこはさっき自分が食べたチョコ箱をを手に取る。


きっちゃんは喜んでたのだ。だから、

そりゃあ、ゆきんこから貰ったものだぞ?普通喜ぶだろう?

俺がまだ?を浮かべていると、ゆきんこはため息をつく。

なんでだよ

内心そうごちながら、続きを待った。


美味しくて、綺麗に整った物の方が喜ぶと思ったのだ

だから、なんで

移動中、きっちゃんが嬉そうって言ったでしょ?だから、余計に僕のと比べたら、

言葉が尻すぼみなっていく。


じゃあ、さー。俺が手作りした何かと他の人の買ってきたプレゼント。どっちが嬉しい?

それは、きっちゃんの方が嬉しいのだ!

だろ?どこが違う?

違わないのだ

そっか、と納得して自信を取り戻したように見えた。だから、昨日と今日の出来事を整理して、ちゃんと分かって貰おうと思った。


昨日、ゆきんこと一緒に買いに行って俺、嬉しかったんだ

なんなのだ?急に

まー、うまく説明出来ないのは知ってると思うから、とりあえず思ったことを順番に言っていくわ

だから、少し聞いて?

分かったのだ



ゆきんこが帰ってきて、二人で出掛けても長い時間は取れないし、大型があったりで、ゆっくり出来てなかったと思う

だから、昨日は荷物持ちでも、一緒にいられると思ってたんだ

運転している時も、ゆきんこが月見から貰った袋を見て、喜んでるだろうなって勝手に思ってた

ゆきんこ、可愛いの好きだろ?

可愛いのは好きなのだ

だから、嬉しいだろうなってこっちまで嬉しくなってたと思う


ロギアの所からペールノエルへの運転中もロギアから貰って、喜んでると思ってた

でも、どこか上の空で変だとは思った

ゆきんこに聞いても、なんでもないって言ってただろ?

ゆきんこはこくんと頷く。


いつか話してくれるのを待つしかないじゃん?

だから、待った

そしたら、ゆきんこが怒って大事なチョコを食べ尽くしたんじゃん

そこは口を尖らせて盛大に拗ねさせてもらう。

それに、と俺は続ける。


ホントは、ゆきんこ以外のチョコは受け取る気はなかった

でも、月見の時はゆきんこがいて、断ると角が立つと思ったから、あとでゆきんこに渡そうと思ってた

ロギアの分も、俺はそう言って横に置いていた2つをゆきんこに渡す。


なんでなのだ?

何が?

二人ともいい人なのだ。なんでいらないのだ?

なんでって

俺は苦笑を含んで笑ってしまう。


俺にはゆきんこがいるじゃん?ゆきんこのしかいらない

寧ろ、必要ない

俺がきっぱりと言いきると、ゆきんこの顔が真っ赤になっていくのが、また可愛い。


昨日、ゆきんこが一番に俺にくれたチョコ

すごく、嬉しくてすぐに食べられなかったんだからな!

再び、拗ねた声で抗議すると、ゆきんこが逆にシュンとしてしまった。


ごめんなさいなのだ

うん、いいよ

かるっ

と言いかけたゆきんこだったが、俺が立ち上がって、ゆきんこの右隣に腰を落とす。


俺もさっきはごめん

つい、自分の指みたいにしちゃったから、さ

俺が歯切れ悪く、そう言うとゆきんこも思い出したのか、再び顔を赤くする。

お互い目が合って、苦笑する。


だから、仲直り!ゆきんこ、左手を出して

右じゃないのか?

そう、左手

少し、不思議そうな顔をして手を出してきた。俺はその手を取り、隠し持っていた物を手首に着けた。

ゆきんこは驚いた様子だったが、構わず俺はゆきんこを正面から抱き締める。


ハッピーバレンタイン、ゆきんこ

き、きっちゃん!?

ゆきんこは動揺して、どうするべきか手が泳いでいる。

そんな様子に、少し笑ってしまう。


笑うなのだ

ゆきんこはそう言って、俺の肩に顔を隠す。その間に迷っていた手はそっと服を掴んでいる。

その可愛さにグリグリと頭を擦りつけたい気持ちをグッと我慢して、それにしてもと、俺は言葉を紡いだ。


痩せすぎじゃない?ゆきんこ?

そんなことないのだ~

え~、ホントにぃ~?

ホントなのだ

どれどれ


俺はそう言って、抱き締めていた腕を回してゆきんこを持ち上げる。

わっ、と声をあげながら、先ほどの席へ座り姫抱っこ状態で俺の膝へと下ろす。


今日はなんなのだ~

動揺しているゆきんこに笑って、頬に人差し指を挿す。前は柔らかな頬だったのに、痩せて頬骨を感じる。

俺はふぅーとため息をつき、首を振る。

ガサガサと先ほど渡したカップケーキを手に取り、ゆきんこの口へと運ぶ。

ゆきんこは戸惑いつつパクりと口にし、モゴモゴと咀嚼しつつ抗議の目を向けてくる。カップケーキを持つために手を伸ばしてくるので、そのままゆきんこに渡す。


なぁ、ゆきんこ~

なんなのだ?

カップケーキが美味しいのか、モグモグと美味しそうに食べ始めていた。やはり美味しい物に目がないらしい。


体調は大丈夫なのか?

もう、治ったのだ?

?とゆきんこは首を傾げる。

その仕草は可愛い。でも、軽く手を引くだけで以前は倒れるような事はなかった。だから、軽すぎるゆきんこの心配が頭にちらつく。

しかし、ゆきんこが嘘をついている様子もない。

なら、これから元通りの体力を戻さないとな!

俺はそう心に決めて、ゆきんこに今度は月見のブラウニーを口に運ぼうとする。


きっちゃん、まだケーキ食べてるのだ

と言って口の中を空にして、返事をいるのを確認していたから、開いた隙間からそっと差し込む。

ん、

差し込まれたブラウニーを手放せば、落とさないように、もう片方の手で支えてモグモグと口を動かしている。

やはり美味しそうに食べている。


差し出した物を美味しそうに食べている姿を見ていると、形容しがたい何かを感じている。可愛いだけではなくて、他にも感じるこの感情はなんだろうか?

不思議だけど、嫌な感情ではないのは間違いない。でも、今の姿を他の人には見せたくない、話したくないという気持ちも少なからずある。

これが占いで言っていた、独占欲なのかはまだハッキリ分かってないが。


ゆきんこ、美味しい?

うん、きっちゃんも食べるのだ

ゆきんこが新しいカップケーキを差し出すけれど、そんなに沢山は食べられない。

俺はゆきんこの口元に付いた大きめの破片を取り口に入れる。

確かに美味しい。


上手いな、でも

俺はそう言って、ゆきんこの手作りに手を伸ばし、チョコを口に運ぶ。


俺はゆきんこのチョコがいい

モゴモゴと食べなから、ゆきんこに返事を返すと真っ赤なリンゴになっていた。


ん?どうした?

もう、ホントに

ゆきんこがぷるぷると震えて、一度大きく息を吸い込んで、

きっちゃんのバカー!?


大きな声で叫び、近くにあったクッションでポカポカと俺は殴られる。


いたた、なんでよー

知らないのだ!自分で考えるのだぁ!

クッションなので、痛くはない。そこまで叩かれる意味が分からないが、ゆきんこが元気で怒ったり笑ったり出来ていることに安堵する。

時おり、左手首にさっき着けたブレスレットがチラリと見える。

それを見て喜んでいると、

また笑ってるのだぁー!

と、ゆきんこの怒りを買ってしまい、もうしばらくは叩かれるのだった。




きっちゃん、このブレスレットのことすっかり忘れてたのだ

数日後、ゆきんこはそう言って、左手首を見せる。そこにはバレンタインの日にあげたブレスレットがある。

ピンクの花の形にカットしたブレスレット、そのうちの一つだけ青の石だ。


手作りって言ってたの、ホント?

ホント、ホント~

きっちゃん、不器用そうなのに意外なのだ~

ゆきんこは不審そうな目で俺のことを見る。

ホントは言いたくないんだけど、でも誤魔化すよりはいいか、と本当のことを話す。


本当はバラを作ったんだけど、どうしても花にしかならなかったの!

俺はそう言いつつ少し恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。

...

無言の時間にたえきれず、俺は行動する。


いらないなら、返してもらお!

いらないとは言ってないのだ!

俺が冗談でゆきんこの手首に手を伸ばせば、慌てて手を引っ込める。


これは僕が貰ったのだ!ダメなのだ!

ゆきんこの渡すまいとする姿に、可愛さと嬉しさで贈って良かったと安堵する。


なら、大事にしろよ~

世界で一つの手作りなんだからな!

うん!きっちゃん、ありがとう!

喜んでもらえて良かった。

二人で、こうやって笑い会えることがとても大切な時間だな、と俺は改めて噛み締めた。








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